やがてベルンハルト近衛騎士団長が
茶色ストレート
白い長袖ブラウス 紺色ロングスカート
アクセサリー等は一切付けていない質素
な装い
の若い女性を伴って再び中庭にやってきた。
(あ…摂政さん。)
「はじめましてマイカ殿、ラウムテ帝国摂政エフェリーネです。」
エフェリーネが先に自ら名乗ったことについて、横にいたベルンハルトが少し驚いた様子を見せた。
(確かに。普通は偉い人って自分で喋らずに、傍の人に代わりに話させるもんだもんな…)
マイカはそう思いつつ、貴人に対する挨拶の為、地に片膝をつこうとしたところ
「
と、エフェリーネが言ってきた。
(へ、そうなの?昔の日本だったら、平伏して顔を直接見てもいけないくらいだったのに。)
マイカは膝をつこうとしていた中途半端な体勢から起立し直して気を付けをし、素早く上体を前に15度ほど前に倒す警察式の脱帽時の敬礼をした。
(あっ、ついクセが出てしまった…むしろ失礼にならなかったかな?)
そう、冷や汗をかく思いをしつつ
「マイカと申します。特別に
と、エフェリーネに言った。
エフェリーネは、マイカのその敬礼の仕方を
「良いのですよマイカ殿。この謁見は非公式なものなので、そんなに
中庭に現れた際には、その端正な顔付きをキリッと引き締め、やや冷たい感じの印象があったエフェリーネであったが、微笑むと春の日差しのような暖かさが
(あっ…)
エフェリーネの、その暖かい笑顔を見てマイカもホッとした気持ちになり、ふと、何気に視線をエフェリーネの左横にいるベルンハルトに移したところ、ベルンハルトは、そのエフェリーネの笑顔をポカーンと口を開けながら横目で見ていた。
「…何をニヤついておられる、マイカ殿。」
ベルンハルトがマイカの視線に気付き、マイカに向かって言った。
「えっ?」
エフェリーネが、そのベルンハルトの方を見て「クスクス」と笑い声を上げると、ベルンハルトは顔を真っ赤にした。
「私は、これにて失礼
ベルンハルトは居たたまれなくなったのか、それとも、当初からマイカとエフェリーネを引き合わせた後、そうする予定だったのか、その場から去ろうとしたが、エフェリーネが
「レーデン
と、引き留め、更に
「…それに、
と、ベルンハルトに言い、そして頬を赤らめて目を伏せた。
(えっ?えっ?もしかして、ベルンハルト君だけじゃなく、摂政さんも?
相思相愛なん?えっ?えーっ!?)
「何をニヤついておられるのです、マイカ殿?」
「何をニヤついておられるのか、マイカ殿?」
エフェリーネとベルンハルトが同時にマイカに突っ込みを入れた。
「さて、本題に入りますが…」
エフェリーネが一つ咳払いをして、頬が赤いまま話し始めた。
「まずは御礼を申し上げます。
宝物庫より盗まれし、
「あ、いえ
(この人、皇帝の摂政だろ?この国で2番目に偉い人なんだろ?
こんなに丁寧な態度と言葉遣いを平民のオレに対して…誰に対してもこうなんかな?
もしそうなら、好感度メチャ高いけど。)
「そして先日、園遊会会場において、
「は、はい、あれは運良く…」
「更に、少し以前に
それもマイカ殿のおかげですね。ありがとうございました。」
「あ、いや、そんな…畏れ入ります…」
(何だ?よく知ってるな、オレの事。)
「僅か
これに報いるに、マイカ殿には帝国騎士号を授けようと思っていたのですが…これを辞退なさると?」
「はい。
「
(どうしようか…摂政さんにも話してしまおうか?摂政さんだけじゃなく、ベルンハルト君にも聞かれるけど…)
マイカは、エフェリーネからやや離れた後方に控えているリーセロットとララの方をチラッと見た。
すると、リーセロットが
「私は…実は…」
「実は?」
「この世界の人間ではないのです!」
第50話(終)
※エルデカ捜査メモ㊿
エフェリーネはマイカが思ったとおり、誰に対しても、態度、言葉遣いは丁寧であり、これは彼女の本来の出自がそうさせている部分もあるが、先帝ヨゼフィーネ女帝の教育による影響が大きい。
ヨゼフィーネ自身は他に対して君臨者たるにふさわしい、強圧的ともいえる態度をとっていたが、これは彼女自身が自ら戦地に赴き、幾多の戦いを勝利に導いたり、数々のドラスティックな改革を敢行して帝国の歴史上、最大の勢力を築き上げた実績があるため、むしろ威厳として捉えられていた。
しかし、そのような実績がないエフェリーネが、自分と同じような態度、言動では、必ず多くの反発を招くと思い
「誰に対しても、目上の人に接するような態度をとりなさい。
しかし、へりくだってはいけない。」
との教えを、ヨゼフィーネはエフェリーネに与えていた。