「ところでさ、美結と祐介君っていつからそんなに仲良かったの? クラスも別のクラスだし、接点とかもあんまりないよね?」
白石さんと連絡先を交換し終えたところで僕はそんなことを聞かれる。
たしかにその疑問は白石さんから見ればもっともなことだ。
美結さんとは六課で接点はあっても、学校ではあまりなかった。
六課のことを白石さんに言うわけにはいかないので、どう説明しようか悩んでいるところで美結さんが助け船を出してくれた。
「あ~それはね、日菜っちとか咲希っちとかの経由で知り合いになったんだ」
「そうなんだ。あれ? でも、咲希ちゃんはわかるけど、何で日菜ちゃん? 祐介君と日菜ちゃんって違うクラスだよね?」
今度は市川さんと僕の接点が
「ほら、伊瀬っちのクラスに天野っちがいるでしょ。それで、二人が仲いいから天野っちを仲介して日菜っちとも仲良くなったんだよね」
マノ君のことをいつも「アレ」とか「アイツ」とか呼んでいた美結さんの口から「天野っち」なんて言葉が出てくるとは想像がつかなくて、なんだがとても変な感じがする」
「なるほどね~!
「えっ? それ本当?」
六課で見てきたマノ君は市川さんよりも美結さんとの方がお似合いな感じがしていた。
さりげなく美結さんを伺ってみると、どことなく複雑な表情を浮かべているようだった。
「本人達がどうかはわかんないよ。一部の女子が噂程度に言っていることだしね。何? 祐介君、もしかして日菜ちゃんに気があったりとかする感じ?」
白石さんは色恋の話が好きなのか、強引に話をそっちの方向へと持っていこうとする。
「そういうわけじゃないです! ただ、ちょっと意外だったというだけで」
「ふ~ん、それならそれでいいんだけどね。もし、本当に気があるなら美結に手伝ってもらいなよ。日菜ちゃんと美結は小さい頃からの幼馴染だったみたいだし」
「そうなの!?」
初耳の情報に僕は美結さんに目を向ける。
「伊瀬っちにはまだ言ってなかったんだっけ? 日菜っちとは小さい頃に住んでた家が近所だったこともあって昔から仲良かったんだよね。それで今もなんやかんやあって高校まで続いている幼馴染なの」
「へぇ~、そうだったんだ。知らなかったよ。じゃあ、マノ君とも幼馴染だったりするの?」
「うん、ッ! ううん! 天野っちとは一応、高校で出会ったから幼馴染じゃないよ」
一瞬、おかしな反応をした美結さんだったけどすぐに何事もなかったように会話を続けた。
「そっか。てっきり、僕はマノ君も美結さんと幼馴染かと思ったよ。なんか、幼馴染な雰囲気があるからさ」
「そ、そうかな? そんなことないと思うよ」
マノ君と幼馴染であることを否定する美結さんは奥歯に物が挟まったような言い方をする。
「そんなことより、そろそろ時間ヤバくない? 朝のホームルーム始まっちゃうよ」
美結さんに言われて時計を確認するとホームルームが始まるまであと三分もなかった。
「わっ! 本当だ! 今すぐ教室に戻んないと!」
「そうだね!」
僕達は小走りでそれぞれの教室へと向かった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「じゃ、祐介君またね!」
「うん、じゃあね!」
隣り合う自分達の教室が見えた所で白石さんが手を小さく振って一組の教室に入っていった。
「じゃあ、美結さんも」
「あっ! 待って、伊瀬君」
教室に一歩踏み込もうとした寸でのところで美結さんに呼び止められる。
「どうしたの?」
「あ、えっとね……大丈夫かなって思ってさ」
「大丈夫って何が?」
「その~……言いづらいんだけど、愛羅っちのこと好きになっちゃったりしてないかなって」
「へ?」
あまりにも突拍子もない内容で僕は思わず声が裏返ってしまう。
「こんな言い方して良いのかわからないけど、なってないよ」
「嘘じゃない?」
「うん、嘘じゃないよ」
「なら、よかった~」
なぜか美結さんは安堵する。
一体、どういうことなんだろう。
「何で僕が白石さんのこと……好き……だと思ったの?」
「え~っとね、愛羅っちってちょっと八方美人なところあるでしょ。誰に対しても距離が近いっていうか。同性同士ならそれでも問題はないんだけど、異性となると話は別でさ。本人には相手に好意がなくても、あの距離感で迫っていくから勘違いっていうか、結構愛羅っちのこと好きになっちゃう男子が多くてね」
美結さんの話を聞いて僕は思いあたる節がいくつか頭に浮かぶ。
「そんなんで告白とか受けちゃうから愛羅っちとしてはフルしかないわけ。そうすると、どうしても愛羅っちのことをよく知らない人からは男子をその気にさせといて、告られたらフル悪い女みたいに見えちゃうみたいなんだよね」
モテる女子は大変だよねと美結さんは苦笑いする。
「愛羅っちのよくない噂とか聞くこともあるかもしれないけど、誤解されやすいだけで根はすっごく良い子だからさ、仲良くしてあげてもらえないかな?」
「もちろんだよ。僕も白石さんが悪い人なんかじゃないって、さっき話しただけでわかったから大丈夫。心配しないで」
「ありがとう、伊瀬っち。引き止めちゃってごめんね。じゃあ、またね」
美結さんはお礼とお詫びを言って、急いで白石さんの後を追っていった。
女子は女子でいろいろと大変なんだなと思いながら僕もホームルームが始まろうとしている教室に急いで戻った。