「広崎さんに接触してきたマイグレーターが見つかるかもしれないって本当なの?」
佐藤君達とお弁当や赤点の話をした放課後、僕達は立川の六課に集まっていた。
なぜなら、僕が皆に招集をかけたからだ。
佐藤君達との会話からひらめいた案を実行するために。
「まだ確証があるわけじゃないんだけどね。それでも可能性はあると思うよ。美結さんもこの間みたいに何時間も画面とにらめっこするのは嫌でしょ?」
「そりゃ、もちろん。アタシだって、できることならあんな苦行二度とごめんだよ」
「なら、やってみる価値はあるんじゃないかな?」
「あるとは思うけど……でも、どうやって?」
「カメラは一つじゃなかったってことだ」
美結さんの疑問をマノ君が答える形となったが、その回答に美結さんはちんぷんかんぷんのようだ。
「ん? どういうこと?」
「ったく、少しは頭を使って考えたらどうだ?」
「は!? どういう意味よ! アタシが頭を使ってないって言うの!? アンタが紛らわしい言い方するからでしょ! 日菜っちは今のでわかった?」
美結さんは自分と同じ仲間が欲しくて市川さんに助けを求める。
「えっと……私もちょっとよくわからなかったかな」
市川さんは申し訳なさそうにマノ君をチラリと見る。
「実は、私も」
那須先輩もおずおずと手をあげる。
思いがけず心強い仲間を二人も得たことで美結さんがマノ君に「ほらぁ」と見返す。
「今まで俺達はドライブレコーダーや監視カメラ、定点カメラといったある種固定されたカメラの中にある映像からしか調べられていないよね。だけど、俺達が調べるべきカメラはもっと他にある……カメラは一つだけじゃなくてたくさんあったことを見落としていたってことをマノ君は言いたいんだと思うよ」
この中で唯一、マノ君の言ったことの意味を汲み取った丈人先輩が噛み砕いて三人に説明する。
「監視カメラとかの他に事件前後の映像を映したカメラがたくさんあるかもしれないってことですか? ちょっと、私には思いつかないです……」
「アタシも〜。だって、事件を担当した刑事さん達が押収した映像証拠にはそれしかないんだよ。他になんて無くない? それにたくさんって……」
市川さんと美結さんが左右対称に頭をひねる光景は少し面白い光景だった。
「はッ!? まさか、私のように人々の様子をカメラで記録するのが趣味な人が事件現場にいたとか?」
「いるわけねぇだろ、そんな奴! ってか、誰かコイツを早く逮捕しろよ。例の写真の件、忘れたとは言わせねぇぞ」
獲物に見つかった小動物のように那須先輩は丈人先輩の影に隠れる。
例の写真とは、一時期学校で出回った僕とマノ君のツーショット写真のことだ。
該当の写真はマノ君の制裁によってほぼ全て処分された。
一部回収できていない物もあるけど、そこまではどうしようもない。
幸いにも回収できていないのはかなり少数のため、たいした影響は出ないとは思う。
……あれ?
そう言えば、清水さんが持っていた写真は回収できたんだろうか?
今度、清水さんに確認しておかないとな。
……やっぱり、ちょっと怖いからやめておこう。
「でも、波瑠見ちゃんの予想は当たらずとも遠からずってとこじゃないかな?」
「そうですね。那須先輩が一番答えに近いかもしれません」
丈人先輩の指摘に僕はたしかにと頷く。
那須先輩の独特の言い回しのせいでわかりづらかったけど、本質的には僕達が言わんとしていることに最も近い。
反論してこないとこを見ると、マノ君も同意見のようだ。
もの凄く嫌そうな顔はしてるけど……
「え? どういうこと?」
那須先輩の答えが正解に一番近いと聞いて美結さんが余計に混乱する。
「今の時代、誰もがどこでもカメラを持ってるってことだ」
「あ……そっか。スマホだね」
市川さんがひらめいたことで、僕達の意図にたどり着く。
「そうだ。お前らだってインスタとかティックトックとかやってるだろ?」
「まぁ、花の女子高生だし。もちろん、やってるよ。アンタはどうなの?」
女子高生だからやっているという美結さんの理論はいささか暴論な気がするけど、納得してしまう部分もたしかにある。
「あん? やってるわけねぇだろ。俺だぞ?」
「それも、そうね」
マノ君のキャラ的にやっていなさそうではあったけど、まさにその通りだったみたいだ。
「俺はともかく、日本だけても何百万、何千万のユーザーが利用しているんだ。事件前後の現場付近を撮影した写真や映像が一つや二つ投稿されていてもおかしくはない。いや、事件現場が渋谷のスクランブル交差点という観光地的な知名度がある分、それ以上にあるはずだ」
「監視カメラのように固定されたカメラだと、どうしても死角が多くなってしまう。だけど、僕達が持っているスマホのカメラなら、固定カメラの死角の範囲も誰かが撮っているかもしれない。そこに広崎さんに接触したマイグレーターの姿やマイグレーションを行った後のマイグレーターの体がどうなったかが映っている可能性は十分にあると思うんだ」
「うん! 可能性あるって! 絶対、映ってるよ!」
すごいすごいと美結さんがマノ君の背中をバンバンと叩いている。
その勢いはちょっと痛そうではあったけど、マノ君は痛がる素振りを見せずに無視している。
「私もその方向で調べてみるのはアリだと思うな。この間みたいにモニターとにらみ合うよりも、よっぽど効率的だしね」
「うんうん! 日菜ちゃんの言う通りだよ。世の中やっぱり、私みたいな趣味の人がいっぱいいるんだね」
『それは断じて違う』
『それは断じて違います』
語尾は違えど、僕達は間髪入れずにそう断言する。
「え?」
「よしっ! じゃあ、さっそくその方法で調べてみようか」
丈人先輩の掛け声に全員が頷く。
「え?」
那須先輩を除いて。