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0046 うれしい出来事

「よかったなあ。お前だけはレンちゃんに、やさしくしてもらったようだなあ。他の奴は骨が折れているのに、お前だけはけががないようだ」


馬車からゆっくりゾングさんが降りながら賊の親分に言いました。

そして、ゾングさんはレンに近づき耳打ちをします。


「……」


耳打ちをされたレンは、少し大きめの木の箱を出します。

ゾングさんは、その箱を指さして言います。


「ここに、金貨が満タンに入っている。これをやるから、これを機会に賊などやめて真っ当な仕事についたらどうだ」


「な、なにぃーー!!!!」


「ふふふ、今なら、サイシュトアリ国もフト国も兵士を募集している。雑兵ならすぐにでもなれるはずだ。騎士団だって試験をパスできりゃあぁ入団できるぞ。ここも近くサイシュトアリ国の領地になるだろう。そしたら、捕まえられて縛り首だ。サイシュトアリ国は賊には情け容赦は無いぞ。俺だって、これ程上機嫌じゃ無ければ、こんなにやさしくはない。ふふふふふふ……何故俺がこれ程上機嫌か聞きたいか?」


「いや、別に……」


賊の親分は特に聞きたくはなさそうです。


「そうかー!! 聞きたいかーー!!」


うれしそうにそう言うと、執事のお爺さんを見ました。

執事のお爺さんは真っ白な手袋を両手につけました。

そして、ゾングさんも白い手袋をはめます。


「レンちゃん! 紫龍刀を出してくれ」


「……」


レンは執事のお爺さんの、差し出した腕の上に紫龍刀の入った、立派な箱を置きました。

ゾングさんはその箱の蓋を開けると、中から紫にキラキラ輝く刀を出しました。

どうやら、誰かに自慢したくてしょうがなかったようです。


「見ろ、この刀を!!!!」


刀を箱から取り出すと、両手でうやうやしく頭の上に持ち上げました。


「おおおぉぉぉ!!!!」


賊達は一目見て、低い感嘆の声を出しました。

その声を聞くとゾングさんは、満足そうな顔になり刀を箱に戻しました。

あまり、外には出しておきたくないようです。


「この刀は、お前達も知っているだろう、あのレンカの宝刀を作ったレンカ様の最新の刀だ。世界でも数本しかない、まさしく天下の名刀だ。ふふふ、あのレンカの宝刀すら真っ二つに出来る刀だ」


「な、なにーー!? 嘘をつけ!! レンカの宝刀は鉄の鎧でも楽々切り裂く天下の名刀だ。それを真っ二つに出来る刀など無い!!!!」


「くくくっ!! はあーはっはっはっ!!!! これだから田舎者は……ふふふ、そのうちにお前達の耳にも入るはずだ。レンカの宝刀を真っ二つにした紫の武器の事を。そしたら思い出すといい、このゾング様が同じ紫の刀を持っていたということを」


「ゾ、ゾングだと!? お前はあの、天下に名高い大商人ゾングなのか? いや嘘をつけ!! ゾングはいつも護衛を千人以上付けて大商隊で行動するはずだ。いつも俺達は手出しが出来ずに指をくわえて見送るしかなかった」


「ひゃーはっはっはっ!!!! そうだ、その千人の護衛より、つえーのがこの白い貴婦人、レン様なんだよ!! 一万の兵士よりつよいぞーー!! よく、そのにごった瞳に焼き付けておけ!!」


「なっ!! 嘘を……」


賊の親分は嘘をつけと言おうとしたようですが、今自分たちが体験したことを思い出して、その言葉を飲みこんだように見えます。


「一つだけ忠告をしておいてやる!! 仕官するならフト国かサイシュトアリ国にしておくんだな。この二つの国には、後ろに恐ろしいお方がついている」


「お、恐ろしいお方だと……」


賊の親分は、ゴクリと唾を飲みこむと体をブルッと震わせました。

どうやら二つの国の後ろには、とんでもなく恐ろしい人がついているようです。

私も気を付けないといけませんね。

私までブルッと体が震えました。




「レイカ姉!! お漏らしですか!!」


私がブルッと震えるのを見て、チマちゃんが言いました。

おかげで、サイシュトアリ国の国境のむこうの北の荒野から、一気にサイシュトアリ国王都のヤマト商会のお店に意識が引き戻されました。


「はあぁーーーーーーっ!!!!」


つい、ヤンキーのようにチマちゃんをにらんでしまいました。


「ひゃっ!!」


それにしても、フト国とサイシュトアリ国のバックにいる恐ろしい人とは誰なんでしょうか? こわいですね。


「私は、チマちゃんのお漏らしの始末をしたことはありますが、私がお漏らしをしたことは無いはずです」


「はわわわわ」


チマちゃんがあせっています。

男のふりをしていても、やっぱりチマちゃんは可愛いですね。

昔のままです。


「さて、私は農地を広げて、農業に力を入れないといけないようです。誰かここのお留守番をお願いしたいのですが」


さっきのゾングさんの話しぶりでは、近い将来ヤマトの農産物のブームが来そうです。

今のうちから準備をしておいたほうが良さそうですね。

視線をチマちゃんに向けました。


「わた、僕はレイカ姉のそばを離れない」


「そうですか、じゃあ他のみんなは?」


私は、シノブちゃんとヒジリちゃんを見ました。


「俺もレイカ姉の側を離れない」


「シノブちゃんも駄目ですか。じゃあ……」


「おらも、嫌だ。レイカ姉のそばがいい」


うふふ、野沢○子さんみたいな言い方で言いました。


「じゃあ」


私は、視線を玄関の横に立っているイサちゃんを見ました。

紫のフルプレートの鎧をつけたイサミちゃんの体がビクンと反応し、首をブンブン振っています。

うーーん、こまりましたねえ。


「あ、あの……」


イオちゃんの侍女の金髪が美しいマリーちゃんが声を掛けてくれました。


「はい?」


「私達ではいけませんか」


アメリーちゃんとソフィーちゃんも加わり、イオちゃんの三人の侍女さんが私に顔を近づけてきます。

近い近いです。

やる気満々のようです。


「でも、よろしいのですか。その、侍女のお仕事が」


「大丈夫です。一人の龍人が、いつも側にいるので私達の仕事は半減しています。それにイオ様に言えばきっと二つ返事で良いと言って頂けるはずです」


イオ様の龍人とは私の作ったゴーレムの鉄人、レイの事です。


「いいですよーー!!!!」


お店の棚の影から、イオちゃんが声を出しました。

あんたもいたんかーーーーい!!

最近この四人は、私のお店で良く見ます。どうやら入り浸っているようです。


「では、お願いします。報酬は……」


「私は鉄人が欲しいです」


三人の声がそろいました。


「えーーっ!!!!」


私は驚きました。だって安すぎです。

鉄人なんて元をただせばくず鉄です。

タダみたいなものです。

安すぎですよね。


「やっぱり、駄目ですか。ではお金で……」


すごくしょんぼりしています。

そんなに鉄人が良いのでしょうか?

私が鉄人を貴族に渡さないのは、奴隷の様に扱われると考えての事です。

この三人なら、そんな扱いはしないに決まっています。


「いえ、そうではなく、安すぎないかと……」


「はあぁぁぁーーーーーーっ!!!!!!」


三人がヤンキーのような目つきになり私をにらみ付けてきました。


「レイカ姉様は何を言っているのですかーーーー!!!! レイカ姉様の鉄人は国宝級ですよ。もっと理解して下さーーーーい!!!!」


完全に三人の声がそろっています。

大きな声が店内に響きました。


「は、はい。で、では三人に専用の鉄人を用意します」


「わあああぁぁぁーーーーーーー!!!!!! やったぁぁーーーー!!!!!!」


三人が飛び跳ねて喜んでくれます。

こんなに喜んでもらえるのなら私もうれしいです。

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