バーネットに話を聞いた。
彼女は一週間程前まで、冒険者ギルドに所属していた元ランクA冒険者だそうだ。
冒険者ギルドは、図書館にあった『ギルド組織の変遷』という本に記載があった。文字通り冒険をする者たちを管理するギルドで、この世界では一番メジャーなものらしい。
スレイヤーが魔族や魔物の討伐を専門にするのに対して、冒険者は未開地や遺跡の捜索を主に行う。それ以外にも、賊の討伐やアイテム採取などの依頼に対応する、いわば便利屋とも言える。中には傭兵としての依頼を受けることもあるようで、バーネットはそちらを専門にしていた。
ギルドから資格を剥奪された経緯についてだが、男勝りな実力や態度から「男女」と周りから呼ばれ続けて腹を立て、「俺は女だ!」と男性冒険者数人を半殺しに追いやった。
その後、ギルマスの執務室に呼び出されたバーネットは、散々に説教され続けて悪態をつき、「そんな態度をとるから、男女と言われるのは当然だ!」と言われたことでキレてしまい、ギルマスをボコったとの事だ。
普通に考えたら、そりゃ資格を剥奪されるよな。
「セクハラというのは、男女と言われたことについて言っているのか?」
「そうだよ。あんたもそう思うのか!?」
噛みついてきた。
狂犬かコイツは・・・
「いや、そうは思わない。バーネットは魅力的な女の子だからな。」
あ、これもセクハラ発言か?
「・・・・・・・・・。」
バーネットが急に静かになった。
ん?
どうした?
やっぱり、セクハラ発言と思われたか!?
「・・・今、何て言った?」
なんかモジモジしている。
顔も赤いぞ。
「バーネットは、十分魅力的な女の子だって言った。」
「そ、そんなこと・・・ない・・・」
急に汐らしくなった。
こういったところを見ると可愛いとすら思えてくる。
「タイガは、その・・・俺を口説きたいのか?」
何を言ってるんだ、コイツは?
いや、チョロ過ぎないか?
「口説きたいとかじゃなくて、一般論を言っている。」
「はうぅぅぅ・・・」
なんか喘いでいるぞ。
色っぽいからやめてくれ。
「何にせよ、殴ったことについては、罰則を受けても仕方がないかな。」
「・・・え!?」
「回復魔法は使えるのか?」
「え・・・あ、うん。使えるよ。」
おっ、ちょうど良いかも。
「ジョブは?」
「回復支援魔法士だけど、弓と格闘術に剣も使える。あと盾術も。」
おお、理想的じゃないか。
「わかった。ちょっと待ってろ。」
俺は職員のところまで行き、バーネットの対応について協議することにした。
受付に行き、職員に話をした。
「さっきのバーネット·レイクルの件だけど、ちょっと良いかな?」
「あ、ギルマス補佐。ややこしいことを押しつけてしまって申し訳ありません。どうなりました?」
職員は申し訳なさそうな顔をしている。
本心なら、人を巻き込むのはやめろよ。まぁ、今回は偶然にも適任だったから良いが。
「あの子は俺のパーティー要員として引き取ろうと思う。規約的に何か問題はあるかな?」
「規約では、他のギルドで資格剥奪されたものは受け入れないことになっています。問題を起こす可能性がありますので。」
まあ、組織としてはそうだわな。
「詳しい事情を聞いてみたが、冒険者ギルドにも非がない訳じゃない。対外的に問題があるなら、俺が対処するけど。」
「対外的な問題は、正直言ってありません。でも、スレイヤーギルド内で問題を起こされると困るので・・・」
正論だな。
「何かもめ事を起こすようなら、俺が対処するぞ。」
「えっ、あの・・・フルボッコとか、死人が出るようなことはちょっと・・・」
「・・・しないよ。」
「ああ、すいません。怒らないでください。死にたくないです。」
こいつらは俺のことを何だと思っているのだろうか。
「今後のために聞いておきたいんだけど、俺ってそんなに威圧的かな?」
「・・・いえ、そう言う訳では・・・」
「ん?じゃあ、どう言う訳か教えてくれないかな?」
怖がらせないように、できるだけ優しく聞いてみた。
「その・・・ギルマスから、あなたを怒らせるとギルドを壊滅させられるかもしれないから気をつけろと。あと、チェンバレン大公も肩入れしているから・・・と笑いながら言われたので。」
あの野郎。
しかも、なんでチェンバレン大公が出てくる。
「大丈夫だ。そんなことはしないよ。アッシュには俺から話しておくから。」
めっちゃ笑顔で答えてやった。
「ひっ・・・よ、よろしくお願いします。バーネット・レイクルさんのことは、お任せします。」
「うん、わかった。ありがとう。」
「いえ、あの・・・ギルマスをフルボッコにするんですか?」
しねーよっ!
「おまたせ。ちょっと、ギルマスのところに行こうか。」
カフェに戻った俺は、バーネットに声をかけた。
「ど、どうする気?」
なぜか、バーネットの表情が固い。
「ん、どうかしたのか?」
「周りの人が、タイガは危険だから、関わると人間を辞めることになるよって・・・」
周囲を見ると、みんなが目を反らしやがった。
「誤解だ。」
本当にギルドを潰してやろうかと思った。