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第65話 大切な居場所④

「事情はわかった。お前に任せるよ。」


アッシュに相談したら、あっさりとOKが出た。


「対外的に問題はないのか?」


「対外的?ああ、冒険者ギルドか。大丈夫だろう。たまに共闘することはあるが、基本的にはお互いに干渉はしないからな。ま、何かあったら、うちの最終兵器が発動するぞって言ってやるよ。」


「最終兵器って何だ?」


「えっ、お前だよ。」


傍らにいたバーネットがビクッと反応した。


「最終兵器って、おまえは俺をどんな立場にしたいんだ?」


「だって、そうしておけば他の組織とか、王国への牽制になるだろう?素手で魔族を倒せる奴なんて、世界中を探してもお前だけだしな。」


さわやかに笑いながら言うなよ。


「頼むからやめてくれ。」


「あ・・・あの、あんた、アッシュ・フォン・ギルバートだよな?」


こらえきれないといった感じで、バーネットが口を挟んできた。


「ああ、そうだ。」


「あんたは国内・・・いや、大陸内でも屈指のスレイヤーだって聞いている。そのあんたが、最終兵器とかっていうタイガって・・・何者なの?」


「世界最凶のスレイヤーさ。」


おい、最強じゃなく最凶になってるのがおかしくないか?


「・・・・・・・・・。」


「タイガは俺よりも強いからな。10回戦ったら7~8回は敗ける。」


しれっと余計なことを言うなよ。ほら、バーネットが変な目で俺を見ているだろうが。


「そ、そうなんだ。」


「俺がアッシュに勝てるのは訳ありなんだ。」


「わ、訳って?」


「魔法がすべて無効化するんだ。」


「それって既に人外じゃ・・・」


何度でも言う。


頼むからそういう目で俺を見るのはやめてくれ。




修練場にバーネットを連れて行って、みんなに紹介した。


経緯を説明したが、さすがに女性陣ばかりなので冒険者ギルドに非難が殺到する。


「そんな扱いをするなんて最低。」


「こんなにきれいな人を男扱いするなんて、ひどすぎますわ。」


などなど。


「あ、ありがとう。」


バーネットはうれしそうだ。


「早速だけど、バーネットの認定試験を始めるぞ。」


落ち着いたところで話を進める。


実力はしっかりと確かめておきたかった。




バーネットは元々がランクA冒険者だ。等級については基本的にそれを引き継げば良いだろう。因みに、後でリルからスレイヤーと冒険者との実力乖離を聞き、バーネットの正式なランクはBとなっている。


従来、異なるギルド間で移籍することは、それほど珍しいことではない。バーネットの場合は、一度資格を剥奪されているのでややこしいだけだ。


「認定試験って、何をすれば良いんだ?」


バーネットの質問にリルが答えた。


「剥奪された資格を別のギルドで復活させるのは、相当ハードルが高いのよ。本来は所属していた冒険者ギルドとスレイヤーギルドが協議を重ねた上で審議を行うから、何ヵ月もかかったりするの。それを新規扱いで登録するってことよね?」


「ああ、等級認定ではなく、認定試験にしたのはそのためだ。それと、バーネットが入ることで、パーティーのパワーバランスの底上げができるかを見るためにチーム対抗戦でやる。」


こういった認定試験は、同様のケースで過去にも事例があるとアッシュからは聞いていた。事例があるということは、ひとつのルールとして運用できるということだ。


「わかった。タイガは俺にチャンスをくれた。だったら、あとは自分が力を尽くすだけだ。」


バーネットは前向きだった。




チームをふたつに分ける。


【チームA】

タイガ   前衛

リル    後衛


【チームB】

パティ   前衛

シス    前衛

バーネット 中衛

フェリ   後衛

テス    後衛


バーネット以外については特訓も兼ねているので、こういった布陣となっている。


「タイガ、体は大丈夫なの?」


「模擬戦くらいなら問題ない。全力で来い。」


「わかった。」


パティとそんなやり取りを行った後に、ルールを決めた。


チームAが攻撃側、チームBが防御側として、お互いの陣営にあるフラッグを倒した方を勝ちとする。勝敗にこだわるものではないが、より実戦的なものの方がバーネットの実力を確認しやすいからだ。


「さて、やるか。」


準備が整ってから、模擬戦を開始した。




「おっ、楽しそうなことをやっているな。俺も参加してくるかな。」


アッシュは執務室の窓から、修練場の様子を見ていた。


すぐに自分も修練場に向かおうとしたが、「ギルマスっ!決済が必要な書類がまだこんなにも残っているんですよ!!」と、職員からの無情の言葉が響き、拘束される。


「ほんの10分くらい抜けるだけだから。」


「ダメです!先にすべて終わらせてください!!奥様に言いつけますよ。」


「わかった!すぐにやる!!」


職員はアッシュの弱点を心得ていた。




リルが先制の魔法を放った。


風撃が広範囲に展開し、前衛の二人を襲う。


「任せて。」


フェリの精霊魔法が土の障壁を生み出し、パティとシスに迫った風撃を阻む。


属性魔法は各人一種限定でしか扱うことができないが、精霊魔法は土、水、火、風の精霊との契約により、全ての属性魔法の発動が可能となる。


「俺は防御と回復に回る。フェリとテスは後方から前衛二人の支援を頼む。」


バーネットが仲間に的確な指示を出した。実戦経験で言えば、チームBで一番のようだ。


「わかったわ。テス、リルに牽制を。」


「はい!」


テスとフェリが炎撃をリルに連続で撃ち込む。リルは風属性の障壁で防ぐが、足止めをされた形だ。


「シス、タイガを止めるよ!」


「うん!」


シスが俺に向けて、氷柱を連続で放ってきた。直線的な攻撃だったのでかわすが、パティが俺の動きを先読みして、模擬戦用のダガーを振るってきた。アッシュとの戦いの時と同じ戦法だ。


ダガーは間合いが狭い。


俺は膝を落としながら、パティに向かって踏み込んだ。


バシッ!


右手首をはねあげて、ダガーの軌道を逸らす。


「良い連携だ。」


そう呟いて、パティを抜いた。


フラッグに向かって駆ける。


「通さないっ!」


バーネットが盾を剣のように振るってきた。大型の盾だが動きは早い。


盾術と言うと、防御に特化していると思われがちだが、実は違う。


敵の視界や動線を遮る。


味方の攻撃の軌道を隠す。


相手を押し出し、撥ね飛ばす。


武器として振るう。


形状や重量、使い手の技量にもよるが、地味に見られがちな盾は、戦闘において多用な戦略を可能とするマルチウェポンなのだ。


バーネットの盾による攻撃をかわす。


「盾術か。どんなものか、見せてもらおうか。」


元の世界では、盾を装備した敵と戦うことなどなかった。


興味深いので、じっくりと観察させてもらおう。
















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