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第84話 上位魔族⑥

タイガはアッシュのいる方角から強い邪気を感じた。


だが、目線を外すことはない。


迫ってくる魔族が、そちらの方に気をやったので間隙ができたのだ。


抜刀。


蒼龍が空気を斬り裂き、魔族を両断した。


戦闘中に他の事に気を取られた奴はこうなる。魔族は自分の身体能力を過信し過ぎて、人間と戦っていても気を抜きすぎなのだ。


それにしても、アッシュが対峙しているのは普通の魔族ではなかった。邪気の質が違いすぎる。


「とりあえず、こっちを片づけるか。」


そう呟きながら、こちらで交戦する状況に目を向けた。


どれだけ相手が強かろうが、一対一の戦いには干渉すべきではない。特にバトルジャンキーたるアッシュの獲物を横取りするのは本人も望まないだろう。


死にそうになったら助けて恩を売っとけば良いしな。




パティは魔族の間合いに入ってダガーを振るった。


これで何度目の攻撃だろう。


バーネットの盾による突進との同時攻撃。ヒット&アウェイで退いた時には、シスとテスが魔法の攻撃により魔族の動きを足留めしていた。


焦らない。


絶えず冷静でいること。


タイガの教え通りにそれを守る。


バーネットも、シスもテスも、その事だけは忠実に守っている。


不思議と魔族に対する恐怖心はなかった。自分ひとりではどうにもならない相手でも、他の3人と相互にカバーができていれば何とかなる。今はその思いがあった。


魔族の表情を見る。


好きに動けない苛立ちが見えた。


こちらのコンビネーションが成功している証拠だ。ダメージも蓄積してるはず。


バーネットとアイコンタクトを交わし、さらに身体能力強化の魔法を重ねがけする。


相手の懐に入り、コンパクトなフォームでダガーを横に薙いだ。


スピードの増したパティの斬撃を避けるために反射的に後ろに下がった魔族。


その側頭部に、バーネットの盾が打ち込まれる。


これまで突進という直線的な動きしかすることのなかったバーネットが、盾を剣のように横に薙いだのだ。


単調な攻撃を続けると、敵の反撃をくらいやすい。逆に言うと、突然の変化を組み込むことで相手は対応を誤る。スピードの変化、攻撃パターンの変化、連携技の変化。状況に応じた変化を組み合わせることで、二乗の攻撃パターンが完成する。


こめかみ辺りを強打された魔族は、体勢を大きく崩していた。


パティは横に薙いだダガーを、手首と肘の動きで返して刺突に変化させる。


魔族のみぞおちに刃が通った。


パティとバーネットが深追いせずに素早く後退すると、テスによる炎撃が追い討ちをかけ、さらにシスの剣撃が魔族にトドメをさした。


「・・・やった。やったよーっ!魔族を倒したっ!!」


四人は晴れやかな表情をして、互いの顔を見てから微笑みあうのだった。




一方、スレイドたちは苦戦を強いられていた。


動きが素早く、堅牢な障壁に囲まれた魔族。


空を飛びながらスレイドとセティの剣撃をかわし、ケイガンの風撃を避ける。


「くそっ!あたらねぇ。」


ケイガンが愚痴る。


先程から何度も風撃を放ち、飛び回る魔族を狙うが、動きが早すぎてかすりもしない。


急降下をしながら攻撃してくる魔族。


カウンターを狙った剣撃を繰り返すスレイドとセティだが、相手の動きに翻弄されていた。


そんな戦闘から少し離れた所に、ミシェルがいた。


だめ・・・何もできない・・・


ミシェルは無力感を感じずにはいられなかった。


魔力量の大きさや、威力については他の誰にも引けを取らない。


でも、緻密なコントロールができなかった。


敵だけしかいないのであれば、詠唱する余裕さえあれば特大の魔法で対処できる。でも、混戦時には自分は何もできない。


魔法を撃てば味方を巻き込んでしまう。


ミシェルはそんな自分が歯痒かった。


「何をしている?」


いつの間にか、横にタイガが立っていた。


その時になって、他の魔族二体がすでに討伐されていることに初めて気づいた。


タイガが規格外の強さなのは目の当たりにしている。


しかし、ランクDが二名もいるパーティーが、もう一体を早々に倒したなんて考えられなかった。自分たちのパーティーよりも、総合力では格段に劣るはずなのに。


そんな風に考えてしまう。


原因は、連携が取れない自分のせいなのに。


「混戦時には・・・私の魔法が強すぎて、味方を巻き込んでしまうんです。」


強がっても仕方がないので、正直に言ってみた。


「そうならない努力はしたのか?」


タイガの一言がミシェルの心を鷲掴みにした。


かなり前に努力はしてみたのだ。


だけど、コントロールが良くなることはなかった。


そんなことをしても、自分の強みが消えてしまうだけだからと、すぐに諦めたとも言える。


「魔法士やスレイヤーとしてよりも、人間として未熟なことに気づくべきだな。」


うつむき、無言のままのミシェルに容赦のない言葉が突きつけられた。


ミシェルは期待していた。


強い魔法が打てるから仕方がないというような言葉を言ってもらえると。


「何のためにスレイヤーは存在する?」


ショックを受けたままのミシェルに、タイガは質問する。


「・・・魔族や魔物を倒すため・・・ですか?」


「そうだ。じゃあ、それは何のためだ?」


ハッとした表情をして、ミシェルはタイガを見上げた。


「魔族や魔物から人を守るためだ。それは一般人だけじゃない。仲間であるスレイヤーも同じだ。」


「・・・・・・・・・。」


「強大な力や魔法を持つことは悪いことじゃない。使い方を間違えさえしなければ、より多くの人を守ることができる。」


その通りだ。


この人の言っていることは間違いじゃない。私は・・・ただ、力だけを求めていた。


「力自慢は、時として弊害を生む。個人の力が強くても、無力感に苛まれる。かつての俺がそうだった。」


「どうやって、それを克服したんですか?」


タイガがこちらを見てフッと微笑んだ。


「自分の力を伸ばすことよりも、チームとして強くなるためにはどうしたら良いかをまず考える。その答えが出たら自分の役割りと、その役割りを果たすためにはどうしたら良いかを考える。あとは努力だ。それができれば、必然的にもっと強くなれるだろう。」


ミシェルは、長い間燻っていた霧が晴れたような気がした。


だからこの人はこんなに強いのかと、改めて思えた。


「努力してみます。目的を見失わないように、しっかりと考えながら。」


ミシェルの決意は表情に現れていた。










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