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オカメちゃん

(これは太郎からオカメちゃんを預かった連休の話です)


 連休中日、桃瀬が自宅に遊びに来た。俺は相変わらず、オカメちゃんの言葉を矯正中……


 あまりコイツの姿(というか言ってる言葉)を、人様には見せたくはないのだけれど。


「ちーっす。暇してるだろうから、遊びに来てやったぞ」

「……暇なら涼一くんと、デートでもすればいいのに」


 ダイニングテーブルの上に置かれた、鳥かごの中にいるオカメちゃんと対峙しながら、じと目で桃瀬を見てやった。


「おっ、珍しい鳥いるじゃん。どうしたんだ?」

「太郎が旅行に行くから預かってくれって、置いていったの」


 桃瀬が遠慮なく、ずいっと鳥かごに顔を近づけて、しげしげと眺めていると――


『タケシッタケシ! キュキュッ……スキスキッ』

 o(- -;*)ゞ イヤァ


「随分、ハッキリとモノを言う鳥なんだな。テレるだろ周防」


 にやにやしながら、肘で身体を突いてくれる。余計なトコを、突っ込まなくてもいいのに。


「……テレるよりも呆れてるんだって。だから今、一生懸命にマトモな言葉が言えるように、目下矯正中なんだ」

「ほぅ、何を言わせようとしてるんだ?」


 腕を組んで俺を見下ろす桃瀬に、ふっと鼻で笑いながら、オカメちゃんに向かって、言葉を促すように言ってやる。


「オカメちゃん、オカメちゃん。太郎は?」

『キュピッ! タロウハ、バカイヌ』


 すっごくキレイな発音で、教えた言葉を言ってくれた。飼い主のバカっぷりが似なくてよかった次第である。


「すっげぇ! まるで、周防が言ってるみたいだ」


 ――おいおい、驚くトコそこなのか!?


「よし、決めた!」


 何故か桃瀬は持ってきていたカバンから筆記用具を取り出し、ダイニングテーブルの椅子に素早く座ると、目の前のオカメちゃんを見ながら、持ってきていた大きな紙に、いそいそと書き始めたではないか。 


 ああ、またあの絵が見られるのか――(・ ̄へ ̄|||) ウーム


「ももちん、いきなりどうしたの? しっかり色鉛筆まで持参して」

「あ~……最近、涼一と絵の比べっこしてるんだ。この間は、周防の顔を描いたんだぞ。結構キレイに描けたんだが涼一の方が、ちょっとばかり上手くてな。持って来れば見せれたのに」

「そうなんだ、へぇ。残念だったよ、それは……」


 桃瀬の目に映る俺の姿が、どれだけ歪んだものになっているのか。想像するだけでオソロシイ 

 ガクガク((( ;゜Д゜)))ブルブル


 持ってきていないという言葉に内心、ほっと息をついたときだった。


 『アイム! アイムアイムッ スキスキッ! ピピッ』


 Σ(・`0´*)ヌォ

 こっ、このワードは言ってはいけないものだぞ!


 オカメちゃんの頬の色を塗っている最中の桃瀬はちらっと顔を上げ、小首を傾げて俺を見た。


「随分とこの鳥は、自己愛が強いんだな」

「は――?」

「だってよ、アイム好きなんて言うのは、自分のことが好きっていう意味なんだろ。ちなみに、名前は何ていうんだ?」

「……オカメちゃん」


 ――よかった、バレてない。


 歩のことだと分かった途端、絶対にツッコミ入れるに決まってるから。桃瀬はそういうヤツだしな。


「オカメちゃんね、しっかりと書いてやるぞ。それにしても、どうしてそんなに、顔を赤らめてるんだ周防?  オカメちゃんと、同じ顔になってる」


 まったく――余計なトコ、突っ込みやがって。面倒くさい……


「ももちんの描く絵が楽しみすぎて、ワクワクしてるからだよ」


 あさっての方を向きながら、適当なことを言ってやった。それが嬉しかったのだろうな。色鉛筆の使う速度が、瞬く間に上がる。


「よしっ! 傑作が出来たぞ。これを持って帰って、涼一にも描いてもらおうっと」


 嬉しそうに微笑むと、描いた紙を押し付けるように手渡してきた。


 どれどれ――


 (・ ̄O ̄;) ウォッ!

 この絵を見て、何をどういえばいいのか……ひとまず突っ込むべきトコは、遠慮せず突っ込ませてもらおうか。


「えっと、ももちん。どうしてオカメちゃんが、ワカメを食べてるの?」


 しっかり、指を差して指摘してやる。ワカメと表記されていなかったら、きっとそこら辺に生えてる、雑草と思ったかもしれない。


「オカメとワカメ、似てるから」


 確かに一文字違いの言葉なれど、ソレをわざわざ描くところが、桃瀬画伯の真髄というか、何というか――


「とにかく、描いてくれてありがとうって言っておく」


 この日は夜遅くまで久しぶりに語らったけど、結局オカメとワカメについては、よく分からなかったのであった。


 桃瀬の頭の中、一回解剖してみたいかも。


 めでたし めでたし(・∀・)

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