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第63話 大切な居場所②

この世界に来て、一週間が経過していた。


元の世界では命をかけてエージェントの職務を全うしていたが、責任感で続けていたようなものだ。


だが、こちらでは違う。


責任感もあるが、初めて誰かのために戦いたいと思っている。


かけがえのない仲間や、自分自身のために命をかけるのも良いものだ。


倫理観から職務に疑問を持つことも、同僚や属している組織を警戒することもあまりなさそうに思う。


憧れではなく、純粋に恋や結婚を考えることもできるだろう。


今、改めて思う。


この世界に来て良かったと。




ギルドホールに行くと、周囲から歓声があがった。


「ギルマス補佐ぁ~!」


「魔族相手に無双やったんだって?」


「大ケガしたって聞いたのに、ピンピンしてんじゃね~かっ!この化物が!!」


最後の奴、前に出てこ~い!誰が化け物じゃい!!


「タイガ!もう大丈夫なの?」


フェリが走って、こちらに来た。


「うん。ありがとうな。」


頭を撫でる。


「きゃあ~、あれが噂のナチュラル・ジゴロ・ストロークね!初めて見たわ~。」


なんだっ?


ナチュラル・ジゴロ・ストロークって!?


そんな技は知らんぞ。


「タ、タイガ・・・恥ずかしいよ。」


「ああ、ごめん。」


俺もすごく恥ずかしい。


今度からは気をつけよう。


「おまえなんか、魔族にやられたら良かったんだっ!アホーっ!!」


んん?


声がした方を見ると、こそこそと去っていく見慣れた後ろ姿があった。ああ、いつかアイツに刺されるかもな。自重しよう。


ラルフよ。


頼むから、道は踏み外さないでくれよ。




フェリに連れられてカフェに行くと、リルやパティ、シスとテスがお茶を飲んでいた。


「もう英雄扱いね。」


クスッと笑いながら、リルが声をかけてきた。


「なんであんな騒ぎになっているんだ?」


「やっぱり、自覚がないのね。前にランクSスレイヤーは、大隊と同格の戦力だと言ったのは覚えてる?」


「うん。」


「魔族とランクSが一対一で戦った場合の生存率は、50%くらいと言われているの。」


「そうなのか?」


驚いた。


ランクSの基準がアッシュしかいないしな。


「アッシュもひとりで倒したことはあるけれど、回復魔法を使える者がパーティーにいたから無事に帰ってこれたのよ。あなたみたいに単独で三体も倒して、翌日に平然としていられるなんて普通はありえないことなの。」


「いやいや、体はまだ痛いぞ。」


「でも入院しなかったじゃない。」


少し強い口調で言われた。


心配してくれているのがわかっていたので素直に謝った。


「そうだな。みんなにも心配かけたし、今後はひとりでの行動は慎むよ。」


「そう思ってくれてるなら良いわ。」


ニコッと笑顔を見せたリルに、もしこの子と結婚することがあったなら、尻に敷かれるんだろうなと関係のないことを思ってしまった。


タイミングを見て、俺はアッシュに話した内容をみんなにも伝える。


「それじゃあ、タイガはずっとここにいるのね!」


ずっとかどうかは、わからないがな。


「まあ、そうかな。でも俺の戦い方が魔族の気を引いてしまったみたいだから、みんなには迷惑をかけるかもしれない。」


「何言ってるんだよ。学院でも巡回でも、タイガがいなかったら私たちはここにいなかったんだから。」


フェリとパティの言葉に、シスやテスも頷いてくれている。


「それで、タイガは誰とパーティーを組むつもり?」


ああ、それを忘れていた。


パーティーを組むって言っても、知り合いがあんまりいないんだよな。


「その様子なら決まっていないのね。だったら、ここにいるメンバーで良いんじゃない?」


「良いのか?アッシュとのパーティーはどうするんだ?」


「タイガと出会った時のメンバーは、正式にパーティーを組んでいる訳ではないの。私とフェリは普段は学院に通う必要があるし、ラルフは・・・ね。」


「・・・ね」って。


まぁわかるけど。


闇にひどいなリル。


「私たちも足手まといかもしれませんが、タイガさんやパティとご一緒したいです。」


「そうね。シスとテスは、私たちがフォローをしてレベルアップしてもらうわ。あとは平日にも稼働できる回復役か、前衛がもうひとりいると万全ね。」


「誰か思い当たるスレイヤーはいるのか?」


悪いが、ラルフは嫌だぞ。


「週末だけになるけど、前衛ならひとり希望者がいるわ。」


フェリが気が進まないという感じで、提案してきた。


「誰かな?」


「テレジア・チェンバレンよ。」


「良いのか?大公家のお嬢様だぞ。」


「大公閣下に許可をもらったらしいわ。」


あのおっさん・・・


「良いんじゃない。彼女なら、実力的に問題はないわ。」




メンバーの構成を整理すると、こんな感じだ。


【タイガ】

スレイヤーランク / S

ジョブ      / 刀剣士

ポジション    / 前衛


【リル】

スレイヤーランク / A

ジョブ      / 風属性魔法士

ポジション    / 後衛


【パティ】

スレイヤーランク / A

ジョブ      / 支援魔法剣士

ポジション    / 前衛(後衛可)


【フェリ】

スレイヤーランク / B

※実力はほぼA

ジョブ      / 精霊魔法士

ポジション    / 後衛


【テレジア】

スレイヤーランク / 未登録

※実力はフェリと同格

ジョブ      / 火属性魔法剣士

ポジション    / 前衛


【シス】

スレイヤーランク / D

ジョブ      / 水属性魔法剣士

ポジション    / 前衛


【テス】

スレイヤーランク / D

ジョブ      / 火属性魔法士

ポジション    / 後衛


前衛と後衛のバランスとしては悪くない。ただし、フルメンバーの場合はだ。


「平日の後衛が必要だな。」


「そうね。パティが支援に特化するなら、前衛でも構わないと思うわ。」


シスとテスの修練は他のみんなにお願いして、残り一名のメンバーを俺がスカウトしてくることになった。ニーナのところにも行きたかったので、自由にさせてもらえるのはありがたい。


「まだ体調が万全じゃないから、あまり無理をしてはダメよ。あと、タイガはすぐに余計なことに巻き込まれるから、自重してね。」


別れ際に、リルからしっかりと釘をさされた。


他のみんなはシスとテスの特訓のために修練場に向かう。


俺は新しいパーティーメンバーを探すあてもなかったので、とりあえず受付に行って、めぼしい人材がいないかを聞くことにする。




「なんでダメなんだよ!」


受付で何かもめてるようだ。


「ですから、あなたは資格を剥奪されているんです。違うギルドに来たからといって、再登録はできません。」


「ふざけるなっ!資格を剥奪されたのは、あっちのギルドでセクハラされてギルマスをぶん殴ったからだ。俺は悪くないっ!!」


職員と、自分を俺と呼ぶアマゾネス系のお姉さんが口論している。


資格剥奪?


あっちのギルド?


ギルマスをぶん殴った?


おお、元気が有り余ってるな。


「あっ!ギルマス補佐、助けてください!!」


へっ!?


「この方が、他のギルドで資格を剥奪されているにも関わらず、こちらで雇えって言われるんです。」


やめて、巻き込まないで。


さっきリルに、「自重して」と言われたばかりなんですけど。


「ギルマス補佐?ってことは、あんたエライんだよなっ?」


そんなことはないですよ~。


「あ、コラっ!目をそらすな。」


天井を見て気づかないふりをしていたら、下から覗きこまれて絡まれだした。


「話くらい聞いてくれよ。」


仕方なく、目線を合わせた。


背が高い。


180センチ近くはありそうだ。ゴツいわけではなく、鍛え抜かれた体をしている。


じっと睨みつけてくる目を見返す。


目というのは正直だ。


後ろめたいものがあれば、直視されると狼狽える。このお姉さんにはそれがない。むしろ訴えるような眼差しをしていた。


ソート・ジャッジメントを発動してみると、この女性の内面は誠実そのものに感じられた。


「わかった。話を聞くから、カフェにでも行こうか。」


職員に後を引き継ぐことを伝えてから移動する。


アマゾネスお姉さんは、少しホッとしたような表情をしていた。


「バーネット・レイクルだ。あんたは?」


言葉遣いは悪いが、自分から名乗る常識は持っているようだ。


「タイガ・シオタだ。」


「え~と、ショタ?」


ショタって言うな!


「呼びにくいだろうから、タイガで良い。」


「じゃあ、タイガ。あんた、ギルマス補佐なんだろ?俺をスレイヤーとして登録してくれ。」


「先に詳しい事情を話してくれないか。」


バーネットは露骨にめんどくさそうな顔をした。







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