「さあ、こいつの呪いを解く方法を探すためにも、キミの話を聞かせてくれ。キミと魔王はどういう関係だ?」
ロクドトはどっかりと椅子に腰かけながら聞いてきた。
「それは……呪いを解く事と何か関係があるんですか?」
何故そんな質問をされなければならないのか。この男と一緒にいるのが不快なのもあり、私は不信感を露わに聞き返した。
「キミもこいつも魔王と同じ空間にいたのに、こいつだけ呪いを掛けられ、キミは五体満足なんだ。誰だって気になるだろう。キミは見たところこの世界の人間のようだ。信仰心が無ければ魔法を使う事ができない神……魔王は、当然この世界で自分を信仰してくれる人を見つけなければならない。そこでかの魔王は魔法使いであるキミを見つけた。キミを説得させたのか、操ったのか……まぁ魔力が無い状態であれば操るのは難しいから説得したのだろうが、魔王はキミという信者を得た。つまりキミは奴の力の源だから、魔王はキミを攻撃しなかった。ワタシはこう推理したが、どこか間違っているか? いや、間違っていれば途中で反論しただろうな。ふん。キミが素直に言わないからワタシが言ってしまったぞ」
間違ってはいないが、間違っていたとしても一人でどんどん喋っていくから口を挟む余地が無かった。もし存在するなら、誰かこの男の取扱説明書を持ってきてほしい。途中で口出しできるのかどうか知りたい。
「キミも、ベッドで伸びているこいつも、扉の向こうの奴らも、愚か者ばかりだから気づいていないようだが、キミはとても危険な立場にあるぞ」
「……どういう意味ですか?」
一体今度は何を言い出す気だ。
「ワタシが天才で且つすぐ暴力に訴えるような野蛮人ではない事を感謝するんだな。いいか。キミが魔王に信仰心を捧げる限り、この世界で魔王は魔力を得て、魔法を使う事ができるんだ」
「それくらい知ってます」
「だとしても理解していない。キミの存在を消せば、魔王を無力化させる事が可能だと」
「それって……」
力をつけた魔王に相対する事なく、魔王を簡単に無力化させる方法。その方法に思い至った私は一気に青ざめ、吐き気すら覚えた。
「ワタシは治癒魔法の技術力の高さを認められてここにいる。戦う事しか頭に無いような野蛮人共とは違う。命を奪ったり、奪われたりというのは好きではない。だが奴らは平気でそういう事をする。あの馬鹿の馬鹿でかい声を聞いて、先程述べたキミと魔王の関係性に気づいたワタシは、キミもここに来るのは好都合だと思ったよ。こうして匿う事ができた」
私を命の危機から守っていてくれていたとは露知らず、先程までのロクドトに対する態度を恥じた。部屋を出ようとした時に見せた有無を言わさぬあの眼光には、私を守ろうとする意志が宿っていたのだ。
「でも……いいんですか? こういうのって、自分の神を裏切る行為になるんじゃないですか?」
「ふん。ワタシにとっては、カルバスは大勢いる神の一柱にすぎない。ワタシが信じているのはワタシの腕と頭脳だけだ」
どこまでも自分本位ではあるが、今は寧ろその一貫した姿勢に好感が持てた。数分前とは百八十度違う印象を抱いたこの人物に、私は感謝の言葉を述べた。
「ああ、そうやって褒め称えるがいい。それが愚か者の仕事だからな」
やっぱり前言撤回していいか?