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第9話 盲目的に信じるには理由があるにせよ

「へえ、こんな風になってるんだ…」


 宿泊先の「ヘガジューの宿」の客室に足を踏み入れた時、イアサムはそうつぶやいた。

 決して大きな部屋ではない。格別上等な部屋でもない。窓を閉め切ったエア・コンディショニングとは無縁な部屋だった。窓の近くに蛇腹式の籐製のついたてが立ち、風をとおしながらも、外からの視線を防ぐ役割をしている。


「来たことはないの?」


 窓を開けながらGは訊ねる。その側におかれたポットは今朝より重い。中身を入れ替えられた様だった。


「そりゃあ普通、地元の人間は客室には泊まらないよ」


 確かに、とGはうなづく。イアサムはそのまま部屋の中を進むと、やはりシーツも取り替えられたらしい寝台にぼん、と腰を下ろした。


「でもあまりこの宿は上等じゃあないけどね。平気?」

「別にね。そんなに場所にはこだわらないよ」

「へえ」


 ポットから杯に冷たい、濃い茶を注ぐと、彼はイアサムに手渡した。


「あまり入れ方が上手くないね、これ」

「そりゃあ君ほどに上手くはないだろ」

「そりゃあそうだけど」


 そう言いつつも、イアサムはそれを半分ほど呑む。


「結構さ、いいとこに泊まってるのが似合うと思うんだけど」

「似合うかどうか判らないけど、いつもいつもそういう訳にはいかないだろ?」


 言いながら、彼もまたイアサムの横に腰を下ろした。


「ふうん。じゃあ結構色んなところ、回ってるんだ」

「まあね。君はずっとここ?」

「どう見える?」


 くっ、とイアサムは笑みを浮かべる。どうだろう、とGは相手の顔をのぞき込む。


「ここは、どう?」


 イアサムは口の端をきゅっと上げて問いかける。


「どうって?」

「この地は。サンドさんにとって、ここは居心地がいい?」

「そうだね」


 彼は首を傾げる。


「うん。かなり俺としては、居心地がいいね。何でだろう」

「きっとこの街が暑いからだよ」

「そうなのかな」

「そうだよ」


 そうなのかな、と彼は思う。確かに暑いだろう。触れた手首がもううっすらと汗に湿っている。

 夜でもじっとしていると身体中から汗が噴き出してきそうな程である。風が欲しいな、と彼は思った。しかし風は無い。ほんの時々、大気が動く様子が、やはり自分の首筋や手首が軽く温度を下げる時に判る程度だった。

 彼はそんな汗が浮かんだ相手の手首を取ると、くっと引き寄せる。イアサムは逆らうことなく目を伏せる。慣れているのだな、とGはそんな相手の様子をうかがいながら思う。

 実際、その思いは唇を重ねてからも変わらなかった。いや、それ以上だった。

 確かに、言うだけの時間を重ねているのだろうな、と彼は思う。仕掛けたのは自分だが、ともすると、向こうに押されそうな気持ちになる。

 どのくらいそうしていただろう? イアサムは頭に乗せた布を自分から取ろうとした。

 と、その手をGは止めた。どうしたの、と離れた唇が聞こえるか聞こえないか程度の声で問いかける。

 しっ、とGはそれを見て人差し指を立てた。


「…何か、居る」


 ゆっくりと、音を立てないようにしてGは寝台の上から身を滑らせる。何処だ、と彼は耳を澄ませる。皮膚の上を流れる大気の変化を読みとろうとする。


「おい!」


 そして彼は蛇腹の衝立を一気に取り去った。


「あ」


 イアサムはそれを見て声を上げる。窓を開けた時には、蛇腹のかげになって見えなかったのだろう。それに。


「マリエアリカじゃねーの!」


 イアサムは思わずそこに居た女に駆け寄っていた。気配が当初はしなかったはずだ。女は衝立の陰で倒れていたのだ。

 Gはフロアスタンドをそっと彼女のそばに寄せる。う、と彼は声を立てた。


「…ひでえ」


 口元が腫れていた。いや、口元だけではない。むき出しになった腕や足にまで、打ち身の跡があった。

 そもそも、そんな部分が見える様にむき出しになっているということ自体、大変なことだった。おそらくは夜の舞台の時の衣装なのだろう。先日窓から逃げ出した時の格好と同じなのだが、頭につけていた赤いヴェールはここには無い。彼女の黒い、長い巻き毛がそのまま床に流れている状態だった。胸当てからは詰め物が少しこぼれている。もともと大きなものではないらしい。

 そして腰に巻かれていた布が、半分ちぎられていた。そのせいで彼女の足は太股からすっかりと見えていたのだ。先日のよう裾をくくったズボンは履いていない。足はむき出しのままだった。

 どうする、とイアサムは首を傾けた。どうしたものかな、とGもまた思う。何処かから彼女が逃げてきたことは一目瞭然だ。それに彼女に前科がある。しかしその「いつものこと」とは違うだろうことも一目瞭然なのだ。


「ん…」

「あ、目をさました」


 灯りを近づけたせいだろうか、彼女は身体をぴく、と震わせた。目を開ける。数秒、ぼんやりと視線を漂わせていたが、やがて弾かれた様に身体を起こした。


「…な… あ… そっか…」


 彼女の額から、首筋から、一瞬にして汗が噴き出した。だらだら、と流れる様が灯りに映し出される。


「…ご、ごめんなさい… あの…」

「あんたなー、いい加減にしろよな」


 イアサムは顔をしかめる。せっかくの楽しみが、と口の中でぶつぶつとつぶやく。


「えーと… あの」

「ごめんなさいはいいよ」


 Gは前日のうんざりした会話を思い出す。何だって二日も続けてこんなことが起こらなくてはならないのだ。

 無論「休暇」は終わったのだから、何が起こったところで構わない覚悟はある。だがこの女の到来はいつもそんな彼の予測外のものだったのだ。


「それより、何なんだい? この跡は」


 Gは彼女の足にかかる布をぱっ、と引き払う。彼女は目をそらした。


「サーカスンの劇場では、逃げ出したあんたにそんなことするのかい?」

「い、いえそんなことは」

「じゃあ誰がこんなことするんだよ。いくら何だって、ここの真っ当な住人は、女にこんな風に手を挙げたりはしないぜ?」


 不機嫌さを隠さない声でイアサムも問いつめる。


「それは…」

「口ごもっていりゃいいってもんじゃないんだよ?」


 それもそうだよな、とGも思う。

 だいたい彼は、この女の態度を信用していなかった。いやもともと信用はしていないのだが、前日のことがあってから、全く信じてないと言ってもいい。


「やめといた方がいいよ」

「サンドさん」

「本当のことはどうせ、口にはしないだろうから。彼女は」

「違います!」


 マリエアリカは声を荒げた。


「だましてお金を抜き取ったことは謝ります。でも必要だったのは本当です。私達には」

「わたしたち」


 イアサムはその言葉を強調する。


「ふうん。そういうこと。誰かがあんたに強制した訳。じゃあ判りやすいね。その誰か、があんたをそんな風に痛めつけたんだ」

「…判るんですか?」

「判らない訳がないだろ」


 どうしてそんなことが判らないんだろうね、とまた彼は口の中でぶつぶつ言いだした。


「そんなところに好きで居るなんて、あんたマゾ?」


 びしゃ、とGは自分の頬を軽くはたく。それは少々露骨すぎでは。


「違います! 私は必要とされているから…」

「普通ねえ」


 イアサムは指をつきつけ、彼女の言葉を遮る。


「誰かを必要としているところ、ってのは、厳しくしても、暴力はふるわないんだよ? 厳しくと残虐を間違えちゃいけないよねー」


 そしてそうでしょ? とGの同意を求める。ああ、と彼もまた力無くうなづいた。


「あんたがしょっちゅう抜け出すのは、そのせいだって言うんだろ。やだねえ。報われない場所のために何でそんなことする訳? 一体何なのよ、あんたのその懸命な努力って奴が全然報われないとこっていうのは」

「…え」

「言ってしまうと、楽になるよ~」


 くすくすくす、とイアサムは笑った。


「怖いね」

「当然でしょ。こっちのお楽しみを駄目にされてさ。何かその気が失せちゃうじゃない」


 なるほど、とGは思う。そう言われてみれば、彼も何となく怒りに似た感情が湧いてくるのが判る。


「確かに、馬に蹴られても文句は言えないね」

「でしょ?」


 ひっ、と二人のその言葉を聞いてマリエアリカは喉の奥で叫んだ。


「…で、ですからあの…」

「だーかーらー、そんな面倒くさいこと聞きたくないの、俺はね」

「それより、こんなのはどう?」


 Gはぱちん、と指を鳴らしてみせる。


「今日会った、あの二人」

「…ああ、確か都市警察の」

「都市警察!」


 今度はさすがに声になった様である。


「都市警察のお仕事のおにーさん達だったら結構好きそうじゃないかな? こういうことって」

「たーしーかーに」


 ぱちぱち、とイアサムは手を叩く。


「渡してしまおうか。うん面倒だから、手当てもそっちでしてもらおう。それでもって、俺達はまたこっちに戻ってきて続きわすればいいよねー」

「そうそう」

「言います言います! だから、都市警察は、止して下さい…」


 ふう、とイアサムは息をついた。


「最初っから、そー言えばいいんだよなあ」



「最初に彼女に会ったのは、一昨年のことでした」


 ぺたぺた、と外傷になっている部分に薬を塗ってもらいながら、マリエアリカは話し出した。


「それはここ?」


 床に直に座ったまま、Gはやや不機嫌そうな声で彼女に問いかける。いえ、と彼女は首を彼のほうへ向けようとしたが、動くなよ、とイアサムに止められた。

 薬は宿の主人に頼み付けたものだったが、渡される時の表情がやや意味ありげなものだったので、Gは多少気分を害していた。


「…違います。私の出身はアニミムですから」

「結構遠いところじゃないの。そんなところからどうしてここに」

「彼女が来て、と言ったからです」

「その彼女ってのは誰なんだよ」


 ほい終わった、とばかりにイアサムは彼女のむき出しの肩をぱん、と叩いた。殆ど何も身につけていない状態だったが、イアサムは平気で彼女の身体に軟膏を塗りつけていた。慣れてるな、とGは何となく思うが口には出さない。


「…名前は、知りません」

「何だよそれ」


 苛立たしげにイアサムは問い返す。いえ、と彼女はそれを聞いて顔を上げた。軟膏をこれでもかとばかりに塗られた首筋がてらてらとフロアスタンドの灯りに輝く。


「本当の名は、ということなんですけど… 私は彼女に、自分のことはオランジュと呼べ、と言われてました」

「果物かよ」


 何だかな、とイアサムは眉を寄せる。


「皆果物なのです。私もその集団の中では、アプフェルと呼ばれてましたから…」

「暗号のようだね」


 そう口にしてから、ふと彼は自分の名を思い出す。そう言えば、自分達の「呼び名」もそうだったのだ。

 彼ら天使種は、本当の名を正確に発音すると空間が歪む。だから彼らには、生まれつき「本当の名」と同時に「呼び名」をも付けられる。それは「名前」というより記号に近いものだった。

 彼の名もそうだ。彼の世代の、同じ頃に生まれた子供は、アルファベットをつけられている。旧友の、あの内調局員も同じ世代ではあるが、「鷹」という旧友の時期は鳥の名だった。

 つまりはその名が世代と時期をそのまま表していると言ってもいい。

 天使種はそもそも生まれてくる人数が他の惑星に植民した人間にくらべ、極端に少ない。それが位相の違う生物と融合したせいなのか、自然の作用で個体数を一定にされているのか、そのあたりは判らない。

 そして彼にはどうでもいいことだった。それにもう、天使種はこれ以上は増えないはずなのだ。


「それで」


 イアサムの声でGははっと我に返った。


「その彼女とは、何処で出会ってどうしたのさ」

「…あ、あの、出会ったのは、…帝立大学なんです」

「帝都か!」


 はあ、とGはため息をついた。


「何だよ、じゃあんた、マリエアリカ、かなりのエリートだった訳じゃん!」

「そう… いうことになるでしょうか。でも私はそんなこと、思ってもいなかったですし」

「あんたがそう思わなくても、周りはそう思うんだよ。それじゃ何。そのエリートさまさまが、その何だか訳の分からない、名前も知らない女に惚れてしまったから、せっかくのエリートコースも踏み外して、こーんなとこで得体の知れないことしてるって訳?」

「得体の知れないこと、じゃありません! 少なくとも… 私には… 彼女にもきっと… 意味があることです」

「は」


 ひらひら、とイアサムは手を振った。


「マリエアリカ、あんた幾つだよ」

「…え? あ、あの、二十歳ですが」

「俺と同じかよ。それでこんなことしてるんじゃ、先は見えてね」

「え… あなた、私と同じ歳なんですか」

「やーだーねー」


 ぶるぶる、と彼は首を振る。


「外見で人を判断しちゃーいけないんだよ? ねえサンドさん」

「…まあね」


 Gはため息をつく。


「で、その女とどうして帝立大で会った訳?」 

「私は学生で… 彼女も学生でした。別に彼女が地下活動に誘ったという訳ではないんですが…」

「地下活動かい!」


 吐き捨てる様にイアサムは言う。


「そういうことをあまりはっきり口に出すものじゃないよ…」

「でも地下活動としか言い様がないですし」

「はいはいそれで?」

「私はそこではごくごくありふれた学生でしたから…毎日何となく勉学にはげみ、皆と遊び… まあごくごくありふれた生活をしていたのですが」

「つまらなくなった訳?」

「いえ… つまらないなどと…」

「端から見りゃねー、あんた達ってのはすごい恵まれた環境なんだぜ? 帝立大なんて、入りたくても入れない奴はごまんと居るんだ。なのに何よ」

「それは… でもそれは、そこに居る者にしか判らないものもあります!」

「まあそれはいいさ。あんたにはあんたの言い分もあるだろ。でもせっかくそーんないいとこで勉強してた連中が、しかもあんた帝都の人間じゃないんだろ? だったらあったまいいはずじゃない。どーしてそんな活動に行ってしまう訳」

「…だから!」


 マリエアリカは顔を上げた。


「そーんなに、その女が、好きだったんだ」


 上げた顔が、一瞬にして赤らむ。


「…いけませんか?」

「いけなくはないさあ。自分の居場所が分からないとか何とか言ってる連中に比べりゃ、よっぽど真っ当な答えだよ。でもさその女、そんなにあんたが惚れ込むほど、いい奴な訳?」

「あなたは彼女に会ったことないから、そういうんです」


 彼女はきっぱりと答えた。


「最初から彼女は、圧倒的でした… 別にどうしろこうしろって言われた訳じゃあないです。だけど、どれだけ彼女が急ぎ足になっても、どうしても付いていきたい、って気持ち、あるじゃないですか」

「だからそれはそれでいいって言うの」


 ややうんざりした様にイアサムは言い返す。


「だから、その女は何をどうしていたの」

「だから、…地下活動です」

「何の。反帝組織か何かだって言うの? 有名どころ?」

「…というのかもしれません。でも私、それがどんなところかなんか知らないんですから」

「…ふざけんしゃないよ」

「ふざけてません! 何処だって、何だってよかったんです!」


 ふう、ともう一度Gはため息をつき、代わって、とイアサムの肩に手を置いた。


「…君がとてもとてもとてもその人が好きだっていうのはよーく、判った。で、どうしてその人は君をこの惑星まで連れてきた訳?」

「…あ」


 話が停滞していたことを思い出したのか、彼女の頬が再び赤くなる。ああどうしましょう、と焦ると育ちがそこに出るらしい。

 しかしそんな育ちが判る様な女が、ここであんな仕事について平気だ、というのがGには不思議だった。

 確かに誰かに心酔している人間は、その相手のためなら何をしても、という部分はあるだろう。しかし元々の育ちというのはなかなか隠せないものだ。


「彼女は… ここでするべきことがあるからと」

「するべきこと?」

「何だよそれ」


 ぐい、とイアサムは身を乗り出す。


「…この惑星の、女性を助けるという仕事です」 

「なるほど、それにあんたは感銘してしまったって訳だ」

「…大切な、仕事です!」

「ふうん。それであんたは何だよ。女じゃない訳? どーしてそうゆうお仕事するっていうのに、あんたという女が、そんな傷こしらえなくちゃいけないんだよ?」


 マリエアリカはうっと口ごもった。


「それは…」

「言えないだろ」

「…だけど、この惑星の、女性を売ることに関してのやり方は、間違ってます!」

「それはあんたの育った環境では間違ってる、っていうだろ。そりゃあそうだろうな。アニミム星系も、帝都も気候はばっちり快適だもんな。でもここは違うんだぜ。大して量の無い住める地域以外は砂砂砂なんだぜ? そういうとこで決まった約束事を、あんたらの常識とやらで解決しようとするんじゃないよ!」

「…」

「君は『逃がし屋』の集団の一人なんだね?」


 イアサムの攻撃が一段落したところでGは口をはさむ。すっかり萎縮してしまったマリエアリカは、小さな声で、ええと答えた。


「『逃がし屋』は、砂漠の途中で、女を助けて、アウヴァールへ連れて行くんだろ?」

「ええ。砂漠の、ワッシャード側からは見えなくなった辺りで、女性を助けて、そのまま待機していた車に乗せて運ぶのです」

「それじゃあ、そのアウヴァールで、彼女達はどうしているのかい?」

「…一応、請負料はいただきますから…」

「それを持って、生活していると思う?」

「思いたい… です」


 だんだん彼女の声は頼りなげになってくる。


「…ええだって、私も会いました。向こうで、ちゃんと家庭を持ってるひとも見ました。だから、それは間違っていないと思いました」

「そんなのね、幾らでも作れるだろ」

「作る?」

「最初から、あんたの様な単純な正義感という奴にまみれたお嬢さんを引っかけるためにはさ、最初の売られる段階からお芝居してることだってあるだろ?」

「…そんな」

「俺もそう思う。ねえ君、こっちで売られそうになった子なら、向こうでも売られてる、って考えてみなかった?」


 彼女はぶるぶると首を振った。


「だって… そんな… 彼女がそんなこと…」

「そこまで信じられる? そんな人なら、俺は一度お目に掛かってみたいよ」

「…あ… あなたは彼女を見たことないから言えるんです!」

「そうだよ俺は見たことないよ」


 イアサムは吐き捨てる様に言う。


「でもあんたを見てると、お目にかかっても、お知り合いにはなりたくないね。俺だったら、もっとましな奴を選ぶよ」

「…そんな人、居るですか! 居るもんですか!」

「自分で思いつかないからってヒステリックに叫ぶなよ、うるさいよ。あいにく、俺にだって、そうゆう人はいるんだからね」


 え、とGはイアサムを見た。あまりにもさらりとその言葉は口から滑り出したが。


「…だったら気持ち、少しは判ってくれてもいいじゃないですか!」

「あいにくね、俺のそういうひとは、そういう盲目的な態度ってのはすごーく嫌うの」


 だから少し黙ってなさいね、とイアサムは言うと、その時頭にきたらしい彼女が伸ばした身体に当て身を食らわせた。


「…イアサム…」

「ねえサンドさん、とりあえずこの女、さっき言った通り、あの都市警察のひと達のとこに届けて来ようよ」

「…それは俺も賛成だけど、君…」


 そしてその華奢に見える身体に関わらず、彼は気を失ったマリエアリカの身体をひょい、と持ち上げた。


「俺さあ、こーんな風に盲目的に誰かを信じるのって、だいっきらいなの」

「それは俺も嫌だけど」

「だからさサンドさん、この女に、そーんなに思わせる誰かさん、って一度見たくない?」

「それは」


 彼もそれには、なかなか興味があった。

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