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第32話 スティルに会いに行こう①

 ロクドトが早く行くぞと言って歩き出してしまったので、モヤモヤしつつも(それとコダタをこのままにしておいていいのか気になりつつも)後についていった。この部屋に入ってきた時に使った扉を開けて先程の広間に出た。そのまま祭壇を横切ろうとした所で、アリスとギンズの二人組がこちらに駆け寄ってきた。


「ロクドト、コダタは無事か?」


 ギンズが不安そうな顔で訊ねてきた。


「ああ、苦しみからは解放された」


 その言葉を聞いたギンズはほっと息をつき、安堵の表情を浮かべた。


「それは良かった。ありがとうロクドト」


「苦しみからは、とは気になる言い方だな。完治してはいないのか? 完治していないのであれば、彼女を連れてどこへ行こうとしているのだ」


 反対にアリスは疑わしい目を向けてきた。


「ほう。キミも少しは頭が使えたのだな。そうだ。完治はしていない。いかな天才であれど、神の力には遠く及ばないという訳だ」


「……何が言いたい」


「何だ。やはり頭は使えないのか。頭の使えないキミにも分かるように言ってやろう。天才であるこのワタシでも、魔王の掛けた呪いを解くのは大変難しいのだ。彼女を連れてどこへ行くのかと聞いたな。呪いを解くヒントを得る為に、スティルに会いに行く。魔王の事をよく知るスティルであれば、何か呪いを解く方法を知っているかもしれない。呪いを掛けられた時の状況を詳しく説明してもらう為に彼女も連れていく。ここまで言えばキミの頭でも理解できただろう」


 途中で口を挟ませない為か、私と会話していた時よりも少し早口で声も張っていた。実際途中でアリスが口を挟む事は無かったが、ロクドトの失礼な物言いが気に障ったらしい。物凄い形相でロクドトを睨んでいる。と言うか周りの人たちも皆ロクドトを睨んでいる。


「スティル様、だ。何故貴様という奴はいつもいつもその様に無礼を働くのだ」


「本人から呼び捨てでいいと言われている。ならばスティルと呼ぶのが礼儀だろう」


「それは貴様が礼儀を知らぬから、スティル様が呆れてそう言っただけではないのか?」


「ふむ。スティルの呆れ顔なら何度も見てはいるが、ワタシの態度に関しては誰に対しても同じだから気に入っていると言っていたぞ」


「何だと……?」


 ロクドトとアリスの間……いや、ロクドトとこの空間にいるディカニスの団員たちの間には、今や一触即発の空気が流れている。薄々感じてはいたし、ロクドトの態度が態度だからそうなるのも無理はないが、ロクドトは殆どの団員から嫌われているようだ。ギンズは中立の立場に見えなくもないが、それでもロクドトのスティル呼びには眉をひそめている。


「キミがそうしてワタシを通せんぼしたいなら好きなだけすればいいが、その間もコダタは苦しみ続けるがいいのか?」


「ぐっ」


 いくらロクドトの事を嫌ってはいても、仲間の命が掛かっているとなると(本当は全然無事なのだが)引かざるを得ない。その事に気がついたアリスは一歩引いた。


「ロクドト。君の腕の良さはここにいる皆知っている。だが君の態度は目に余るものがある。私達相手ならいいが、スティル様にはくれぐれも失礼の無いようにするんだぞ」


 代わりに一歩踏み込んだギンズがロクドトに警告した。対するロクドトはふんと鼻を鳴らしてまたすたすたと歩き出したので、私は急いでその後を追おうとした。だが誰かが私の腕を掴み、それを阻止した。反射的に振りほどこうとしたが、掴む力が強くてそれもできない。その腕の先を見上げると、アリスが怪訝な表情で私を睨んでいた。


「待て。君はロクドトと一緒にいたから、奴の言葉が本当かどうか知っているだろう」


 ヤバい。どうしよう。ロクドトには口で勝てないからと私に矛先を向けてきた。


「本当かどうかって……何の事ですか」


 嘘がバレないように、慎重に言葉を選んで返さなければならない。


「コダタの事だ。スティル様の事を聞いても、何も知らない君には何も分からんだろう」


 それもそうだ。コダタの事を、何と言おう。


「コダタさんは……あの時、魔王に首を絞められていました。それが原因となっていた苦しみは、ロクドトさんが治しましたが……その、首の周りの呪いが、どういう呪いなのか分からなくって、それでスティルさ、様に、会いに行こうとなりました」


 デカくてゴツいのに腕を掴まれ鋭い目つきで見降ろされながら嘘をつくのはこれっきりにしてほしいものだ。滅茶苦茶怖い。


「アリス、そのくらいにしろ。彼女怖がってるぞ」


 気づいてくれてありがとうギンズさん! ギンズのお陰でアリスが手を放し、すまないと形だけの謝罪をした。


「本当は部外者をスティル様に会わせるべきではないが、非常事態だ。失礼な態度はとるなよ」


「……はい」


 ロクドトのせいで私まで嫌な視線を浴びせられながら、それでもスティルに会う為に、ロクドトの入っていった扉を開けた。


 扉を開けた先は医務室と同じような小部屋になっており、その先にもまた扉があった。ロクドトの姿が見当たらないと思ったら、扉の陰になる場所で壁にもたれていた。


「もしかしたら本当の事を言うのかと思ったが、キミも目的の為なら嘘をつくタイプのようだな。さあ、この扉を開けるとすぐ下り階段になっている。踏み外して怪我をするなよ。いらん仕事が増える」


 誰のせいで嘘をつく羽目になったと思っているんだ。だが反論する暇もなく扉を開けて階段を降りていくので、私もその後に続くしかなかった。まぁ扉の前で待っていて下り階段の警告をしてくれただけの優しさはあるようだから、今回は許してやろう。でも最後の一言は余計だ。

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