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第50話 『摂政エフェリーネへの謁見 その1』

 やがてベルンハルト近衛騎士団長が

   茶色ストレートヘアー

   白い長袖ブラウス 紺色ロングスカート

   アクセサリー等は一切付けていない質素

  な装い

の若い女性を伴って再び中庭にやってきた。


 (あ…摂政さん。)


「はじめましてマイカ殿、ラウムテ帝国摂政エフェリーネです。」


 エフェリーネが先に自ら名乗ったことについて、横にいたベルンハルトが少し驚いた様子を見せた。


 (確かに。普通は偉い人って自分で喋らずに、傍の人に代わりに話させるもんだもんな…)


 マイカはそう思いつつ、貴人に対する挨拶の為、地に片膝をつこうとしたところ


 「ひざまずいての拝礼は無用です、マイカ殿。たとえ平民でも罪人でない限り、立礼で結構。」


と、エフェリーネが言ってきた。


 (へ、そうなの?昔の日本だったら、平伏して顔を直接見てもいけないくらいだったのに。)


 マイカは膝をつこうとしていた中途半端な体勢から起立し直して気を付けをし、素早く上体を前に15度ほど前に倒す警察式の脱帽時の敬礼をした。


 (あっ、ついクセが出てしまった…むしろ失礼にならなかったかな?)


 そう、冷や汗をかく思いをしつつ


「マイカと申します。特別にえつたまわりますこと、至極しごく光栄に存じます。」


と、エフェリーネに言った。


 エフェリーネは、マイカのその敬礼の仕方を可笑おかしく思ったのか、または話し方が可笑しかったのか、「クスッ」と笑い


「良いのですよマイカ殿。この謁見は非公式なものなので、そんなにかしこまらなくても。」


 中庭に現れた際には、その端正な顔付きをキリッと引き締め、やや冷たい感じの印象があったエフェリーネであったが、微笑むと春の日差しのような暖かさがおもてに出た。


 (あっ…)


 エフェリーネの、その暖かい笑顔を見てマイカもホッとした気持ちになり、ふと、何気に視線をエフェリーネの左横にいるベルンハルトに移したところ、ベルンハルトは、そのエフェリーネの笑顔をポカーンと口を開けながら横目で見ていた。


「…何をニヤついておられる、マイカ殿。」


 ベルンハルトがマイカの視線に気付き、マイカに向かって言った。


「えっ?」


 エフェリーネが、そのベルンハルトの方を見て「クスクス」と笑い声を上げると、ベルンハルトは顔を真っ赤にした。


「私は、これにて失礼つかまつる!」


 ベルンハルトは居たたまれなくなったのか、それとも、当初からマイカとエフェリーネを引き合わせた後、そうする予定だったのか、その場から去ろうとしたが、エフェリーネが


「レーデンきょうも此処に居て下さい。これまで何回か会っているけいが居てくれた方がマイカ殿も緊張がやわらぐでしょう。」


と、引き留め、更に


「…それに、わらわも…けいが居てくれた方が、素直に話せます…」


と、ベルンハルトに言い、そして頬を赤らめて目を伏せた。


 (えっ?えっ?もしかして、ベルンハルト君だけじゃなく、摂政さんも?

 相思相愛なん?えっ?えーっ!?)


「何をニヤついておられるのです、マイカ殿?」

「何をニヤついておられるのか、マイカ殿?」


 エフェリーネとベルンハルトが同時にマイカに突っ込みを入れた。


「さて、本題に入りますが…」


 エフェリーネが一つ咳払いをして、頬が赤いまま話し始めた。


「まずは御礼を申し上げます。

 宝物庫より盗まれし、わらわの所有物を見つけ出して真の犯人を突き止め、近衛騎士と番兵の無実を証明してくれたこと、誠にありがとうございます。」


「あ、いえおそれ入ります…」


 (この人、皇帝の摂政だろ?この国で2番目に偉い人なんだろ?

 こんなに丁寧な態度と言葉遣いを平民のオレに対して…誰に対してもこうなんかな?

 もしそうなら、好感度メチャ高いけど。)


「そして先日、園遊会会場において、わらわの政務補佐ベレイド子爵の嫡男ちゃくなんの命を助けて下さった事も、子爵に代わり厚く御礼を申し上げます。」


「は、はい、あれは運良く…」


「更に、少し以前にさかのぼれば、旧コロネル領においても殺人事件の真相を明らかにし、それがきっかけとなって、その場に居たセバスティアーンなる者がコロネルの悪行を告発した事により民を救うことが出来ました。

 それもマイカ殿のおかげですね。ありがとうございました。」


「あ、いや、そんな…畏れ入ります…」


 (何だ?よく知ってるな、オレの事。)


「僅か一月ひとつきにも満たない間に、これ程の貢献…

 これに報いるに、マイカ殿には帝国騎士号を授けようと思っていたのですが…これを辞退なさると?」


「はい。つつしんで御辞退申し上げます。」


何故なにゆえに?」


 (どうしようか…摂政さんにも話してしまおうか?摂政さんだけじゃなく、ベルンハルト君にも聞かれるけど…)


 マイカは、エフェリーネからやや離れた後方に控えているリーセロットとララの方をチラッと見た。

 すると、リーセロットがかすかに頷いたように見えた。


「私は…実は…」


「実は?」


「この世界の人間ではないのです!」


               第50話(終)


※エルデカ捜査メモ㊿


 エフェリーネはマイカが思ったとおり、誰に対しても、態度、言葉遣いは丁寧であり、これは彼女の本来の出自がそうさせている部分もあるが、先帝ヨゼフィーネ女帝の教育による影響が大きい。

 ヨゼフィーネ自身は他に対して君臨者たるにふさわしい、強圧的ともいえる態度をとっていたが、これは彼女自身が自ら戦地に赴き、幾多の戦いを勝利に導いたり、数々のドラスティックな改革を敢行して帝国の歴史上、最大の勢力を築き上げた実績があるため、むしろ威厳として捉えられていた。

 しかし、そのような実績がないエフェリーネが、自分と同じような態度、言動では、必ず多くの反発を招くと思い

 「誰に対しても、目上の人に接するような態度をとりなさい。

 しかし、へりくだってはいけない。」

との教えを、ヨゼフィーネはエフェリーネに与えていた。

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