「現れやがったか、シャルク。ずいぶん遅かったじゃねえか」
「こっちにも事情がありましてね。配下の騎士団にここまでついてきてもらうわけにもいかなかったので、彼らを『処分』するのに少し手間取ってしまったものですから」
シャルクは弓を構えたまま、またがっていた馬から降りつつ不敵に笑った。ヤツの言う、近衛騎士団への「処分」がいったいどういう意味なのかは、俺には知る由もない。
(リュージさま……)
(エルミヤさん、小虎がどうなったかわかるか? 伍道との通信はどうだ?)
俺のそばに寄り添うように近づいてきたエルミヤさんに、俺は小声で話しかけた。彼女は、不安そうな顔のまま首を振った。
(おそらくあの矢が届く寸前に、お父さまの
あの小虎のことだ。伍道に任せておけば心配はないだろう。それにしても不思議だ。なぜこの車のカーナビ通信は、シャルクが近くにいるときに限って不調になるのか――――
「おいシャルク、てめえいったい何者なんだ?」
「何者? ……ハァ。あなたこそ何者なんですか。いきなり現れて『伝説の勇者』だなんて。あなたのせいで、私の計画がすべて台なしなんですよ」
「計画だと?」
「まあいいや。私もその車に乗せてくださいよ。こんなとこでボヤボヤしてたら、あっという間に全滅ですよ?」
上空に目をやりながら、シャルクは言った。小虎が首筋に攻撃を与え、息も絶え絶えになっていたはずの
「さ、早く
俺は運転席に、エルミヤさんは
この位置関係だと、まるで俺がシャルクの
「グンバリュージ……。『鋼鉄の軍馬を駆り、竜を司る者』、ですか。なるほど、たしかに伝説のとおりだ。でもねえ、あなたみたいな
「シャルクさま、あなたはいったい……」
エルミヤさんの問いかけに、シャルクは笑いながら衝撃の一言を返した。
「フフッ、エルミヤさん。じつは私もね、次元転移者なんですよ。ただし、あなたたちとは真逆で、
「私は昔、女関係でモメましてね。付き合ってた彼女たちと口論の末に、自分の住んでるマンションから突き落とされたんです。ところが、目が覚めてみたらそこは見たこともない場所。『ドラゴンファンタジスタ』っていうゲームの世界だったんです――」
なんと、この爽やかイケメン野郎が、まさか次元転移者だったとは! たしかにエルミヤさんも、そういう現象自体は「まれに起こりえる」と言ってはいたが。
「おまけに私、長い耳が生えたエルフの姿に転生していましてねえ。そこから苦労して苦労して、王都アリアスティーンにまでたどり着いた私は、そこからさらに努力を重ねてウランベル家の養子に迎えられ、
一言でさらっと述べているが、
「嫁も二人もらって、エルフの
「
「そのようですね。大変なお仕事です」
宮仕えってのは、
「そこで私、偶然に『
シャルクはそう言いながら、右手の人差指にはめられた指輪を自慢げに見せた。
「これはね、超古代魔具『マハラバキラの
「ちょ、ちょっと待ってください! シャルクさまがそのリングをお持ちということは、『
「そ。なんかぁ、そこにいっしょに封印されていた
「ですよねー、じゃねえよ! ってえことは、今回の騒動の原因は、ぜんぶてめえのせいじゃねえか」
あまりにも軽く、無責任に
「まあまあ。私も、
「
「そうですよ。あなたは正真正銘、レベル四十の
「どうしてそんなことを?」
「そりゃもう、こんなに美人で若くておっぱいも大きくて……。そのうえに家格も高いライモン家の令嬢にして、
急に興奮して、
「死刑が執行された後は、マハラバキラの
「俺か?」
「まさか、よりによって彼女を自分の戦闘奴隷にしてしまうなんてね」
「そ、それは……」
「とにかく、今はもう奴隷契約はなくなったようだし、さっさとエルミヤさんに
「なんだと?」
シャルクの目つきが変わった。弓矢を構えたその口ぶりも、冷酷非情そのものだ。
「私が
「そんなこと……できるわけありません! そもそも私、上級魔法もろくに使えないのに――」
「エルミヤさんの魔力は、完全にこのシャルクの支配下にあります。あなたは黙って、私の言うとおりにしていればいいんですよ。ま、あなたがこの男を
そう言いながらシャルクは、矢じりを俺の方に向けて弓を絞った。
「――――ねえ、エルミヤさんが上級魔法を使えないのって、ひょっとしてこれのせい?」
その時、エルミヤさんのかぶっている魔女のとんがり帽子の中から、レベリルがはい出してきた。手には、なにやら電子機器の基板のようなものを抱えている。
どうやら彼女は、エルミヤさんの帽子の中に身を隠していたときに、偶然この機械を見つけたらしい。
「な、なんだ? 妖精じゃないか!」
「あら。あなたまさか、ここに私がいること知らなかったの? ここで勇者さまを殺しても、私が
「……くっ!」
慌てたシャルクは、車のドアを開けて外に飛び出した。いまさら逃げてどうなるものでもないと思うが、計画が崩れてしまったことに、ただ取り乱しているといった感じだ。
「シャルク!」
後を追うつもりで俺もドアを開けようとしたが、そのとき急に頭上が暗くなったことに気がついた。
「うわぁーーーーっ! こ、こっちに来るなあーーーーっ!」
空の上から首を伸ばしてきた
続く