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0045 悲痛な叫び

「おおっ!! 急に馬車が静かになりました」


「ふふふ、俺達の昼飯がガタガタしないように、少し宙に浮いてくれたようだ」


「なっ!! なんとその様な事まで出来るのですか?」


「できるさ。レンちゃんも飛べるはずだ」


「……」


レンは、返事の代わりに小さくうなずきました。


「ぷふっ」


執事のお爺さんがおかしそうに吹き出しました。


「ペルデイドさん、どうしたんだ?」


「レイカ様とは、すごいお方ですなあ。どれだけの魔法を使うのでしょうか」


まったくー、誤解ですよ! 私はゴーレム魔法しか使えません!


「やっと、わかってくれたか」


「はっ、旦那様が惚れ込むのが良く理解出来たように思います」


「実はなあ俺は、レイカ様が見た目は幼女だが、千年を生きた大魔法使いじゃ無いかとにらんでいる」


「なっ、なるほど!! そう言われれば幼き頃に聞いた事があります。大魔法使いは不老不死だと」


ちっ、違います。

何を言い出すのでしょうか。

そんな、おばあさんじゃありません失礼すぎます。


「しかし、この唐揚げという食べ物はうまいなあ。行商に行くから試食品を作ってくれと言ったら、レイカ様が張り切って色々な料理を滅茶苦茶な量作ってくれた。足りなかったら言ってくれ、じゃんじゃん出してやる。レンちゃんお替わりをくれるかい」


「……」


レンはお替わりに野菜サラダを出しました。

ふふふ、唐揚げばかりでは栄養が偏ります。

ちゃんと野菜も食べないとね。よい判断です。

それにしても、私は試食品を作ったのであって、あなた達の食事を作ったつもりはありませんけど。


「違う違う、俺は野菜が嫌いなんだ!!」


「……」


レンは首を振ります。


「じゃ、じゃあ、野菜たっぷりのお味噌汁じゃあだめかなあ」


「……」


レンは野菜サラダをしまって、お味噌汁を出しました。

どうやら、レンはお味噌汁ならいいと判断したようです。


「私にもおなじ物をお願い出来ますかな」


お爺さんの執事さんが言いました。


「……」


レンはもう一つ野菜たっぷりのお味噌汁を出しました。


「なあ、ペルデイドさん、気がついているかい?」


「えっ!?」


「その様子じゃあ気が付いていないな」


「は、はあ」


「ふふふ、ゾング家では今、食事は全てヤマト商会で手に入れたものを使っている。そうしたらどうだ、俺は筋力が戻って、歳が十才ほど若返った気がする」


「はっ!? そ、そう言われてみれば、私はずっと腰痛とひざの関節痛に悩まされていましたが、それが全く無くなっています。今、言われて気がつきました」


「ふふふ、で、あろう。レイカ様の料理は美味しいだけでもすごいのに、このような薬効まであるのだ。世界中の貴族や王族には体の悪い者が多い。ひひひ、この料理を食べさせたらどうなると思う」


「おっ、おおおーーーっ!!!! もはや、ヤマト村の作物しか食べられなくなりますなあ」


「ふふふ、そういうことだ。暴利、いや、爆利が見込めると思わないか」


「ま、まさに……」


うーーん、おじさん二人が悪い笑顔になっています。

でも、さすがは悪徳商人のゾングさんです。

こんな事を、よく気がついたものです。

御褒美に爆利には目をつむりましょう。ヤマト村の商品が売れれば私は満足です。

でも、このままでは商品が足りなくなるかもしれません。

農地の拡大をしないといけませんね。


「止まれーー!!!! 止まれーーーー!!!!」


どうやら、さっきの賊の仲間が待ち構えていたようです。


「ほう!! 大勢だなあ!!!!」


ゾングさんは、お味噌汁のお椀を持って窓を覗きました。


「……」


レンは馬車の扉を開けて外に出ました。


「では、久しぶりに俺もやるかな」


ゾングさんが剣とお椀を持ち外に出ようとしました。


「てっ、てめーー!! 飯を食いながら出てくるとはいい度胸じゃねえか!!!!」


賊の親分でしょうか? すごい勢いで怒っています。


「……」


レンが慌てて、ゾングさんを馬車の中に押し込みました。


「うわちちち、レンちゃん何をするんだ!!」


少しお味噌汁がこぼれたようです。


「……!!!!」


レンは両手でゾングさんを押して、すごい勢いで首を振っています。


「わかった、わかった!! ちっ! これでも俺は少しはやるんだがなー」


あー、確か……そう言ってましたねえ。

でも、足手まといです。

相手は三百人ほどいますよ。

このあたりの賊が全員集ったのじゃないでしょうか。


「こ、こ、このやろーー!!!! 飯を食いながらの次はドレスの女が一人で相手をするだとーーーーーーーー!!!!!! ハリネズミにしてやるーー!!!! 弓隊、撃てーーーっ!!!! 女も馬車も馬も撃ち殺せーーーー!!!!」


半分の賊が弓を構えて矢を放ちました。

矢の雨が降ってきます。


「なっ!!!???」


賊達が驚いています。

馬に当たった矢も馬車に当たった矢も、突き刺さる事もなく全部弾き飛ばされて地面に落ちていきます。


「ひゃはは、この馬も馬車もレイカ様の作った物だ!! 矢などが効いてたまるかよー!!」


「すっ、すげーーーっ!!!!」


賊達がレンを見て感心しています。

レンは、自分に飛んできた矢をすべて手ではたき落とし、何事もなかった様に立っています。

レンの回りは矢の水たまりが出来上がっています。


「ばっ、ばっかやろーー!!!! 感心している場合じゃねえ!!!! 全員かかれーーー!!!!」


「……」


その言葉を聞くとレンは移動を開始しました。


「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」


賊達から悲鳴が上がります。


「だ、旦那様!!!! こっ、これは……すごい!!!!」


「ふむ、これ程とは!! 俺の目には白い帯が賊の間を動いているようにしか見えない!! フト国の伝説が真実だとわかる。これは、千でも万でも時間が違うだけで全滅してしまうだろうなあ。これを止められるのはフト国の神将か、アーサー様、イザミギ様だけだろうなあ」


「ゲッ、ゲホッ、ゲホッ、な、なんなんだーーーー!!!! お前達はなんなんだーーーー!!!!」


賊の親分が胸を押さえて叫びました。

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