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第70話

 EOS本戦まで残り二日。


 前日入りも含めれば、今日が学校で練習できる最後の日になるのだが・・・・・・


「動きが鈍いのよ新井! 今の場面ではあんたが咲良を援護しなきゃいけないでしょ!」

「いいや! 射線を通すまでに時間を要する。田中の場面だろ! 射線通ってるし!」

「だから動きが鈍いって言ってるのよ! すぐに移動して射線を確保なさい!」


 悠里は久しく、冷静さを欠いて言い合っていた。

 アタッカー一人に、スナイパー二人で組むのだが、上手く連携が噛み合わない。


 前線で戦う咲良をどちらが援護すべきかでもめている。


「落ち着いてくださいっ」

「咲良は黙ってて!」「俺とこいつの問題だから」


 いやこんなことで息ぴったりじゃなくても、と咲良は困惑した。


 しかし本戦直前で、背中を任せる二人の息が合っていないのは、正直言って不安だ。


 涼に視線を送るが、我関せずと涼しい微笑で流される。


 とても一人で止められるような啀み合いじゃない。


「あぁもう! 二人が言い争うの止めるまで、私練習出ません!」


 こうなれば強行だ。咲良が言った途端に、悠里と結衣の口撃の応酬が止む。


 そして睨みあってからぷいっと顔を背けるのである。


 そういえば悠里君と出会ったときは、一回誘うのを止めるって言い出してから躍起になって決闘を申し込んだんだっけ。


 それがきっかけで入部することになった。そうか、何かきっかけがあれば。


「二人とも少し頭を冷やしてください・・・・・・全く」

「「だってこいつが」」

「そこはなんで息ぴったりなんですか。ラプアさんとシェイさん、少し貸りますね」


 説教されてシュンとするところも似ていて愛嬌がある。 そう思いながら、咲良がドゥーガルガンのラプアとシェイ、二人を呼び出して、地下の閉塞的な空間から地上に上がると、


「何か良い案はないでしょうか?」


 素直に聴いた。勿論、マスター二人の険悪な仲を絆す案である。


「蟠りを解消するには時間がなさ過ぎるぞ」

「ラプアと同感。銃の方私たちは結構仲いいんだけどね」

「練習試合の帰りに意気投合してましたよね」


 電車の中で好きなスイーツがレモンタルトで一緒だったことで意気投合。寄ったコンビニでは二人でスイーツ特集の組まれた雑誌を買っては、食い入るように読んでいた。


 相棒の二人はこんなに仲が良いのに・・・・・・。咲良は頭を抱えながら廊下を歩き、屋外プールの壁に寄りかかった。


 時計は十時を回り、夏の日照りも増してくる。校庭の陽炎で揺れる野球部の練習を遠めに、何か何かと思案しているが、


「あぁー! もう何も思いつかないよぉ! ほんっと二人の馬鹿っ!」


 自棄になった。暑さのせいもある。


 そもそも二人の尖ってるのがいけないんだ。どうにでもなれと思ったそのとき、


「いちにっ! いちにっ!」

 寄りかかっていた背後からリズミカルな笛とかけ声が聞こえてくる。


 そういえば、水泳部はここで練習してるんだっけ。


 ん? 水泳?

「水泳・・・・・・そっか! 練習にもなるし、一石二鳥じゃない!」

「何か妙案を思いついたようだね」

「二人は水着、持ってますか?!」


 ラプアとシェイは顔を見合わせて頷く。


「あとは私とあの二人ですが、スク水で良いでしょう。今すぐ帰って水泳道具を準備させてください! 涼先輩には私が話します!」


 熱くなった二人の頭を冷やすにも丁度良い。


 ほんの少し邪な妄想を含んだ咲良の笑み。余計なことは言うまいと、ドゥーガルガンの二人はアイコンタクトで通じ合った。

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