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第30話 侵入!イェントック④

 一応仕事だからな。と言ってロクドトはコダタに掛けられた呪いを解く作業を始めた。


「キミ、どうせ暇だろう。少し手伝ってくれないか。患者の頭を抑えながら顎を上げてくれ」


 反論する暇を与えず指示を出してきた。気道確保の事を言っているのだろうか。とりあえず言われた通りにした。


「よし。そのままじっとしていろ」


 ロクドトは机の引き出しから何かを取り出し、それをコダタの首につけた。ぺったりと首に張り付いたそれは、白い光を放ち始めた。


「何ですか、これ」


 触るとぷるぷるしそうな、わらび餅の様な見た目のそれは、段々黒く変色していく。


「ワタシの発明品の一つだ。こいつを魔力に触れさせれば、少量ではあるが魔力を吸収する事ができる。吸収した魔力は……」


 真っ黒に変色したわらび餅を手に取り、ロクドトは続きを言った。


「ワタシのコレクションになる」


 一瞬だけ口角を上げてわらび餅を引き出しに戻した。治療用の道具でも何でもないのかよ。


「いやあ、魔王の魔力を分析するのが楽しみだ。神や魔王クラスの魔力を分析する機会なんて、一生に一度訪れるかどうかといったところだからな。まぁワタシは既に二度その機会が訪れているし、これはワタシが天才たる所以だろう。ああこら顎を上げる手を休めるな。これから棒を突っ込むんだから」


「えっ?」


 私に聞かせているのか独り言なのかも分からない彼の言葉にツッコミを入れる隙も与えてくれないまま、ロクドトは銀色の細長いL字の棒の、長い方をコダタの口に突っ込み喉まで通した。次はこれで何をコレクションする気だ。


 ブツブツと何か呟きながら、ロクドトは棒を持った手を繊細且つ慎重に動かしたり、短い方の先端から中を覗き込んだりする。その手から棒へは魔力が流れ込んでいる。身体の内側から呪いを解いているのだろうか。暫くしてその棒は引き抜かれた。


「これで喉の痛みは引いただろう。内蔵も無事だ。もう手を放していいぞ。キミが呪いと言ったこの魔法はまだ解けてはいないが、これについてはまたキミに質問したい。キミはただ魔力が見えるだけなのか、何の魔法を使用したかまで分かるのか、どっちだ」


「誰が魔法を使ったのかは分かりますが、何の魔法を使ったかまでは分かりません」


 質問の意図は分かりかねるが、今回は素直に答えた。するとロクドトは鼻を鳴らして「だろうな」と言った。素直に答えようが答えまいが、彼に馬鹿にされる事は決まっているようだ。


「何の魔法か分かればこれを呪いだなどと言う訳がない。騙す目的で言うのであれば別だがな。これは探知魔法だ。こいつがイェントックに戻る事を見越して掛けたのだろう」


 探知魔法とは読んで字の如く、何かを探る為に使用する魔法だ。この場合はコダタをGPS替わりに使っていた、と言った方が分かりやすいだろう。


「呪いじゃないなら、何でコダタさんはあんなに苦しんでたんですか?」


 今度は呆れたように溜息をつかれた。


「こいつには首を絞められた跡がある。キミがやったとは思えないから、魔王がやったのだろう?」


「はい」


「魔王の握力がどれ程のものか知らないが、魔力で増強させていたに違いない。だったら当然、相当苦しむ事になる。こいつが無事だったのは奇跡だな。キミが助けていなかったら、今頃ワタシはこいつを解剖しているところだ。だが……端から殺す気であれば、探知魔法を掛ける筈がない。魔王は初めからキミが邪魔をして、こいつと共にここに来る事を分かっていたのか? キミは一体どういう立ち位置にいるのだ?」

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