「その
早乙女さんの口から伝えられたのは、つい昨日面会して会ったばかりの佐伽羅さんが亡くなったというものだった。
「佐伽羅が……死んだ?」
その衝撃の知らせにマノ君は驚きを隠せずに大きく目を見開いている。
僕もあまりにも想像を上回る内容で言葉が出ない。
「死んだって……誰に殺されたんです?」
「えっ? 殺された?」
早乙女さんからはまだ遺体となって発見されたと言われただけで、事件なのか事故なのか、どういう状況で死因は何だったのかなどの詳しい事は何一つとして言われていない。
それなのにマノ君は瞬時に佐伽羅さんは何者かに殺されたと断定した真意が僕にはわからない。
「それ以外にあるか?」
何をバカなことを言っているんだとマノ君は僕を
「いえ、マノさん。佐伽羅さんの死が他殺によるものだと考えるのは至極当然かもしれませんが、現段階では自殺の線で考えられています」
「は? いやいやいや、それはあり得ないでしょ! 何の冗談ですか? 全然面白くないですよ」
他殺ではなく自殺だと早乙女さんに告げられたマノ君は引きつった笑顔でわざとらしくお気楽調に言う。
無理やり口角を上げて笑顔を作っているだけなので、もちろん目は笑っていない。
そんなマノ君の姿に僕は不気味さを感じずにはいられなかった。
「
「ちょっと、マノ君。それを早乙女さんに言うのはお門違いだよ。それに、自殺だって考えるにはそれなりの理由があるんじゃないかな?」
マノ君の物言いが少し言い過ぎだと感じたので、勇気をしぼって僕は注意をした。
何か気に障るようなことを言ってしまったら、僕はどうにかされるかもしれないと思ってしまうほどの迫力が今のマノ君にはあった。
「……あぁ、悪い。伊瀬の言う通りだ。ちっと、冷静じゃなかったな。早乙女さんもすみません」
どうやら、僕の不安は杞憂だったみたいだ。
マノ君は素直に僕の注意を聞き入れてくれて、冷静さを取り戻すように目頭を押さえて深呼吸をしている。
「いえ、お気になさらず。マノさんのお気持ちもよくわかりますから」
「ありがとうございます……とは言え、自殺っていうのは納得できません。自殺に見せかけて殺されたと見るのが妥当です。おそらく、八雲か八雲の協力者的存在であるマイグレーターが佐伽羅にマイグレーションをして自殺したんでしょう。それなら、佐伽羅の肉体で本当に自殺をしているわけですから自殺に見せかける必要もないわけですし。で、佐伽羅の肉体を使って自殺したマイグレーターは誰かさんの体に移ってどっかに行ったってところでしょ」
「そっか。その方法なら自殺に見せかけて佐伽羅さんを殺すことも可能だね」
どれだけ念入りに調べても実際に佐伽羅さんの体で自殺をしているわけだから、殺人の証拠が出てくるわけないよね。
マイグレーションの存在を知らなければ、自殺としてしか断定できなくて当然だと思う。
「あるいは、本当に巧妙な手口で自殺に見せかけて殺されたかだな。佐伽羅は外から完全に隔離された監禁状態にあった。これは佐伽羅が持っている情報を外部に漏らさないためだ。しかし、情報を漏らさないことが目的なら口封じとして佐伽羅を殺しておく方が手っ取り早い。わざわざ、監禁なんていう手の込んだことをする必要はないからな。となると、佐伽羅を監禁して生かしておくのは監禁する側が佐伽羅から情報を全て得られていないため、本当に佐伽羅が持っている情報を漏らされると困る側の人間が口封じに殺しに来ることから守るためだと考えられる。要するに、監禁という名の保護だな。だが、その保護も情報が漏れると困る側の人間が何かしらのルートから俺達が佐伽羅に接触したという情報を得て危機感をつのらせたために、佐伽羅を自殺に見せかけて殺したことで意味をなさなくなったわけだが」
「それって僕達が佐伽羅さんに会ったせいで、佐伽羅さんは殺されたってこと」
「残念ながら、無いとは言い切れないな」
「そ、そんな……」
僕達の勝手な行動で佐伽羅さんを死に追い詰めてしまっていただなんて……
「伊瀬さん達が責任を感じることは何一つありません。佐伽羅さんの命を十分に守ることができなかった我々の問題です。ですから、気にすることなんてありませんよ」
罪悪感に陥りそうになっていたところを早乙女さんが優しく諭してくれた。
そのおかげで心が幾分かマシになった。
「ところで、絶対に佐伽羅さん本人の意思で自殺した可能性はありませんか?」
「さっきも言いましたけど、あるわけないですよ……やけに食い下がってきますね。早乙女さんだって自殺はあり得ないってわかっているでしょ?」
自殺だと考えるのは無理のある状況で、本当に自殺の可能性がないのかと聞いて来る早乙女さんをマノ君は怪訝そうな顔で見る。
「えぇ、もちろんわかっています。わかってはいるのですが……」
早乙女さんにしては珍しく歯切れが悪いように感じる。
早乙女さん自身もまだ理解が追い付いていない、そんな感じだ。
「早乙女さんがそこまで言うってことは、早乙女さんにそう思わせる何かがあるんじゃないんですか?」
僕がそう聞くと、早乙女さんはわかりやすく図星だという表情を見せた。
いつもはあまり表情を表に出さない早乙女さんがここまで簡単に表情を見せるということはよっぽどの何かがあったのかもしれない。
「何なんです? その何かって? 教えてくださいよ」
早乙女さんの表情を見たマノ君も問い詰めるようにその何かを教えろと目で訴える。
「……あくまでも私の直感的感想なのですが」
重たそうな口をゆっくりと早乙女さんが開ける。
「……佐伽羅さんの死因が関係しているんです」
「死因? 死因なんかどうだろうが、そういう風に見せかけているで全部おしまいじゃないですか」
「普通なら、そうです。普通の死因なら……それで済むと思います」
「ということは、普通の死因ではなかったってことですよね? どう普通じゃなかったんですか?」
「それは……」
早乙女さんは一度、目を閉じて口を押さえた。
思い出したくない光景が脳裏にフラッシュバックしてきたみたいな様子ですごく辛そうだ。
それでも早乙女さんは意を決して、その先を語ってくれた。
そして、その内容は僕達にさらに衝撃を与えてくるものだった。