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第66話 大切な居場所⑤

バーネットが俺を足止めする。 


大型の盾をうまく操り、視界を遮って進路を塞ぐ。抜け出すのには、かなり苦労しそうだ。


盾を小刻みに動かし、フェイントを入れている。


動きに無駄がなく、速い。これはバーネット本人への攻撃を難しくすると同時に、フェリやテスの動きまで見えなくする効果があった。


後方に気配を感じて、横に回避。


パティのダガーが空を切る。


バーネットは俺の動きに合わせて平行に動き、正面の位置をキープし続けている。


盾術がこれほど厄介なものとは想定外だった。


後方からパティの斬撃。


正面からの盾で払うような動き。


かわしたところを、後方からのシスの氷柱。


完全にハマってしまった。


視界の端からは、盾の向こうから炎撃が繰り返されているのが見える。フェリとテスによる牽制で、リルも動けないようだ。


俺はバーネットの実力を見定めるために、武器は持たずに模擬戦に参加していた。これがこの状況を作ってしまった原因でもある。


実戦に置き換えて考えれば、武器を使った攻撃でパティやシスを先に倒す。その後に、バスタードソードなどでバーネットの盾を力で叩き伏せて、突破するというのが攻略法といったところだろう。


膠着状態が何十秒か過ぎた頃に、シスの氷柱が俺達のフラッグにヒットした。


初めての連携としては及第点だろう。


「まいったな。五人とも良い動きだったよ。」


模擬戦を終えて、感想を言う。


「本当ね。してやられたわ。」


リルも悔しさよりも、頼もしさを感じているようだ。


フェリとテスがリルを足止めし、バーネットとパティが俺を間合いから逃さなかった。それを見ながら冷静にフラッグを倒したシス。


五人がそれぞれに役目を果たし、持ち味を出したと言える。


「タイガが武器を持っていたら、結果は変わっていたと思う。」


パティはしっかりと状況を把握できていたようだ。


「そうね。でも、バーネットの盾がなければ、今の状況でも突破されていたわ。盾術って、総力戦ではすごく頼もしい存在。」


フェリも、バーネットの盾術の有効性を理解している。


「今の連携の精度がもっと上がれば、本当に強いパーティーになりそうね。」


「それじゃあ、もっと連携の特訓をしなきゃだね。」


全員が今後の課題に気づき、前向きに考えてくれている。


頼もしいパーティーになりそうだ。




その頃。


「あっ!模擬戦、終わってるし・・・」


ギルマスの執務室では、アッシュがひとりで肩を落としていた。




ギルドを出た俺は、ひとりで治療院に向かった。


リルからきつく言われたせいもあるが、回復魔法が効かないので、化膿などのリスクを未然に防ぎたかったからだ。


この世界の医療は、元の世界と比べると科学的な研究があまりなされていない。魔法の発展がその理由だが、抗生物質などの科学薬が存在しないのだ。


魔法と同じように病気にも耐性があれば良いのだが、それを立証する手段は今のところなかった。


「君の体はどうなっているのかね?昨日の傷がほぼ塞がっているよ。魔法ではなく、自然治癒でこんなに回復が早い人間を見るのは初めてだ。」


先生、それは俺の方が理由を聞きたいです。


とりあえず、体の方は順調に回復しているようだ。痛みも出血もなかったので模擬戦に参加したが、傷口が開くこともなかったようで何よりだった。


もしかして、身体能力と同じように血小板とか白血球とかも能力が向上しているとか?


よし、考えてもわからないものはスルーしよう。




治療院を出てから、ニーナの店に向かった。


渋いおじさんのティーンさんが、すぐに取り次いでくれる。


「タイガ、いらっしゃい。行方不明になってる間に、魔族を三体も倒したそうね。さすがだわ。」


「成り行きでそうなっただけだ。」


「ケガは大丈夫なの?」


「うん。問題ない。」


ニーナに蒼龍の研ぎと、バスタードソードの改造を依頼した。


「それじゃあ、見せてもらうから工房に来て。」


と言われ、腕を組まれて連れていかれた。


おお、胸が、胸が柔らかい。


ありがとう。




「蒼龍は刃こぼれもしていないし、状態は大丈夫ね。ちゃんと手入れもしてくれているから、仕上げ砥石で軽くキレイにしておくわ。」


研ぐというのは、刃を研磨することだ。状態に応じた研ぎをしないと、すぐに刀は疲弊する。使用後のメンテナンスは重要だった。


「ダガーは良いの?」


「それじゃあ、これも頼むよ。あと、このバスタードソードなんだが、抦の部分が少し太いから調整して欲しい。」


そう言って、バスタードソードを見せた。


「これって、アダマンタイト製じゃない。純度がものすごく高い。どこで手に入れたの?」


アダマンタイトは、この世界で最高硬度を誇る金属だ。


ギリシア神話では、英雄ペルセウスが魔物メデューサを倒した武具がこのアダマンタイト製だったと言われている。実在する金属ではなく、古代ギリシアでは非常に固い鋼鉄がそう呼ばれていたとする見解が強い。


こちらの世界ではレアメタルとして実在し、ダイヤモンド級の硬度を誇る金属として、相当な高値がつくという。


「魔族が使用していたのを、戦利品としてもらってきた。」


「そうなのね。少し時間はかかるけど、専用のグラインダーがあるから、それで調整をして革を巻きつけて仕上げるわ。あと、鍔も大きすぎるから、振りやすいように少し削っとく。」


刀身の長さはともかく、鍔や抦は調整してもらうことで扱いやすくなる。さすがニーナだ。一目見て調整が必要な部分を見抜いている。


「助かるよ。」


「蒼龍だけだと、乱戦時の刃こぼれが心配だったの。このバスタードソードと使い分ければ私も安心だわ。タイガには無事に帰ってきて欲しいもの。」


ニーナはクスッと笑って、そんなことを言った。


外見だけでなく、中身も惚れちゃいそうだよ。


内心でどう思おうが、自由だから好き勝手にそんなことを考えた。






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