「やべえ! シャルクが
いつの間に、こんな傍まで接近を許していたというのか。
「ギシャオオオオン!」
「逃げるぞ、エルミヤさん!」
逃げる? 逃げるって、いったいどこへ? 俺は心の中で自問自答しながらも、とにかくこの場から離れることだけを考えて、車を走らせていた。
「リュージさまっ!
助手席から身を乗り出し、後方を見ていたエルミヤさんが叫んだ。
「っくしょう、また
「いいえ、あれは――――間違いありません、
「
まさか、あのドラゴンは魔法まで使えるってえのか? だとしたら、俺たちは――――
「
そのとき辺り一面が、まるで太陽が落っこちてきたような強烈な光に包まれた。
正直、俺は死んだのだと思った。もちろん、死んだ経験など一度もあるはずないのだから定かではないのだが、命が終わる
だが、そうではなかった。ここは――――
「首都高だ! 東京だぜ!」
気がつくと、目前のフロントガラスに映るのは、まっすぐ伸びた
極寒の大地・ノースコアの荒野を走っていたはずの俺の
「本当ですね! でも、どうして戻ってきちゃったんでしょう?」
「わかった! あの『マハラバキラの
エルミヤさんの言葉に、妖精のレベリルが返事をした。マハラバキラの
「シャルクが着けてた、あの指輪のことか?」
「あの指輪があれば、自由に次元転移魔法が使えるようになるって言ってたじゃない。
「なるほど。ところで、
「いくら『ドラゴンファンタジスタ』の文明が遅れてるからって、あんなにでかい図体じゃ満喫のしようがねえだろ。
そんな話を交わしながら、俺は
それにしても
「竜司! 聞こえるか?」
「伍道? バッチリだ!」
「ようやく通じたな。やはりシャルクが、通信妨害や魔法の使用を制限する電波を出す機械を持っていたようだ。そっちにも、似たようなモンがあるだろう?」
カーナビの画面には、我が盟友・
「お父さま、これのことですね?」
「ああ、それだ。さっさと捨てちまいな、エルミヤ」
「はい!」
エルミヤさんはなにやらピカピカと信号が点滅している電子基板を、車窓の外に放り投げた。おそらくシャルクは、
「そっちはどうだ? 小虎は無事か?」
「竜司、私は平気! 伍道が助けてくれたから、ピンピンしてるよ!」
伍道を押しのけるようにして、
「そうか、そいつはよかった」
「竜ちゃん! ハコスカの調子はどうなん?」
「おうチマキ。まったく問題ねえぜ……と言いたいとこだが、ちょいとガタが来てるな。目一杯アクセル踏んでも、あまりスピードが上がらねえ」
「ホンマに? ウチが診てあげれたらええんやけど……」
「それはいいが…………うおっと!」
俺はそう話しながら、何度目かの料金所ゲートを突破した。いつしか、俺の
「あー、もう見てらんないっス!
「私も行くっ!
「当たり前や! ウチも行くで!」
「みなさん……ありがとうございます……!」
オガタに続いて、小虎とチマキの声が聞こえてきた。そんな頼もしいパーティーメンバーの姿に、カーナビを通じて感謝の気持ちを伝えるエルミヤさんだった。
「みんな、気をつけてくださいね!」
「尾形っ、がんばってらっしゃい!」
力強く背中を押す
「お嬢、これを!」
伍道は、手にしていた
「エルミヤに渡してくだせえ。くれぐれも、頼みましたぜ!」
「うん!」
「やべえな。本格的に車のパワーが落ちてきたぜ」
「ねえ、空を飛んでるアレはなに?」
レベリルが、窓の外を飛んでいるヘリコプターを指してたずねてきた。
「どっかの新聞社か、テレビ局の報道ヘリだな。東京上空に空飛ぶ巨大ドラゴンが出現なんて、間違いなく今夜のトップニュースだろう」
チリンチリン♪
「リュージさま! 後ろから自転車がやってきます! 三人乗りの!」
「三人乗りだと?」
自転車の二人乗りというのは聞いたことがあるが、三人乗りとはどういうことだ。いったいどうやって乗っているというんだ?
チリンチリンチリンチリンチリンチリン!
「うおおおおおおおおおおーーーーっス!」
ものすごい勢いで走り寄ってきたのは、婦警の制服姿のままオガタが運転している、警察官用の
中国雑技団並みの技術と体力を発揮しながら、オガタはハコスカの傍まで全速力でやって来た。
「オガタッ!」
「グンバリュージ! ふ、二人を頼むっス!」
走りながら後部ドアを開け、小虎とチマキが車に乗り込むのを見届けると、オガタの自転車はそのままスピードを落としていった。
限界まで体力を出し切った彼女は、右手の親指を立てると、その場に倒れ込んでしまった。それにしても
「どうだ? チマキ、直せるか?」
「うん、アカンとこはだいたいわかった。せやな、三分ほどくれれば」
走行しながら車の故障個所を特定し、さらにたった数分でそのまま修理するという芸当ができるのは、この世広しと言えどもこの
「頼むぜ。それから小虎、そいつは……」
「うん、伍道から預かってきたの。はい、エルミヤさん」
「あ、ありがとうございます、小虎お嬢さま!」
エルミヤさんは、小虎からエル・モルトンを受け取った。由緒正しい魔法の木の杖を、彼女はまるで再会を嚙みしめるかのようにギュッと抱きしめた。
「それで、これからどうするの? 竜司」
俺は
「
「そんな! 無茶ですよ、リュージさま……」
「もちろん、受けて立つ。なぜなら――――」
運転席の横に忍ばせていた、愛用の二尺五寸の長ドスを掴みながら、俺は静かに言った。
「俺は、
続く