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第40話 騒動③

「ま……魔王だ!」


「魔王ディサエルだ!」


「奴を捕らえろ!」


 突然現れた魔王に驚いて一時停止していた騎士達が、一斉にディサエルに飛び掛かる。


「おいおい、お前らこいつの話聞いてなかったのか? オレは創造と太陽を司る神らしいぜ?」


 騎士達の斬撃や魔法を、ディサエルは難なく交わす。


「魔王である事の否定にはなってないから、仕方ないよ」


 スティルは私の手を取って攻撃の輪から抜け出しながら、背後のディサエルに声を掛ける。


「確かになぁ!」


(納得しちゃうんだ……)


「それじゃあここは魔王らしく、皆殺しにでもするか?」


 魔王らしく高らかに笑いながらそう言うと、ディサエルを攻撃していた騎士達はビクリとその身を震わせ手を止めた。その隙をついてディサエルは反撃した。


「さっきまでの威勢はどうした!」


 ディサエルが指を鳴らすと、騎士達は鎧に磁石でも仕込まれたように手足をピッタリとくっつけて床に転がった。


(『全身金縛り』の魔法だ……! 一度にこんな何人も……!)


 本当に皆殺しにしたらどうしようかと心配したが、人に危害を加えないという禁止事項を守ってくれた。


「弱い物虐めをしたって、つまんねぇだけだろ? それにお前が殺さないでほしいと願ったから、オレは神としてその願いを聞いてやったんだよ。感謝しろ」


「ありが……あ、でも学校でコダタさんを攻撃したじゃん。凄く苦しんでたよ。私あれ許してないから」


「でもその方が臨場感出たし、お前は自然と奴を助けようと思ったし、奴はお前を信用してここまで連れてきただろ。んで、オレはこうしてお前達を助けに来る事ができた。ほら、感謝しろ」


「結果論は聞いてない! あそこまでする必要があったのかを聞いてるの!」


「だって」


「だってじゃないよ! あの時凄く怖かったんだから!」


「……それは、すまなかった」


 勝った! 初めてディサエルに口で勝った!


「何に喜んでるんだよ……」


「もう、ディサエルったら。翠を傷つけるような事しちゃ駄目だよ。素直で優しい良い子なんだから」


「オレは何でお前からも責められてるんだ?」


「翠を酷い目に合わせたから」


 その場で見てないくせに。とディサエルはぶつくさ文句を言った。


「ところで、こいつらは全員ここで転がったままで大丈夫か? 仲間になってくれる様な奴がいたりはしないか?」


「あ! ロクドトさん!」


「誰だそれ」


「わたしの使徒だよ。あそこにいるボロ雑巾みたいなの」


 確かにそう見えなくもないが、言い方というものがあるだろう。ディサエルは他の騎士達を避けたり、飛び越えたりしながらボロ雑巾……もといロクドトが転がっている所まで行き、彼に掛かった魔法を解いてやった。


「まったく……何故ワタシまでこの様な目に合わなければならんのだ」


「お、一言目から文句か? いいぜ。気に入った」


「キミが……魔王か? 思ったより幼いな」


「その文句は気に入らないな。スティルの使徒だってんなら、オレの見た目の年齢も同じだって分かるだろ」


「ふむ。確かにそうだな。ワタシが浅はかだった」


「分かればいい」


 よいしょ、とディサエルはロクドトの首根っこを掴んで持ち上げ(何故この双子は首ばかり狙うのだろうか)、彼を立たせた。


「さあ、これからこの四人でどうする? そろそろ第二波が来る頃だと思うぜ?」


「第二波?」


 ディサエルの言葉に疑問を抱いていると、廊下の方からまたもや複数の足音が聴こえてきた。先程よりは足音が軽い事、今ここにいる騎士達は皆鎧を着ている事から察するに、現代服の人達がこちらに向かっているのだろう。


「私、戦闘とか無理なんだけど……」


「ワタシも同意見だ。尤も、ワタシの発明品を使ってもいいと言うなら話は別だが」


「それじゃあわたし達でやっつけちゃう?」


「即席すぎて意見がバラバラだな……。ボロ雑巾」


 ディサエルがロクドトを指す。


「ワタシはボロ雑巾ではなくロクドトだ、魔王」


「そうか。じゃあオレはディサエルだ。お前の発明品ってどんなのだ?」


「睡眠薬入りの煙幕、一時的に全身を麻痺させる煙幕、蜘蛛の巣で絡めとる煙幕」


「それは煙幕なのか? てかお前は煙幕マニアなのか?」


「ふん。キミには煙幕が持つ無限の可能性が理解できないようだな。他にも色々あるが、どれもワタシにだけは効かない。裏を返せばワタシ以外の動物にはすぐに効く」


「あ、だから私の口を」


「あ?」


 ディサエルが凄い形相で私を睨んできた。


「お前、こいつに何かされたのか?」


「あ、うん。この部屋に入る前に、ロクドトさんが煙幕を投げて、その時に口を塞がれたの」


 嘘偽りなく事実を述べたら、ディサエルはロクドトの胸倉を掴んだ。


「テメェ、翠に何て事してんだ。おい翠。他に何か嫌な事されなかったか? そういう事は泣き寝入りするんじゃねぇぞ」


「おい待て魔王! ディサエル! 誤解だ! 確かに彼女の口を塞いだが、それは彼女が煙を吸わないようにする為であって、その後彼女にも理由は説明して理解は得られている! キミからも何か言ってくれ!」


 彼の言う通りではあるのだが……あの偉そうなロクドトが追い詰められているこの状況。正直に言おう。ちょっと愉快だ。


「あの時、見張りの人達に睨まれていた中で、突然口を塞がれて……怖かったです」


「いたぞ! スティル様をお守りし……魔王⁉」


「死ね‼」


「裏切り者おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」


 タイミングよくやって来た現代服姿の騎士達――現代服で騎士とは、何ともおかしなものだ――目掛け、ディサエルはロクドトを勢いよく放り投げた。ロクドトを投げつけられた騎士達は、ドミノのようにバタバタと倒れていく。


「惜しい仲間を一人失ったな。だがあいつのお陰で道は開けた。行くぞ」


「あなたの事は忘れないよ、ロクドト」


「良い人でしたよ、ロクドトさん」


「勝手に……ゲホッ……殺すな、キミ達」


「何だ。生きてたのか。だったらさっさと立て。先に進むぞ」


 何事もなかったような顔をしてディサエルは言った。


「何が創造と太陽を司る神だ。魔王の方が相応しいではないか……。キミも何故あんな事を言ったのだ」


「えー、その……怖かったのは事実ですし……ロクドトさんが追い詰められているのが、ちょっと面白くって……」


「キミも大概だな」


 ごめんなさい。


「もう、みんな! いつまでもお喋りしてないで、この子達が倒れてる間に早く行こうよ!」


「そうだな。行くぞ」

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