「…あ、御丁寧な御挨拶恐れ入ります、リーセロット様。自分は身分なき者でございますので、どうぞ御言葉遣いをお改め下さいませ。
名前も呼び捨てにして下さいますれば。」
「それは出来ませぬマイカ様。」
リーセロットはそう言うと、被っていたウシャンカ帽をとった。
帽子で隠していた長い特徴のある耳が表に現れる。
「エ、エルフ!」
「はい、このリーセロットは
ですので、
「ハイヤーエルフ?リーセロット様、
「な!?何をお戯れに…いえ、その目は冗談をおっしゃっている目ではございませんね、失礼致しました。
御身の尊さを御存知ないと…?
マイカ様、
(尊さ…?伝説の…?
さっき、
「はい、リーセロット様。冗談は申しておりません。
実は私、自分のことが全く判っていないのです。何故、この世界にいるのかも…」
(どうする?このリーセロットさんにも、オレが異世界から転生してきたことを話すか?)
「もしや、マイカ様にあっては記憶を失っておられるのでしょうか?」
(うん、ハンデルに言ったみたいに、正直に話そう。
そうすれば、きっと、このリーセロットさんも信じてくれる筈。)
「いえ違います、リーセロット様。
私は、実は此処とは違う世界、そう、異世界からやって来たのです。前の世界で死に、この世界に、このエルフの姿に生まれ変わったのです。
それから、まだ1ヶ月も経っていません。」
「な……?」
リーセロットは一言だけ声を上げると、口を開いたまま黙ってしまった。
(う…!ダメだったか?
オレが言ったことは何故か信じて貰える、そういう何か特別なものを持ってると思ったのは勘違いだったのか!?)
「何なんでしょう、この感覚は!?
そ、そんな異世界なんて…生まれ変わったなんて、そんなこと初めて聞く話なのに…
マイカ様がおっしゃったことは真実であると、完全に信じてしまった!!」
(あっ、リーセロットさんにもオレの言うことを信じて貰えた。)
「これは、マイカ様が持たれている特別な
「スキル…?発動…?
いや、リーセロット様が何をおっしゃっているのか、意味が判らないのですが…」
「転生されてから
失礼致しました。では御自身の属性もお判りではない?」
「属性?そう言えば、私の雇用主が、私には光の属性があるのではないか?と申しておりましたし、園遊会の会場で子供を助けた際に私の身体が光った事は判りましたので、光の属性ではないかと思います。」
「やはり光の属性…
リーセロットがそう言うと、リーセロットの影から、まるで地から生えてくるように人が出てきた。
「うわっ!!」
マイカが驚く間に、その人物は全身を表した。
マイカより少し背が高く、褐色の肌の
スリム体型だが、胸元が大きく前に張り
出している
頭に黒いターバンを、耳が隠れる程深く
被った
女性だった。リーセロットの配下、ララである。
「このララに聞いて知っておりました。」
と、リーセロットは隣に立ったララを見て言った。
「あなたは、確かインハングの街で…?」
マイカが話しかけると、ララは頭に巻いていたターバンを取り外した。
ターバンで隠されていたショートワンレングスの黒髪と、長い、特徴のある耳が表に現れる。
「あなたはもエルフ!?」
「はい。あの節は後を
「い、今のは?影の中から生えてくるように…」
「はい、私が使う影の魔法〈
「影の魔法…」
「はい。インハングの街で、この〈潜影躯〉を使い、マイカ様の影に
それでマイカ様が光の属性をお持ちだと判ったのです。影は光に勝てませんから。」
「光の属性…では、何故ララさんは私を尾けようと?」
「はい。今から27日前、我らが同胞が旧コロネル領内においてへローフ教の過激派の動向を探っていたところ…」
と、ララがマイカの質問に答えていたところ
「ララ!そんな事をマイカ様に…へローフ教の過激派の事まで話すなんて!」
横からリーセロットがララを
「…ハッ!何故、今、私は何もかも話そうとしたのでしょう…?」
「私がこの世界に来てから会った人達は、私が質問すると、そこまで聞いていないよ、って事も、また、その人にとって都合が悪いような事までも、何故か答えてくれました。」
と、マイカは、言わずもがなの事まで口を滑らせてしまい、オロオロしているララに向かって言った。
「それも、マイカ様がお持ちの特別な
その、へローフ教の過激派の動向を探っていたところ、亜人の集落が襲われていたのを発見し、そこにいた瀕死のリザードマンより
そこで、
「リザードマン?あの時の焼死された
何故リザードマンの集落は襲われたのでしょう?」
「それも
ところでマイカ様は、殿下との謁見の後、急ぎ帰らねばならない御用がお有りですか?」
「いえ、何も予定はありません。今日は一日空けてあります。」
「では摂政殿下との謁見の後、私と御同行願えますか?やはりマイカ様に会って頂こうと思います。
この皇宮に居る、もう一人のエルフに…」
第49話(終)
※エルデカ捜査メモ㊾
リーセロットとララは、普段、耳を隠して一目ではエルフとは判りづらい格好をしている。
これは、未だに帝国内にも根強く残るへローフ教の目から姿を隠す目的と、ラウムテ帝国の創成期において大きな貢献があった自分達の正体を隠すためであった。
二人とも初代皇帝リシャルトが崩御した後、表舞台から姿を消し、裏から帝国を支え、いつしか人々は、帝国創立に貢献したエルフの存在を忘れていった。
リーセロットが摂政エフェリーネの秘書官として、再び表に現れたのは先帝ヨゼフィーネ女帝の懇請によるものである。
リーセロット、ララ、そして、もう一人のエルフが正体を隠している理由は、後々判明することとなる。