コダタのペースに合わせながらゆっくりと歩き、教会の中へ入った。教会内には大仰な鎧を身に付けた、ファンタジー映画に出てきそうな騎士や、コダタの様に現代的な格好の人が合わせて三十人程いる。教会と言うと長机と長椅子が左右に列を成しているものだと思っていたが、それらは移動させられたらしい。長椅子は壁際に寄せられ、長机はそもそも見当たらない。代わりに作業台が幾つか置かれている。斜めの机では使いづらいのだろう。壁には宗教画、祭壇には誰かの像が飾られているが、キリスト教のものではなさそうな事くらいしか分からない。私のイメージする教会とは違うが、騎士団の拠点という観点から言えば、男ばかりでむさ苦しい空気が漂っている事もありイメージ通りといったところだ。
入口付近で鎧の騎士と現代服の人が二人で何やら話していたが、入ってきた私達に(と言うよりも苦しんでいるコダタに)気がつき、驚いた顔をして近づいてきた。
「大丈夫かコダタ⁉ 誰にやられたんだ」
と鎧の騎士。
「君が連れてきてくれたのかい? ありがとう」
と現代服。
コダタは頑張って喋ろうとするが、何度も咳を繰り返すため私が代わりに説明した。
「コダタさんは魔王ディサエルにやられました。その時、その……色々あって私もその場にいて……あ、私も魔法使いです。回復魔法を掛けたんですが、魔王の力が強すぎて全然効かなくって……。今もまだ首の周りに魔王の呪いが掛かっています。呪いを解くのが得意な方がここにいるとコダタさんが仰るので、お一人では大変だろうと思って、私も一緒に来ました」
「何⁉ 魔王にだと⁉ それは大変だ。早くその呪いを解かなければ!」
大仰な鎧を着ているだけあって、この騎士は驚き方も大仰だ。
「ロクドトは奥の部屋にいる。そこまでコダタを運ぼう。僕はこちら側から支えるから、君は彼女と変わってくれ」
私は騎士と交代し、重荷から解放された。魔法で支えていたとはいえ、自分より一回りも大きい人を運ぶのは疲れるのだ。
「もしよかったら、君も一緒に来てくれないか。ロクドトにコダタがどんな目に合ったのか説明してほしい。でも思い出すのが怖かったら無理をしなくてもいいよ」
「大丈夫です。私も行きます」
「ありがとう。さあコダタ、もう少し頑張ってくれ。君をロクドトの所まで連れていくよ」
コダタを両側から支えて歩き始めた騎士と現代服に続いて、私も教会の奥へと歩いていった。
奥の部屋、とやらまでの距離は大したものではない。だが苦しむコダタを支えながら歩いているため、普通に歩くよりは少し時間が掛る。また騎士の声の大きさもあり、コダタが魔王にやられた事、それを私が助けて共にここまで来た事はこの部屋にいる誰もが知る所となった。そのためその部屋に着くまでの時間は、人々が口々に魔王を罵ったり、私に対しても何か言っている事を聞き取るには十分すぎるほどあった。
「憎き魔王め」「何度痛い目を見てもまだ懲りぬとはな」「一刻も早く倒さねば」「ああ、そうだ。封印では駄目だ。息の根を止めなければ」「魔王の攻撃から助かるとは運がいい」「あの子が彼を助けたのか」「勇気のある子だ」「あんなにもか弱い女の子なのにな」「ああ、まだほんの子供だろう」「魔王と対峙した後だというのに、あんなに気丈に振舞っているなんてな」「きっと内心は怖くて仕方がないはずだ」
聞き取るには十分な時間がありすぎて……ムカついた。