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伝えられるキモチ

「タケシ先生悪いけどさ、コイツの面倒3日間見てくんない? 連休使って家族旅行に行くことになっちゃって」


 リビングで勉強してた太郎が、病院の仕事が終わった俺に言った第一声。


 ――おいおい、これは。


「俺の病院がアレルギー専門のトコだと分かっていて、こんなものを持ち込んだのか!?」

「でも大丈夫っしょ♪ 連休中は病院休みなんだし。世話の仕方はこの紙に書いたから、その通りに、してくれたらいいから」


 そう言うと旅行の準備があるからと、そそくさと帰ってしまった。


「動物の世話って、小学生以来かも」


 目の前にいるのはあざやかな朱色を頬につけた、オカメインコだった。丸い目でじっと俺を見つめ、首を傾げたと思ったら。


「キュッ…タケシ、スキっ! キュキュッ……スキスキッ」


 なぁんて、口煩く言ってのける。


「ガーッ! アイツ、なんてことを覚えさせたんだっ!?」


 テーブルに置かれたそれを殴るワケにもいかないので、しゃがみ込んで頭を抱えた。


「おいおい……ひとりきりの楽しい連休に、こんなのと一緒にいなきゃならないって、一種の拷問だろうよ」

「タケシッ、タケシタケシ! キュピッ……ワラッテワラッテ!」

「何を言ってんだ。可笑しくないのに笑えないって」

「ワラッテ! カワイイカラ! カワイイ~カワイイ!!」


 コイツ――


「おいコラ、よく聞けよ! 3日間俺が世話するんだ、だから少しは大人しくするんだぞ!」

「キュキュ? タケシ、スキスキ」

「……くっそ。ダメだ、口撃できん。これは上書きでもして、封じさせるしかないか」


 太郎が置いていった世話の仕方を書いた紙を手に取り、しげしげと見つめてみたのだが――


「こんなに可愛らしい顔してんのに、名前が『オカメちゃん』ってどんなネーミングセンスしてんだか」


 オカメちゃんの毎日のお世話の仕方と題して、事細かに書いてあることは難しいことじゃなかったけど、いかんせん言ってる言葉が、俺が逝きそうなことばかり連呼するので、なんとかせねばと思った。


「これ……家族が聞いたら、何ていいわけするんだろ」

「タケシタケシッ! アイッ…アイーン」

「タケシタケシってウルサイね、もう……」

「アイシテルッ、アアッ、アイシテルッ」

「オカメちゃん……まんま太郎状態じゃないか。もうなんでこんなのばかり、覚えさせたんだアイツ」


 太郎に言われたんじゃなく、鳥に言われただけなのに何でこんなに――


「あーもー! 絶対上書きしてやるっ! 呪いの言葉を言わせてやるからな!!」

「ピッ! タケシ、カワイイ」

 (///エ///) カーッ


 ――かくて上書き作戦はキッチリと実行され、オカメちゃんはタケシを連呼するのを止めたのだが。


「……多少余計なことも上書きされてるけど、何かするったら計画の狂いは当たり前だ。しょうがあるまい」

「何言ってんの? オカメちゃんの世話してくれてサンキューな。また明日、授業が終わったら寄るから!」


 旅行帰りにわざわざ病院に寄って、オカメちゃんを引き取りに来た太郎は旅の疲れを取るため早めに就寝すべく、自室に篭ってオカメちゃんと向き合う。


「どうだったオカメちゃん。タケシ先生、優しくしてくれたか?」

「……キュッ、タロウハ、バカイヌ!」

「え!? オカメちゃんいったい……」

「スコシハ、ダマリナサイ…ピピッ」


 オカメちゃんから発せられる言葉の数々に、笑わずにはいられない。


「やべっ。タケシ先生に言われてるみたい」


 口元を押さえて、クスクス笑っていると。


「ナニシテル、ナニシテル」

「何してる? 何だコレ?」

「イマ、ナニシテルッ、ピッキュッ」


 その言葉の意味が何をさすのか、なんとなく分かってしまった。タケシ先生はきっと、ぼんやりしながら俺が何をしてるのか、考えていたに違いない。しかもオカメちゃんが覚えちゃうくらい、俺のことを――


「ヤベッ!」


 胸のドキドキが止まらない。今すぐに逢いに行って、タケシ先生を抱きしめたい!


「バカイヌ、ベンキョウ、バカイヌ、ベンキョウ」


 じーんと想いを噛みしめてるトコに、興ざめするような言葉を言ってくれるオカメちゃん。


「コレは俺に、勉強を促すための言葉だな」


 しかし愛されていることには、かわりないだろう、うん!


「…キュッ、アイムアイム」

「ん? アイム?」

「チガウッテッ……チガウッ…アイムアイム」

「わっかんねぇな、何だコレ?」


 ヾ*ё*ツ ←オカメちゃん正面図www


 ご主人様である、俺の顔をじっと見つめ――


「…アイム、スキダヨ…アイムスキ」


 ――歩、好きだよ……?


「アイムバカイヌ、バカバカ……アハハッ」

「……なんて言葉ばっか、覚えさせてんだ。タケシ先生」

「メンドクサイ……オカメチャンカワイイ…スキスキッキュキュッ」


 これはもうこのままにして、他の言葉を覚えさせないようにしないとな。傍にタケシ先生がいるみたいで嬉しかったから――余計な言葉もあるけどそれでも、すっげぇ嬉しかったから。


「ありがと、タケシ先生……」

「バカイヌ…ダマリナサイッ」

 ・・・・・Σ( ̄⊥ ̄lll)・・・・・


 やっぱ、違う言葉覚えさせようかな。

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