目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第10話

「ふぁ〜、ずいぶんと寝た気がするな。ん?ここは?」ふ


 目覚めると吾輩はピンクのフカフカのベッドに横たわっていた。


 まさか今度こそ人間に……


「あっ!ダーリン!ダーリンが起きた、良かった〜」


 ふふ。まあ、そうであろう。そんな都合の良い話などない。


 サーヤは吾輩が目覚めると甘えた声で鳴き、寄り添い毛繕いしてくれた。これがなかなかに気持ちいい。


 おい、変な想像はするなよ。そんないやらしい感じではないからな。


「あっ、起きたんだね!」


 サーヤが甘えた声を出していたのが王女にも聴こえたようで、駆け寄って吾輩の頭を優しく撫でた。


 これもこれで気持ちいい。だから変な意味ではないからな。大事な事だから二回言っておいたぞ。


「三日間も寝てたから心配してたよ。君のおかげで助かったわ。ありがとう」


 王女は礼を述べると吾輩のもふもふの首元に顔を埋めた。


 おいおいおい。やはり色男スティンの魅力は健在であるな。だが吾輩に惚れると火傷するぞ。


 などと自惚れていると、バタンと大きな音を立てて扉が開いた。扉の方を見ると八世が嬉しそうに泣きながら微笑んで、吾輩を見ていた。


「お迎えご苦労であるな。というかここはどこだ」


「やっと起きたね。今回は王女を守って大活躍だったみたいじゃないか」


 まあ、通じないのはわかっているが。それにしても見覚えもないし、よくよく気配を探ってみると、わずかながら揺れている気がする。三半規管でもおかしくなったのか、猫なのに。


「落ち着かない?ここは船の中のサーヤたちの部屋よ」


「ん?船の中?なぜそんな所に?」


「帰ることになったみたい」


「帰る?サーヤの国にか?それは良いとしてもなぜ吾輩と八世が?」


「そんなにたくさん聞かれてもわかんないよ」


 吾輩の疾風怒濤の質問攻めにサーヤはプイっと横を向いた。やれやれまだ子供だし、詳しくはわからなくてもしょうがないな。


「それにしてもここまでしてもらっていいのですか?」


 ちょうど良く、恐縮気味に八世が王女に尋ねた。


「あなたもこの子も命の恩人ですもの。国に帰ってちゃんとお礼をしたいわ」


 なるほど、お礼がてら自国に招待しようということか。


「それに、あなたがまさかスティン様の子孫だなんて。日誌の他にも色々聞かせてね!」


 王女はそう小声で八世の耳元で囁いた。八世もまんざらでもなさそうに顔を赤らめているではないか。


 そうか、吾輩のファンなら詳しい事を聞きたいのも致し方ないな。


「サーヤ、吾輩が気を失ったあとのことわかる範囲で教えてくれないか?」


「サーヤがダーリンに言われた通り、叫びながらディーンを探してたの。それに叫べば誰か助けてくれるかなって思ったのに、みんな可愛い可愛い、って微笑むの。そりゃ可愛いけど……」


「なあ、サーヤ。遮って悪いのだが、もう少し簡潔に頼みたいのだが」


「 もう、しょうがないなあ。とにかく探して、あの橋の所まで行ったら、ディーンたら川べりに座ってサボってたんだよ、ヒドイよね!」


「ああ……まあ良いか。それで」


「すぐにディーンの所へ行ってひっぱたいてやったの」


「飼い主に似るとはこのことだな」


「ディーンは驚いてすぐに戻ろうと駆け出したの。そこでダーリンのご主人とも会えたのよ。なんか急いで帰ろうとしてたみたい」


「日誌が心配だったんだろう。これに関しては後で謝らんとな」


「戻ってきたら、アイツらもダーリンも水浸しの中倒れてて、姫がダーリンを介抱してあげてたのよ」


「そうであったか」


「姫はすぐにディーンに何が起きたか話して、アイツらを縛りあげたの。ダーのご主人はお城に戻って兵隊さんたちを連れてきて、アイツらを連れてったの」


「何処の誰かはわからんが王女を誘拐したり傷つけようとしたのだから重罪ではあるな」


「そんでお城の王様に呼ばれて、謝られて、姫はダーとご主人にお礼をしたいから連れて行くと言って帰国することに決めたの」


「よくわかった。ありがとう、サーヤ」


 簡潔にと頼んだのだが……そういえば呼び方は簡潔になっていたな。しかし状況は整理できた。


「じゃあお礼にサーヤも毛繕いして?」


 ん?こ、この毛むくじゃらを舐めろと?潔癖のスティンはそんなことはしないのだ。


「ダーのケチ!ケチケチケチ!」


 そんなこんななやり取りをしている間に、もう直船がエルダイル公国の港に到着するとアナウンスがあった。


「やっと着くのね!エルダイルは魚が美味しいのよ」


 もうサーヤの機嫌が直っている。女心と秋の空とは良く言ったものだ。それよりもずっと寝ていたせいでもう着くのかという感想しかない。それに魚は吾輩の好物の一つであり楽しみである。


 皆は揃って甲板へと飛び出た。青い空はどこまでも青く、白い雲は綿菓子のようである。柔らかく吹き寄せる潮風が心地よい。


 ニャーニャーと猫のように鳴く白い鳥たちと、王族の船に敬意の国旗を掲げた数多の漁船が出迎える。


「吾輩の頃から人の良い者ばかりであったがそれは今も受け継がれているようだな」


 吾輩は昔の事を思い出し、追憶に耽った。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?