「冷たっ! シェイさんはしゃぎすぎですぅ!」
「君だって満更でもないじゃないか。ほら、良いではないかー良いではないかー!」
俺は一体、何を見せられてるんだろう。
照りつける灼熱の太陽の元、プールサイドに膝を寄せて座る悠里は当惑した。
いや、プールに行くことまでは分かっていた。
だがてっきり近場の市民プールで泳ぐのかと思っていたのだ。それがまさか、電車で一時間の娯楽系プールに行くとは思わなんだ。
「悠里君も早く!」
「気持ち良いよラプア!」
そして
二人ともなかなかナイスバディをしている。特に普段はジャージとか迷彩服で厚着している咲良だ。
出るとこ出てるし引き締まるとこは引き締まってる。普通の男なら真っ先にナンパされるだろう魅惑の肉体をしているはずなのに、誰一人寄りつかない。
それもそのはずだと、胸から視線を落とし、六つに割れた腹筋と曲げた腕から競り出る上腕二頭筋を目に考える。
「あんた今、変なこと考えてたでしょ?」
「なんだよ。気配消して嫌らしいな」
背後に現れていた結衣がそう指摘した。
大体合ってるから、言い返せない。
「混ざったら?」
「そっちこそ。ツンデレは、こういうときにしかデレられないぞ?」
「知ったような口利かないでよ・・・・・・あたしはツンデレじゃない」
「十分にツンデレだよ。自覚ないのか?」
「しつこいわよ鈍感」
悠里は彼女を見下すように立つ。
「お前ほどじゃないさ」
「私がいた事にも気づかなかったのに?」
「うるさいスク水」
「はぁ。やっぱ考えてたのね変態」
「あぁもう二人とも! せっかくプール来てるんですから! はいラプアさんとシェイさん、その犬猿さんをこっちに連れてきてください!」
言い合いを始めたら、咲良にぴしゃりと叱られてしまった。
悠里も結衣も落ち込むスイッチは一緒なのに、気が合わない。
けど、これを機会に私が何とかしなきゃ!
咲良は連れてこられる二人を見ながら、密かに胸を叩いた。
微かに揺れるそれは悠里の頬が自然と赤くするが、ラプアに険しい目を向けられて目を逸らした。
流れるプールで、漂流する藻のように流されながら悠里は思考を回す。
田中結衣とはなぜここまで険悪になれるのか。
自分と同じポジションのライバルだから? それならば切磋琢磨という選択だって出来るはずだ。
性格が尖っているから? 初対面だろうが付き合いが長い人間だろうが、突っ慳貪で冷たいように当たるのは元から知っていた。
けれど大きな借りもある。ドゥーガルガン同士の戦いを避けるため、己とは戦わない選択を持ちかけた。
結果として暴走した真理さんを止めるきっかけにはなったわけで、お互い記憶も存在も消さずに済んだ、
本当に考えが読めない。
戦況予測のプロ。茗荷谷高校のアンネイブルゲームの立役者。
彼女は俺をどこまで予測しているのか。
「考えても無駄か」
そうしたところで、何か突破口が開けるとは思えなかった。
咲良が危惧していることも分かる。だけど、結衣からは打ち解けようとする心意気が感じられない。
悠里は諦めてゆっくりと動く雲に意識を置いた。
「そのままだと、回遊魚になっちゃうよお兄ちゃん」
陽光を遮った小さな幼女の顔。
にひっと邪気のない満面の笑みに、一瞬目を奪われてしまうが、そんなことよりも
「なんで、俺が男だって分かったんだ?」
あどけない顔からは不思議なほどに鋭い直感。俺は無意識にそう質問していた。
「うーん。なんとなく!」
「なんとなく?」
「ねね。何考えてたの? 彼女さんの水着の事とか?」
ませガキめ。沈黙と苦笑いで答えるが、顔は邪な気持ちなんてない素直さを秘めている。
だんだんと気まずくなって逃げようとした矢先、
「ラギィー。また人を揶揄って」
幼女の背後から声がした。
「うちの子がご迷惑をおかけして。行きますよ。アリスが待っています」
「えぇー! もっとこのお兄ちゃんと話したい!」
「ダメです。どうもご迷惑をおかけしました。では」
「レスアートのケチっ! ぶーぶー!」
スラッとした長身の女性が幼女を引っ張っていく。
美人系で思わず見とれてしまう容姿。悠里は答えることもできず、その後ろ姿を目で追っていた。
「しかし、珍しい名前だな。ラギィーにレスアート」
「うわっラプア居たのかよ?!」
「さっきからずっとな。良い度胸だなお前」
「ん?」
いつの間にか追いついていたラプアが横で指さすと、
「悠里君って、ほんとに女たらしですよね!」
「全く、咲良が居ながら何してんのよこの猿は」
「あはははー」
全く俺の周りには気配を消せる奴が多すぎるぜ。
なんてことを心で呟いてる間に、ジャンプ台に連行されて投げられたのは言うまでもない。