「事情はわかった。お前に任せるよ。」
アッシュに相談したら、あっさりとOKが出た。
「対外的に問題はないのか?」
「対外的?ああ、冒険者ギルドか。大丈夫だろう。たまに共闘することはあるが、基本的にはお互いに干渉はしないからな。ま、何かあったら、うちの最終兵器が発動するぞって言ってやるよ。」
「最終兵器って何だ?」
「えっ、お前だよ。」
傍らにいたバーネットがビクッと反応した。
「最終兵器って、おまえは俺をどんな立場にしたいんだ?」
「だって、そうしておけば他の組織とか、王国への牽制になるだろう?素手で魔族を倒せる奴なんて、世界中を探してもお前だけだしな。」
さわやかに笑いながら言うなよ。
「頼むからやめてくれ。」
「あ・・・あの、あんた、アッシュ・フォン・ギルバートだよな?」
こらえきれないといった感じで、バーネットが口を挟んできた。
「ああ、そうだ。」
「あんたは国内・・・いや、大陸内でも屈指のスレイヤーだって聞いている。そのあんたが、最終兵器とかっていうタイガって・・・何者なの?」
「世界最凶のスレイヤーさ。」
おい、最強じゃなく最凶になってるのがおかしくないか?
「・・・・・・・・・。」
「タイガは俺よりも強いからな。10回戦ったら7~8回は敗ける。」
しれっと余計なことを言うなよ。ほら、バーネットが変な目で俺を見ているだろうが。
「そ、そうなんだ。」
「俺がアッシュに勝てるのは訳ありなんだ。」
「わ、訳って?」
「魔法がすべて無効化するんだ。」
「それって既に人外じゃ・・・」
何度でも言う。
頼むからそういう目で俺を見るのはやめてくれ。
修練場にバーネットを連れて行って、みんなに紹介した。
経緯を説明したが、さすがに女性陣ばかりなので冒険者ギルドに非難が殺到する。
「そんな扱いをするなんて最低。」
「こんなにきれいな人を男扱いするなんて、ひどすぎますわ。」
などなど。
「あ、ありがとう。」
バーネットはうれしそうだ。
「早速だけど、バーネットの認定試験を始めるぞ。」
落ち着いたところで話を進める。
実力はしっかりと確かめておきたかった。
バーネットは元々がランクA冒険者だ。等級については基本的にそれを引き継げば良いだろう。因みに、後でリルからスレイヤーと冒険者との実力乖離を聞き、バーネットの正式なランクはBとなっている。
従来、異なるギルド間で移籍することは、それほど珍しいことではない。バーネットの場合は、一度資格を剥奪されているのでややこしいだけだ。
「認定試験って、何をすれば良いんだ?」
バーネットの質問にリルが答えた。
「剥奪された資格を別のギルドで復活させるのは、相当ハードルが高いのよ。本来は所属していた冒険者ギルドとスレイヤーギルドが協議を重ねた上で審議を行うから、何ヵ月もかかったりするの。それを新規扱いで登録するってことよね?」
「ああ、等級認定ではなく、認定試験にしたのはそのためだ。それと、バーネットが入ることで、パーティーのパワーバランスの底上げができるかを見るためにチーム対抗戦でやる。」
こういった認定試験は、同様のケースで過去にも事例があるとアッシュからは聞いていた。事例があるということは、ひとつのルールとして運用できるということだ。
「わかった。タイガは俺にチャンスをくれた。だったら、あとは自分が力を尽くすだけだ。」
バーネットは前向きだった。
チームをふたつに分ける。
【チームA】
タイガ 前衛
リル 後衛
【チームB】
パティ 前衛
シス 前衛
バーネット 中衛
フェリ 後衛
テス 後衛
バーネット以外については特訓も兼ねているので、こういった布陣となっている。
「タイガ、体は大丈夫なの?」
「模擬戦くらいなら問題ない。全力で来い。」
「わかった。」
パティとそんなやり取りを行った後に、ルールを決めた。
チームAが攻撃側、チームBが防御側として、お互いの陣営にあるフラッグを倒した方を勝ちとする。勝敗にこだわるものではないが、より実戦的なものの方がバーネットの実力を確認しやすいからだ。
「さて、やるか。」
準備が整ってから、模擬戦を開始した。
「おっ、楽しそうなことをやっているな。俺も参加してくるかな。」
アッシュは執務室の窓から、修練場の様子を見ていた。
すぐに自分も修練場に向かおうとしたが、「ギルマスっ!決済が必要な書類がまだこんなにも残っているんですよ!!」と、職員からの無情の言葉が響き、拘束される。
「ほんの10分くらい抜けるだけだから。」
「ダメです!先にすべて終わらせてください!!奥様に言いつけますよ。」
「わかった!すぐにやる!!」
職員はアッシュの弱点を心得ていた。
リルが先制の魔法を放った。
風撃が広範囲に展開し、前衛の二人を襲う。
「任せて。」
フェリの精霊魔法が土の障壁を生み出し、パティとシスに迫った風撃を阻む。
属性魔法は各人一種限定でしか扱うことができないが、精霊魔法は土、水、火、風の精霊との契約により、全ての属性魔法の発動が可能となる。
「俺は防御と回復に回る。フェリとテスは後方から前衛二人の支援を頼む。」
バーネットが仲間に的確な指示を出した。実戦経験で言えば、チームBで一番のようだ。
「わかったわ。テス、リルに牽制を。」
「はい!」
テスとフェリが炎撃をリルに連続で撃ち込む。リルは風属性の障壁で防ぐが、足止めをされた形だ。
「シス、タイガを止めるよ!」
「うん!」
シスが俺に向けて、氷柱を連続で放ってきた。直線的な攻撃だったのでかわすが、パティが俺の動きを先読みして、模擬戦用のダガーを振るってきた。アッシュとの戦いの時と同じ戦法だ。
ダガーは間合いが狭い。
俺は膝を落としながら、パティに向かって踏み込んだ。
バシッ!
右手首をはねあげて、ダガーの軌道を逸らす。
「良い連携だ。」
そう呟いて、パティを抜いた。
フラッグに向かって駆ける。
「通さないっ!」
バーネットが盾を剣のように振るってきた。大型の盾だが動きは早い。
盾術と言うと、防御に特化していると思われがちだが、実は違う。
敵の視界や動線を遮る。
味方の攻撃の軌道を隠す。
相手を押し出し、撥ね飛ばす。
武器として振るう。
形状や重量、使い手の技量にもよるが、地味に見られがちな盾は、戦闘において多用な戦略を可能とするマルチウェポンなのだ。
バーネットの盾による攻撃をかわす。
「盾術か。どんなものか、見せてもらおうか。」
元の世界では、盾を装備した敵と戦うことなどなかった。
興味深いので、じっくりと観察させてもらおう。