他の生徒が横切る数も増えてきたので、そろそろ美結さんと別れて教室に向かおうと思った時、一人の生徒が美結さんに声を掛けてきた。
「美結〜、何してんの?」
近付いて来た生徒は明るめの茶髪に校則違反ギリギリというかギリギリアウトなスカート丈の女子生徒だった。
ギャルというわけではなさそうだけど、ギャル要素を感じさせるギャルっぽさがその女子生徒にはあった。
派手な化粧をしているわけではなく、むしろナチュラルメイクに近いこともあってギャルに対する特有の嫌悪感は感じない。
とは言え、化粧も髪を茶髪に染めていることも校則違反ではあるんだけど。
美結さんに気さくに話し掛けているところを見るに、おそらく美結さんと仲のいいクラスメイトか何かなんだろう。
「あっ!
愛羅と呼ばれた女子生徒と美結さんは嬉しそうに手を取り合う。
失礼かもしれないけど、「愛羅」って名前もまたギャルっぽいなと思ってしまった。
あと、女子って意味もなく手を取り合っている様子をよく見るけど、どうしてそんなことをするんだろうか。
「あれ? なになに? もしかして、邪魔しちゃった感じ?」
遅れて僕に気付いたことで、美結さんと二人きりで話していたことから変な勘ぐりを受ける。
「やだな〜、そんなことないよ〜。普通にお喋りしてただけだよ。ほら、伊瀬っち転校生だし、学校生活には慣れてきたのかなって思って」
どうしてか、美結さんまでギャルっぽく見えてきてしまった。
しかし、軽くじゃれ合いながらも否定すべきとこはしっかりと否定している。
「へぇ〜、君があの転校生君なんだ〜。うち、
「あっ、えっと……伊瀬祐介です。こちらこそ、どうぞよろしく」
白石さんは僕が今までに接してこなかったタイプのため、どうも会話がぎこちなくなってしまう。
「祐介君って言うんだ〜。ねぇ、結構可愛い顔してるって誰かに言われない? 肌とかも女の子みたいにツルツルだしさ」
突如、自分の頬を白石さんにプニプニとつつかれた僕は一瞬、何が起こったのかわからず呆然としてしまう。
「ねぇ、見て美結。すごくない? 赤ちゃんみたいにプニプニにしてるんだけど。美結も触ってみなよ」
「ちょっと、愛羅っち! 伊瀬っちにそんなことしちゃダメだよ! びっくりし過ぎて伊瀬っち固まっちゃってるよ!」
「えっ、嘘!? ごめん!」
美結さんが止めてくれたおかげで白石さんは僕の頬から手を離してくれた。
「ごめ〜ん、祐介君! 君の肌があまりにもスベスベで、つい触っちゃった! 嫌だったよね?」
若干の上目遣いで謝ってくる白石さんに僕は困ってしまう。
「かなりびっくりはしたけど、嫌だとか……そういうことはなかったから大丈夫」
「本当? 良かったぁ〜! 初対面で嫌われちゃったらどうしようかと思ったよ〜!」
わざとらしく胸に手を当て、ほっとした顔を白石さんは見せる。
「も〜う、愛羅っちは人との距離感がおかしいんだよね。誰にでも距離が近過ぎるっていうかさ。まぁ、そこが愛羅っちの良いところではあるんだけどね。だとしても、初対面の人に対する距離感じゃないよ!」
「ごめんって、美結〜! 今度から気を付けるからさ、許してよ〜!」
美結さんに懇願するように白石さんが抱き着く。
「だから、距離感が近いって言ってるでしょ!」
抱き着いてきた白石さんをまるで粘着テープを剥がすように引き離す。
「ごめん、ごめん。ついねっ」
「ついじゃないでしょ! まったく、もう……」
いつもマノ君とやり合っている美結さんがいなされている姿を見るのは少し新鮮な感じがする。
「ごめんね、マノ君。本人に悪気があるわけじゃないから許してあげて」
「白石さんの様子を見てれば、それはわかるから大丈夫だよ。全然気にしなくていいから」
「ありがとう。そう言ってくれるだけで助かるよ」
「じゃ、仲直りってわけじゃないけど、仲良しになった印として連絡先交換しない?」
白石さんは取り出した可愛らしいカバーケースの付いたスマホをフリフリとする。
物理的にも心理的にも距離感の近い白石さんには
「僕なんかとでよかったら」
「本当? やった! 嬉しい!」
慣れた手つきでスマホの画面を指で上下左右に素早くスワイプした白石さんはQRコードを映し出す。
「はい、これ読み込んで」
まだスマホすら出していなかった僕は慌ててズボンのポケットの中をまさぐった。
パッと取り出したスマホでQRコードを読み込もうとして二つ折りを開こうと――
ん?
二つ折り?
白石さんは僕が取り出した物を見て不思議な顔していて、美結さんは可笑しそうに口元を
違和感を感じてすぐに目を落とすと手に握られていたのは六課で使っている黒色のガラケイだった。
「あっ! こっちじゃなかった!」
慌てていたせいでスマホと取り間違えてしまったらしい。
すぐさまガラケイをポケットに戻して、スマホを取り出す。
今度は間違えなかったようで、二つ折りを開くことなくアプリのカメラを起動してQRコードを読み込んだ。
程なくして、友達登録が完了して連絡先を無事交換することが出来た。
「オッケー! 何かあったらいつでも連絡してきてくれていいからね。遊びの連絡とかでも大歓迎!」
「う、うん。ありがとう」
そう言ってくれるのは有り難いんだけど、きっと僕から遊びの連絡をすることはないと思う。
なにせ僕にはそんな勇気もコミュ力もないからね。
ここは笑って受け流すしかなかった。
そんな自分が情けなくもあったけど、この感情は心に秘めておくことにした。