目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第82話 上位魔族④

ステファニーが、オーガに向けて先制の魔法を放つ。


風属性のマジックアロー。


的確にオーガ数体の顔面にヒットさせる。


一瞬だけ動きを止める程度のダメージにしかならなかったが、他のスレイヤーたちが後続の魔法を放つ。


炎撃!


氷撃!


風撃!


致命傷にはならないが、オーガの気を削ぐ効果は十分だ。


アッシュたちは一斉に剣を構えて、オーガの大群に突進した。


アッシュは他のスレイヤーたちに、オーガの大群の外側から戦力を削ぐように指示を出す。


集団の中に踏み込むのはリスクが高い。


一撃で致命傷を与えることができないかもしれない、ということだけではない。密集した中で囲まれ、逃げ場をなくすことだけは避けておきたかった。それだけ、オーガは耐久性が高いのだ。


パーティーごとに五組に別れて、オーガの大群を囲むような布陣を組む。


ヒット&アウェイで相手を翻弄し、少しずつ戦力を削いでいく。


後衛の魔法士が魔法を放ち、直撃した間隙を狙って前衛が物理攻撃を仕掛ける。


熟練のコンビネーションを見せるスレイヤー達は、オーガの数を一体、また一体と減らしていった。


アッシュは単独で剣撃を繰り出し、オーガを両断していく。


首や間接を狙い、時には皮膚の弱い目や口に刺突を入れていった。


オーガの指揮官は取り囲んで攻撃するように指示を出したが、その素振りを確認したアッシュが集団に踏み込み、指揮官の首を跳ねる。


阿鼻叫喚が周囲を覆う状況の中、アッシュは冷静に無理のない攻撃を行う。


集団からの離脱の際には炎撃を放ち、後続を断ち切った。


一度間合いを長く取り、仲間の状態を確認したアッシュは、オーガに押されぎみなパーティーの救援に向かう。戦況を見極めるとまた離脱して他の場所へと移り、攻撃を続けていく。


やがて、オーガはその数を十体足らずに減らし、戦意を喪失させていった。見るからに動きが鈍った敵に、スレイヤーたちは容赦のない攻撃を入れ、ついには殲滅を成功させた。




「ほう。思ったよりも早かったな。」


オーガを殲滅に追いやったアッシュたちは、再び魔族が地に降り立ったことに気がついた。


手には剣を持ち、半身に構えている。


「第二ラウンドの開始か?」


アッシュはひとりで前に出て剣を構える。


「個々の力はそれほどでもないが、集団での力は脅威となると考えるべきだろう。ここで叩いておくか。」


独り言のように話す魔族は顔を上げ、山の方を見上げた。


「ギルマス、他にも魔族が・・・」


ステファニーが魔族の視線を追うと、山の上空から別の四体の魔族がこちらに迫っていた。


アッシュは目の前の魔族から目を離さない。


「こっちに向かっている魔族は、お前と同格か?」


「ふん、奴等は使い魔程度の下級魔族だ。我と同じにするでない。」


スレイヤー全員に衝撃が走った。


これまでに対峙していた魔族が、下級魔族という事実。


「お前と同格の魔族はどれくらいいる?」


「正確には知らん。興味がないのでな。上位魔族は二十に満たないと言っておこうか。」


魔族は不敵に笑った。


スレイヤーたちの絶望的な表情を見て楽しかったからだ。


下級魔族ですら、ランクAクラスのスレイヤーが数人がかりでようやく倒せるかどうかなのだ。上位魔族ともなれば、どれくらいの戦力で挑まなければならないのか。


「もうひとつ教えておいてやろう。下級魔族が五人がかりでも我は倒せない。貴様らは、ここから生きては帰れん。」


「生きて帰れないだと?」


アッシュが聞き返すが、その顔には笑みが浮かんでいた。


「何を笑っている?気でも触れたか?」


「いや、こんなに早く来れる訳がない援軍が、なぜかそこまで来ているからじゃないか?」


アッシュの目には、魔族のはるか向こうからやってくる見覚えのある者たちの姿が写っていた。


どんなマジックを使ったんだ?


どう急いでも、あと1~2時間はかかるところだろう。相変わらず、やることが非常識だ。


「何人来ようが、状況は変わらんぞ。」


「そうかな?こちらに向かっているのは、うちのギルドイチオシのトリックスターだぞ。」


「トリックスター?」


「見ればわかるさ。」


そんな会話をしていると、馬上のタイガらしき人物が何かをこちらに投げてきた。大きさからすると石のようだが、投げて届くような距離ではない。


失速して落ちるだろうと思っていると、逆にぐんぐんと加速し、アッシュ達の頭上を越えていく。


「何だ、あれは?」


魔族は1キロ近く後方から飛んできた石の軌道を見守っていた。


アッシュは魔力を読んだ。


投石に風属性魔法をかけているのか。そんな使い方があるとはな。


アッシュが考えたように、タイガは投石にケイガンの風属性魔法をかけさせていた。攻撃や障壁に魔法を用いることは当然だが、物理攻撃に合わせることはほとんどない。


魔法が存在しない世界から来た、タイガ独自の発想だといえた。


石はそのスピードをさらに加速させ、山の方角から飛んできた魔族を襲う。


直線的な石の軌道を読み、標的となった魔族は難なくそれを避けた・・・が、急に軌道を湾曲させた石は、魔族の顔面に直撃した。


「何っ!?」


驚いたのは、魔族もスレイヤーも同じだった。1km離れた距離からの遠投に加え、途中で軌道を変えさせて魔族にダメージを与えた投石。


冷静に考えれば、魔法を使えば不可能なことではない。しかし、この世界では魔法の代わりにそんな攻撃をする者自体が存在しなかった。


まさしく、トリックスター。


上位魔族は、アッシュの前述の言葉に納得してしまうのであった。




顔面に石を直撃された魔族は怒り狂っていた。


ただの投石だと侮ったのは自分自身だと言うのに、あんな長距離からの単調な攻撃を避け損なって、恥をかかされたと思い込んだ。


ムキーッと顔を怒らせながら、後から駆けつけてきたタイガたちに一直線に向かう。


一緒にいた三体も、「あれ、そっちか?」という顔をしながらその後を追った。




「タイガ、こっちに来る。」


パティが近づいてくる四体の魔族を指差して言う。


「それじゃあ、さっき言った通りに攻撃してみようか。テスとケイガンよろしく。」


「本当に、上手くいきますか?」


「さっきの投石と同じ要領で良いんじゃないか?失敗したら俺がカバーするし。」


そんな軽い感じで良いのか?


ケイガンは呆れながらそう思ったが、確かにさっきの連携は上手くいった。


「大丈夫です。タイガさんの指示通りにいきましょう。」


テスは当たり前のように肯定している。


「信頼しているんだな。」


「当然です。タイガさんですよ。」


その理屈はよくわからない・・・




「下等生物が!許さんぞっ!!」


迫る魔族が、凄まじい形相で迫ってくる。


「いきます!」


テスは合図を出しながら、彼女自身の最大火力である炎撃を放った。掲げた手から、炎の柱が魔族に向かって走る。


「この程度の魔法が通用するかぁぁぁぁーっ!!」


魔族は体の周囲に障壁をまとう。


そのままこちらに突っ込んでくる気だ。


テスから放たれた炎柱に、ケイガンの風撃が交わった。


風が炎に巻つくと同時に急激に勢いが増し、赤から青に変化をした炎は、さながらバーナーのように超高熱を発する。


「なっ・・・」


障壁をまとった魔族は、その超高熱の炎にさらされてその身を焼滅させた。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?