「おおっ!上手くいった。」
ケイガンが連携魔法の効果の高さに軽く感動をしていると、またもやテスが冷静に答えた。
「当然です。タイガさんの言うことに、間違いなんかありません。」
確かにその通りだ。
単純な組み合わせとは言え、魔法は1人につき1属性のみしか使えないという固定観念にとらわれていた。これまでは、誰も異なる属性魔法の連携など試みたことはなかったのだ。
「魔法が使えないのに、とんでもない発想をするものだ。」
無意識にそんな言葉が出た。
「次は私が連携魔法やります!」
ミシェルが元気よくタイガに申し出た。
「いや、それはやめておこう。」
「えっ!?なぜですか?ギルマス補佐、私に冷たくないですかぁ?」
ああ、こいつマジでうざい。
「ミシェル、おまえの魔法に何を組み合わせるんだ?」
「ええっと・・・火は相殺されるから、やっぱり風ですね!」
「メテオライト・ドライブに風撃を組み合わせたらどうなる?」
「えっと、スピードが速くなります。」
「それを誰がコントロールできるんだ?」
「・・・ケイガン?」
「えっ?俺!?あの質量のコントロールは無理だぞ!」
だと思った。
メテオライト・ドライブは威力がすごいけど、本人すらちゃんとコントロールできているようには見えなかった。
「仲間が巻き添えを食らうかもしれないからダメだ。」
「ぶぅ~。」
そんな風にふくれてもダメだぞ。
かわいくないし。
その様子を見て、ケイガンは思った。
ああ・・・めちゃくちゃのようだけど、ギルマス補佐はちゃんと考えているんだと。
味方の魔法で死にたくはないからな。
「他の三体が向かってくるぞ!」
バーネットが言うように、残りの三体はそれぞれに別れて攻撃を仕掛けようとしていた。
「パーティーごとに別れて各個体に対処。一体は俺が受け持つ。」
「「「「はい!」」」」
他のメンバーに気負いや恐れは感じられない。
シスやテスたちも、特訓や先程の連携魔法の威力を経験して、精神的な弱さを克服しつつあるようだ。
俺はすぐにフォローに入れるように、目の前に迫った魔族への攻撃に集中する。時間はかけていられない。
なんだ?
あんな魔法は見たことがないぞ。
炎柱が青くなり、強烈な温度で標的となった魔族を障壁ごと消し炭にした。
上位魔族は、これまでに体験したことがない事象に意識を奪われていた。
ここにいるスレイヤーたちは、人間のレベルで考えるとかなり強い部類に入る。そして、後から来た者たちは先程の投石と言い、今の青い炎柱といい、戦い方が奇抜そのものである。
目の前のスレイヤーが言っていたトリックスターとは、ただ相手の虚をつき、戦いを有利にするという意味ではなかったのか。あれは、新種の魔法や戦法のオンパレードではないか。
「驚いたか?」
視線を正面のスレイヤーに戻す。
なぜか自慢げにニヤニヤと笑う顔がうっとうしい。
「あの魔法もトリックスターと呼ばれている奴の仕業か?」
「あ~、トリックスターっていうのは、俺がさっき勝手につけた二つ名だ。それと、あんな魔法は俺も初めて見た。」
「あそこにいるのは、普段から何をしでかすかわからない人間と言うことか?」
「ハハッ。その通りだ。でも、まともに戦っても相当強いぞ。」
「我の同朋を葬ったのは奴か?」
「だったらどうするんだ?」
「知れたことよ。この場で消してくれるわ。」
アッシュの目に強い光が宿った。
「それじゃあ、まずは俺を倒してからじゃないとな。あいつは俺よりも強いぞ。」
闘気とでも言うべきか。
殺気とは異なる強いオーラが膨れ上がる。
「むぅ・・・」
先程までとは別人のような雰囲気を醸し出す人間。周りの仲間を巻き込まないように力をセーブしていたか。
上位魔族は、ここに来たのは正解だったと感じた。
下級魔族の尻拭いにわざわざ出張ってきたという意識があったが、あのトリックスターといい、目の前の人間といい、予想外の存在に出会うことができた。
「おもしろいな。まさか人間ごときに、こんな愉快な気分にさせられるとは思わなかったぞ。」
「それは何よりだ。」
「本気で行く。すぐに死ぬなよ。」
上位魔族の邪気が増幅した。
これまで以上の強者の気配に、アッシュは恐れではなく、歓喜の気持ちを感じる。
「良いねぇ。このピリピリした感覚。久しぶりに楽しい戦いになりそうだ。」
バトルジャンキーが恍惚とした笑みを浮かべた。