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第13話 天使種のはじまり、伯爵の罠

「私も実際に見た訳ではないから分からないが、そんな時期もあったのやもしれない。全く口を利かずに、そんな場所で同志を募るのは無理な話だ。そしてまだ、あの方にも、何の力も無かった頃だ」

「力が」

「そう、力が。忘れたのかね? 君達という生物は何故力があるのか」


 忘れた訳ではない。忘れられる訳がない。ただ、思い当たらなかったのだ。


「話を戻そう。彼は、同志と密かに計画を練った。それは慎重に慎重を重ねたものだった。計画どころか、その様に不穏な発想を持っていることを知られただけでも罰せられる。簡単に死が与えられる」

「ひどいな」

「何故その様なことができたと思う?」


 Gは黙って、ちら、と伯爵の方に視線を流した。


「支配者側にとって、奴隷は同じ人間ではなかったからだ。罪悪感など全くない。自分たちが作り出してやった生命だから、自分達が勝手に潰してしまっても、それは決して罪ではない、と考えていたんだよ。傲慢なことだ」


 同じ生物であることには変わりはあるまい、と伯爵は付け足した。確かに、とGはうなづいた。このひとにはそれを言う資格がある。


「彼らはそんな中で、周到に計画を練った。何をしたと思う?」

「…反乱は、…無理ですね。条件が悪すぎる」

「そうだ。物資も、武器も、何もかも足りない。それに、何より、下手に武装化した時に、彼らが乗っている船そのものを壊してしまっては元も子もない。支配者層を倒すことができたとしても、共倒れではどうしようもない」

「では」

「そこで彼らは、彼らだけで逃走することを選んだ」

「逃走」

「巨大な移民船には、もしもの時のために、脱出用の船が積載されている。それは母船ほど長い時間を飛ぶことはできないかもしれないが、それでも目的の場所が見つかったら、そこまでの距離を超空間航行することは可能だ。そういう作りになっているはずだ」


 そういうものだろうか、と移民船の時代からは遠く離れた時代に生まれたGは思う。そしてそういうものなのだろう、と無理矢理自分を納得させる。


「彼らはその船を一つ、奪うことにしたのだ」

「そんなことが、可能だったのですか?」

「可能かどうか、ではなかったのだよ、彼らには。そうするしか、なかった」

「そうするしか」

「無論、そんな冒険を拒む者が居ない訳ではなかった。だから脱走組にしてみれば、そんな不参加者に対しても警戒を怠る訳にはいかなかった。中には、上の世界に引き上げられてもらえるものと信じて、密告する者が出ない訳でもない。しかしそんな中で、彼らは情報を収集し始めた」

「どうやって? だって、生活区域は決まっているのでしょう?」

「そう確かに決まっていた。しかし、かと言って、全く不可能な訳ではない。時には、危険な作業中に行方不明になる者も居る」


 なるほど、とGは納得した。


「彼は元々上の世界で反旗を翻した時に、船の内部は熟知していた。下の世界で手を組んだ者達の中で、彼は参謀の様な役割となっていき、ゆっくりだが、確実に、計画を遂行させていった」

「…」

「ただ、問題は、脱走した後の行き場所だった。計画を始めてしまったら、遂行までの時間制限は、自ずと決められてしまう。目標の無い計画は失敗するものだ」


 Gは苦笑する。


「居住可能な惑星が、見つかる可能性は低かった。そもそも、そんな惑星があるのなら、当の昔に、この移民船自体がそこにたどり着こうとしているはずだ。だがその気配は無かった」


 伯爵は首を横に振る。


「いや、全く無い訳ではなかった。ただそこは、その船に乗り込んだ支配者層にとって、住むに値しない惑星だった、といううことだ」

「と言うと」

「温暖でなくてはならない。自然が豊かでなくてはいけない。そして先住の知的生命体が居てはいけない」

「そんなこと言っていたら、永遠に見つからないかもしれないというのに」

「そうしたら永遠に船でさまよっていればいい、と思ったのだろうな。しかし脱走する彼らには、そんな選択は意味が無かった。どんな場所でも、現在よりはましだ、というのが彼らを奮い立たすバネになった」


 だろうな、とGも思う。


「そして、ある日、そんな見捨てた惑星が彼らの前に近づいたのだ」


 伯爵は笑った。いや、笑った様に見えただけかもしれない。


「その惑星は、決して居住に適した所ではなかった。少なくとも、探査コンピュータの端末は、必ずこう答えていた。『生存は可能。居住は不適』」

「居る分には構わないが、住むには適さない」

「平たく言えばね」

「それが、…アンジェラスですか?」


 そうだ、と伯爵はうなづいた。


「一体誰がその様な名前を付けたのだろうね。古い宗教では『お告げの祈り』やその祈りの時刻を告げる鐘の意味だと言う。直接に天使そのものを示す言葉ではない。同じ様な宗教をバックボーンに持っていたとしてもだ。…しかし考えようによっては、正しいのかもしれない」

「…」

「結果としては、だ」

「結果として」

「彼らは、それでもその惑星へと脱出した。総勢186名、だったという。たったの186名だよ? それだけの、体系だった知識も何も持たない寄せ集めの集団だ。ただ、その集団には、生きようという意志があった。踏みつけにされていたくない、という誇りがあった。それが一体何処から来たものかは判らない。その血をたどればその答えは出るかもしれないが、それは不可能だ。…いずれにせよ、彼らは不屈の闘志と忍耐で、その惑星へ何とかたどり着いたのだ」

「…無茶です」

「無茶だろう。しかし既に彼らの計画は発覚直前だった。飛び出すしかなかった。船を動かせる者はいない訳ではなかった。船外の危険な作業をさせられていた者も居た訳だからね。死と隣り合わせの作業に、彼らはいともたやすく、大した訓練も無しに外に出された。無論その中で死んだ者も… いやその話じゃないな」


 脱線しかかったことに伯爵は苦笑する。


「そんな外での作業をしていた者、また彼らを乗せていた船の操縦士と言った者が、活躍した。彼らは自分で超空間航行はしたことが無い。それは巨大な船のコンピュータに任せていたからね。しかししない訳にはいかなかった。そしてそれは奇跡的に成功したのだ」

「奇跡的」

「…とその時はそう思ったのだろう。しかしそうではなかった。彼らは呼ばれたのだ。惑星に」

「え?」


 それは初耳だった。Gは思わず問い返す。


「惑星が、彼らを誘導した。君等の母星だ。アンジェラスの主星自体が、彼らを呼び寄せたのだ」

「それは…」


 そんなことが、とGは言い返そうと思った。が、できなかった。そんなことが、あってもおかしくは無い、と彼は知っているのだ。


「彼らは奇跡的にたどりついた惑星が、思っていた以上に過酷な条件の場所であることに気付いた時愕然とし、それまでの疲れが一気に出てきたかの様に、落胆し、希望を無くしたそうだ。しかし、そんな時に、彼らに話しかけてきた者が居た」

「それはまさか」

「君の想像している通りだよ」


 Gは唇を噛む。


「話しかけてきたのは、惑星だ。惑星そのものだ。惑星を構成している主な鉱物生命体。それが彼らを呼び寄せた」

「呼び寄せた、んですか」


 改めてGは問いかける。そんな話は、聞いたことが無い。少なくとも、故郷でそんなことは教えられなかった。それは、抹殺すべき過去だった、とでも言うのだろうか。


「呼び寄せたのだ」

「ではそれは何故? 彼ら、を呼び寄せて、その…鉱物生命体に、どんなメリットがあったというのです?」


 伯爵はどう言ったらいいものかな、とでも言いたげに苦笑する。話しにくそう、という訳ではない。表現に困る、というのが一番適切だった。


「…そうだな… ひらたく言えば… 彼らは、退屈していたのだよ」

「退屈」

「そうだ。退屈だ。もっとも、アンジェラスの母星にも、意識を持たない鉱物と持つ鉱物があるらしく、持たないのは、我々がよく見知っているそれと変わらないな。しかしそうではなく、その無機物であるはずの鉱物から進化した、我々の知る生物とは全く異なった進化体系を通ってきた彼らは、それでも動くことなくずっと、その惑星で生きてきたのだよ」

「ずっと、ですか」

「そう、ずっとだ。長い時間だ。そもそもアンジェラスの母星は、厳しい自然ゆえ、我々の知るところの『生物』は豊富ではない。限定された場所に、限定されたものしか進化しない」

「それは… 知ってます」

「いや君は知らない。君の生まれた頃には、もうかなりの外部の生物が入り込んでいたからな。彼らが流れ着いた頃はそんなものではなかった。陳腐な言葉で言うなら『死の惑星』。そんな言葉が一番適していただろう。しかしそこで彼らは死ぬ訳にはいかなかった」

「死ぬ訳には」

「せっかく生きて流れついたというのに、やっと自由を手にしたというのに、そこで死んだら、彼らを支配していた連中を高笑いさせるだけだろう? それだけはどうしても嫌だ、と思う者が多かったのだろう。それに彼らは本能に忠実だった。腹が減ったら腹が減った、と素直に簡単に口にする連中だった。生物として、それはひどく正しいと思うよ」

「生物として」

「そう、生物として。そしてまたその惑星の先住の生物は、彼らに話しかけたのだ」

「話しかけた」


 とすれば、その後は、Gも知っていることが多かった。もっともそれは、知っていると言っても、歴史として習うことだ。そして、文字に残されない歴史でもあった。

 その部分は、決して外部に漏らしてはならない、とされていたのだ。


「そう、話しかけた。先住者は、流れてきた彼らに『生きたいか?』と問いかけた。無論、そう言葉にした訳ではない。彼らの頭に直接、そういう意味の意志を送りこんだのだ」


 わかるかね、と伯爵はGに問いかける。判る。判りすぎる程にそれは判る。何が起こったか、ということではなく、感覚が、身体が覚えているのだ。ほんの、まだ自我が生まれるかどうか怪しいくらいの子供の頃だというのに、それは鮮明だった。


「そして先住者は、彼らに提案した。この惑星で暮らすのなら、我々と融合するがいい。さすればその弱い肉体も強靱になり、この惑星で自由に暮らして行くこともできるだろう、と」

「しかしそれはなかなか信じられなかった?」

「おや、その後は君も知っているかね?」

「知っている部分もあります。けど、知らない部分もある。少なくとも、自分達、下の世代には、教えられないことも多いでしょう」

「だったら続けよう。誰も信じなかったのだ。当初は」

「誰も?」

「本当に、誰も、だ。あの方にしたところで、さすがにそれをそのまま当初から信じることはできなかったろう。私とて、それはできないだろう。同じ条件にあったとしても。君なら可能かね?」


 いえ、とGは首を振った。自分はまず無理だろう、と彼は思った。


「しかし時間はどんどん過ぎていく。備蓄食糧も無くなっていく。彼らは再び切羽詰まって行った。このままでは、のたれ死にだった。食べられる植物や動物が、その時の彼らの周りには存在しなかった。そこまで行くにも、惑星に足を踏み入れるまでに、船は故障していた。直すこともできない。手詰まりの状態だったのだ。そこで彼が先住者に切り出した。それは本当なのだろうか、と呼びかけてくる意志に、意志で問い返した。言葉では通じないだろうから、あくまで意志だ。自分達は生きたいのだ、という意志をそのままぶつけた。先住者の申し出を呑もう、と彼は答えたのだ」


 ものすごい度胸だ、とGは思った。


「しかし無論、それが危険だ、と言う者も居た。無論彼も不安だった。不安が無ければ嘘だろう。融合して、そのまま自分が自分で居られるという保証もない。もしかしたら、相手の意志に自分のこのもろい身体がのっとられてしまうかもしれない。しかし、言った自分がそうしなくて、その後が続くはずがない。そして彼は、最初に、そうしたのだ」

「…」

「それがどんな情景なのか判らないが、私もそれをぜひ自分の目で見てみたかったものだ」

「伯爵はその時、どちらに」

「私は日和っていたよ。もう何処に居たのかも忘れた。長い長い時間だ。何をするために自分が生きているのかも忘れていたし、その先何をして生きて行くものなのかもさっぱり判らなくなっていた。…まあ正直言えば、生きるのに飽きていたのだよ」


 伯爵は自嘲気味に笑みを浮かべる。


「そもそもが、惚れた相手と共に同じ時間を長く生きたいと思ってそうなったのだから、その相手に先に逝かれては、どうして行こうかと思うではないか」


 Gははっとする。しかし不意にこぼれたつぶやきを拾う間もなく、相手は話を続けた。


「先住者と融合した彼には、その惑星上でも耐えられる強靱な身体と、それまで全く持っていなかった別の能力が現れた。当の先住者も、そういう結果が出るとは思ってもみなかったらしい。彼を始めとして、次々に融合しようとする者が現れた。皆出方はそれぞれだった。そして、その新たに発現した能力を使って、惑星の上で、それでも最も住み易い場所を探し求めた。ほんの僅かな地域だったが、彼らはやがてその場所を見つけた」

「…**」


 Gは一つの言葉をつぶやいた。彼の知る、首府の名だった。本当の名だった。ふと、その時空間が揺れた。


「いけないね。そう本当の名をつぶやいては」

「それも、ご存じなんですか」


 やや皮肉気にGは問い返した。ふふ、と伯爵は笑って答えない。


「そこに居を構え、彼等は集落を作り、その地で暮らし始めた。ただ、彼らも後で気付いたのだが、彼らは長い長い生を手に入れた代わりに、その血を受け継ぐ子供達には、あまり恵まれなくなってしまったのだ」

「…不思議なことに」

「女性の数が少ない訳ではなかった。少なくとも、男性二、三人に対し一人の割合で女性も居たのだ。女性に優先権があり、生まれた子供は皆の者として、大事に育てられたはずだ」


 そして、生まれてしばらくは人間なのだ。生まれて一年か二年といったところだろうか。その中で融合に耐えられる身体に育った者が、先住者と「会う」のだ。

 先住者と「会った」者は、その能力が一番発揮できる年齢で時間を止めるのだ。

 あまり引き出したくない記憶だった。気のせいか、額から汗が出ていることにGは気付いた。


「そしてそれから、長い時間が経った。他星系の人間が、その星系でひっそりと暮らしている彼らを見つけるまではね」


 ひっそり、と言えばそうだろう。Gの記憶でも、その生活は決して派手なものではなかった。故郷は決して自然が豊かではなかったが、それでも居住できるあたりには、生活を支える程度の植物は存在していたし、周囲の意志の無い鉱物を切り出して作られた家には、それなりに生活できるものが揃っていた。

 子供達は一つ場所に集められ、直接の父母を知らされずに育った。5~60年を一世代とでも言おうか。その中で、子供が産まれるのは一年に一人がいい所で、年によっては全く生まれないこともあった。

 誰が誰とどういう関係を持っても良かった。関係を持つことは奨励された。その相手が異性であろうと同性であろうと。性欲を無くしてしまっては、子孫は残せない。対象が何であろうが、その本能を枯れさせてしまうことの方がこの生活共同体では罪だったのだ。


「私が彼と再会したのは、そんな、アンジェラスが外と開かれてから、だった。彼らは生活そのものは農業を中心としたものだったが、知識は失われた訳ではなかった。きちんと、子孫にその知識を受け継がせていた。…彼は、そんな、知識を最も多く持つ者だった。実質的なリーダーではなかったが、彼の意志は尊重された。ましてや彼は、先読みだった」

「未来の記憶…」

「そう、彼が融合したことで手にした能力は幾つかあったが、その中で最も大きいものは、未来の記憶を持つ、ということだ。我々には一方方向でしかない未来だが、彼の内部ではそれは既にあるものなのだ。その彼が思いだしたから、彼らは外の世界とつながりを持とうとしたのだ」

「何故」

「彼は、そう知っていたのだ」

「何を」

「自分達がやがて、この居住星域を支配するであろうことを」

「…予言」

「違うな。予言は未来の可能性を見るから出来ることだ。彼は、未来を記憶として持っているのだ。それは確定だ。どう誰があがいても、変わることが無い、記憶なのだ」

「変わることが無い…」

「素晴らしい能力ではないか」

「そうだろうか」

「素晴らしいことには間違いあるまい。それが幸福であるのか不幸であるのかは、それを持つ者による。君が、自分の能力を不幸だと思っている様に」

「俺が?」

「思っていない、と言うのかね? その、天使種の中でも類い希な能力だというのに」


 Gは黙った。答えに迷った。そして、どうして迷っているのか、判らなかった。

 ずっと、この能力を疎んできたはずなのだ。だってそうだ。この能力が。時間を越えてしまう能力があったから、自分はずっと、さまよう羽目になっていたのではないか。


「傲慢というものではないか」


 いつになく、伯爵は冷たい口調になった。いや違う。Gは思う。感情が、そこには見えた。普段なら、全く見せることの無い、穏やかな表情の下、決して見せない本当の感情が。

 Gは自分が汗を流していることに、改めて気付いた。だらだら、と額からそれは途切れなく流れる。


 変だ。


 彼はその時やっと、そう思い当たった。


「…与えられたその能力を、使いこなすこともなく、ただ不幸だと嘆くなぞ、傲慢以外の何ものでもない。そしてそれは生きとし生けるものとして、怠慢ではないのか」


 がくん、と自分の身体が前のめりになるのを彼は感じていた。カップがその弾みで倒れる。がちゃん、と転がり落ちた床で、高い音を立てる。そんなことがあるのか。自分達に毒は効かないのではないか。


「…天使種には、確かに薬は効かないだろう。しかし例外はある。死に至らないことが確実な薬を、大量に投与すれば、身体の動きをほんの少しの時間だけ奪うことはできるのだよ」

「…それも…」


 あのひとの、教えてくれたことのなのか? Gはそう問いかけようとする。しかしそれは言葉にならない。伯爵はかたん、と音を立てて立ち上がった。それを見てGは手を伸ばす。伯爵はその手を振り払う。Gの身体はバランスを崩して床に崩れ落ちた。


「旦那様、お支度が出来ました」


 執事の声が遠くに聞こえる。


「お急ぎになって下さいませ」


 冷静な声が、耳に届く。そうだいつだって、あの執事は冷静だ。どんなことがあっても。どんな…


「G君」


 伯爵は足下に転がる彼を見下ろすと、言葉を投げる。


「もう数分で、この屋敷は爆破される。君は火薬庫の上でお茶会をしていたのだ」

「…」


 顔を上げようとする。しかし上手く動かない。ほんの少し、あごか上がるばかりだ。


「お別れだ、G君。我々は、裏切り者を許す訳にはいかない」


 伯爵は静かな口調でそれだけを言うと、足早にその部屋から出て行く。Gはその後ろ姿を見ながら、次第に意識がぼんやりとしていくのを感じていた。

 こんな簡単に。

 おかしくなる。

 彼は顔の筋肉も上手く動かないのに気付いていたが、どうにもこうにも、おかしくて仕方がなかった。

 あはは、と笑いが漏れる。あははははは。


 数分後、その屋敷から火柱が立ち上がった。

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