「で、どうやって調べていくの?」
マノ君のデスクに集まって全員が一つのパソコンの画面を覗き込んでいる。
「おい、あんまり近付くな。暑苦しい。ってか、わざわざ俺のパソコンで見る必要ないだろ」
個人用のパソコンのため画面は大人数で見るように大きくなってはいないので、画面を見ようと皆の頭がマノ君を中心にひしめき合っている。
そのため、自然とそれぞれの距離が近くなっている。
「だって、さっき伊瀬君が言ってたやり方でどう調べるのかわかんないんだもん。それに、しょうがないじゃん。そうしないとよく見えないんだし」
マノ君に押しのけられた顔を押し返すように美結さんが身を乗り出す。
「そうだとしても限度ってもんがあるだろ。あぁ、もういい。伊瀬、適当に事件直前のスクランブル交差点を映した映像を出してくれ」
皆がマノ君を中心に体を寄せているため上手く身動きが取りづらいこともあって、マノ君は一番マウスの近くにいた僕に操作をお願いしてきた。
「わかった」
僕は警察情報システムに丈人先輩から教えてもらった暗号キーを入力して、言われた通り事件直前の様子が映ったいくつかの映像の中からスクランブル交差点の中央を映した定点カメラの映像を選んだ。
マウスの左ボタンをダブルクリックすると選んだ映像がフルスクリーンで表示される。
「よし。とりあえず、該当の箇所まで早送りしてくれ」
マノ君からの指示を受けて僕はタイムバーを表示させて事件直前の映像までカーソルを引っ張って飛ばしていく。
該当箇所と思われる辺りで、白の三角形の再生ボタンにマウスのカーソルを重ねる。
マウスのボタンを「カチッ」とクリックした音共に映像が再生された。
人々が雑多に交差点を行き交う中で小さくはあるけど見知った顔を見つけた。
事件当時の広崎さんだ。
僕はすぐさま一時停止をして、広崎さんの顔がよく見えるように倍率を上げてズームインしていく。
「ありがとう、伊瀬。その辺で止めてくれ」
「うん、わかった」
マノ君は広崎さんの周囲に数人写り込む程度でズームするのをやめるように僕に言った。
「どうして、ここで映像を止めたの? 広崎さんの姿はよく映っているけど、肝心の広崎さんに接触したマイグレーターが誰なのかはこの映像からはわからないよ。それにこの映像なら、私がこの間チェックしたしね」
定点カメラのライブ映像を重点的に担当していた市川さんが指摘する。
「そうなのか。まぁ、問題ない」
市川さんからの指摘を受けてもマノ君は他の映像に切り替える素振りは見せない。
もちろん、マノ君は市川さんが広崎さんに接触したマイグレーターの姿を見落としたと疑って映像を切り替えないわけではない。
最初に言っていた通り、事件直前のスクランブル交差点を映した映像ならなんでもいいのだ。
だから、マノ君は適当にと言っていた。
「この中なら、コイツあたりでいいか。伊瀬、ちょっとマウス貸してくれ。こっからは俺がやる」
「うん。じゃあ、お願い」
僕はマウスをマノ君の手元までスライドして持っていく。
たしかに、ここから先はマノ君にお願いした方が良さそうだ。
これからやる作業は僕はあまりやったことがないし、使い慣れているマノ君がやるのが一番スムーズに事が運ぶはず。
マノ君は映像をフルスクリーンから画面分割に切り替えて、とあるソフトを起動させる。
「なるほど。考えたね」
それを見ていた丈人先輩がマノ君がこれからやろうとしていることを把握して感嘆の声を漏らす。
「あ……私もわかったかも。推しの類似のグッズを調べる時によく使う手だわ」
同じように那須先輩も気付いたようだ。
那須先輩は趣味の方で絶賛活躍中だったことが気付いたきっかけとなったらしい。
「似ているグッズを調べる時に使う? それって……」
那須先輩の発言がヒントになったことで市川さんが答えにたどり着こうとしていた。
「え!? これだけで三人共、何かわかったの?」
未だにマノ君が何をしようとしているのかわからない美結さんが三人の顔を行ったり来たりする。
そんな周りの反応は他所にマノ君は着々と作業を進めている。
ソフトの起動が終わると、広崎さんの周囲を映して一時停止してある分割した映像にカーソルを向ける。
広崎さんのちょうど右隣を歩いていた若い女性の顔にカーソルを合わせてから、マノ君はマウスの左ボタンをワンクリックしてからドラッグする。
すると、若い女性の顔を囲むように四角い枠ができた。
「あれ? これって……もしかして?」
ここまで来ると美結さんにも分かったようだ。
「やっと、お前もわかったか。そうだ。今から、コイツの顔をネット上に画像検索をかける」
マウスから「カチ、カチッ」と音が鳴ると、検索結果が画面いっぱいに広がった。