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T075  ロールプレイ

*>>ナユカ視点



「フフフッ!!さぁ、【あなたの美しい命を凍らせましょう】」


 そうとなえたユキは次の瞬間!吹雪に包まれる。それは、ユキ周辺だけでは収まらず、ユキ側のフィールドを試合前に展開されるバリアを境に綺麗に半分だけ真っ白に染め上げ見えなくなってしまった。


「おや?」


 いつもとは違うユキの変身に、少し戸惑とまどうセバスと会場。吹雪が収まると目の前には、真っ白に染まったフィールド。そして…


「吹雪の日。それは静かに現れる。白い肌に、目は赤く怪しくきらめく女を、人はいつしか、こう呼んだ。私はあなたを凍らせる者。あるいは妖怪。雪女…」



 今までの可愛らしいドレスとは違い、その服装は水色がかった白装束しろしょうぞくである。しかし白装束と言っても下はスカートのように広がっていたり、振袖ふりそではとても長くなっていたり、水色の太めの帯がたくさんの雪の結晶で彩られていたり。まるでお化けのような…。と言うよりは、可愛い浴衣を着たりんとしたユキ。といった感じだ。かわいい!!


 ユキの新装備にく会場。いままでとは異なる雰囲気にたたずを飲む者、咄嗟とっさにコメント広場に書き込みを開始する者と、様々な反応を見ることができる。



 そんなこと関係ないと流れる試合開始のカウントダウン。


《3…2…1…スタート》


 今ここに新たな開放リリースされた。







*>>三人称視点






 始まってすぐにバリアは解かれる。この時セバスは疑問に思っていた。


(なぜ?ユキは昇って来ない?)


 そう、ユキが上空を目指すどころか〔飛行〕すら使っていないのである。いつものセオリーと違う行動にさすがにおかしいと思ったセバスは、このまま長引くのはまずいと本能的に察知し攻撃を最大火力で放っていく。ユキはそれを雪を踏みしめながらかわしていくだけだ。


(雪?)


 変身時の目隠しのように舞っていた吹雪が振り積もり、雪がユキのそばには沢山ある。綺麗に半分だけ真っ白なのだが、そこに違和感を感じるセバス。


「まあ、いいでしょう。行きますよ?【あなたへこの屋敷の接客を】」


 そうして放たれる弾幕は、ユキを取り囲むように大きく広がり、そして一気にすべての魔弾がユキ目掛けて迫っていく。これが5回も段階をわけて飛んでいった。


 途端、こんどはユキが両手を広げてクルクル周りながら冷気を放つ。そしてピタッ止まると。ユキに迫ってきていた弾幕をすべてその場で止め…、いやまるで空間ごと凍らせるようにして止まった世界はそのまま弾幕ごと砕ける。


「はて?もう凍って…。ッ!!あの雪のせいですか」


 ユキはいつもとは違い、【こごえる世界ココロ】を発動させてはいない。否、発動させる必要すらないのである。なにせもうこの空間は冷気であふれかえっているのだから。


「試合開始前から、空間ごと冷やすのはありなのですか?」


「いやいや、私は私側の半分しか冷やしてないよ。フフッ。別に試合前からスキルは使ってもいいんだから。ダメなのは地面から離れることだけでしょ?」


 ユキが言っていることは正しく。試合開始前にはちゃんと《スキルオープン》と、10秒間の準備タイムが与えられるのだ。その間に何をしようとプレイヤーの自由。唯一、地面から離れることだけはできないようになっているが、その間に自信にバフを掛けようと、装備をつけようと、周りを冷やそうと自分の自由なのである。



「確かに盲点もうてんでした…。でもただそれだけです。温めてしまえば無意味でしょう?」


 こんどはセバスが火弾をばら撒き、炎を辺り一面にぶちまける。そうすることで温度を上げようとしているのだが…


「わかってないね、もうここは吹雪の中だよ?【掘っ建て小屋の中は暖かいか?】」


 瞬く間にフィールドが吹雪に見舞われる。そんな小さな炎など無意味!と言わんばかりにかき消される火弾と、この吹雪に巻き込まれるセバス。


 セバスには既に状態異常:凍傷が着いていた。



(いままでとパワーが桁違けたちがいでは!?)




「くっ!【ティータイムはいつでもどこでも】」


 こんどはセバスが降下し技を発動。途端に現れるは、「ガゼボ」と言われる西洋の庭などにある屋根付きの休憩スペースをした建物だが、その建物が舞台上に〔建築〕された。

 屋根があるだけのガゼボだが、側面は〔結界〕のスキルで吹雪を防ぎ、中に火弾を浮かべることで暖を取る。たちまち凍傷の表示は消える。


(このまま少し待ちましょう。フィールド全体に及ぶ吹雪です。すぐにMPが尽きるでしょう。そうなればこちらが有利です)


 セバスの考えは一般的には間違っていない。しかし、それが普通のプレイヤーならである。相手はユキ。しかも闘技大会の覇者がそんな初歩的なMP管理ミスなどするわけがなかった。




「【氷の心ガラスのハート】」




 吹雪の中で聞こえたその声に、セバスははっと気づく。少し前のユキの動画を見たではないかと。物理をも凍らせ砕く、その技を。


(し、しかし、いくらなんでもこの大きさの物体を凍らせるのは無理でしょう。えぇ、きっと)



ピキッ



スキル:妖力 WP willpower=念力


カテゴリー:原型

ランク:白

概要:WPを認識できるようになる。WPはイメージしたモデルとプレイヤーのイメージが合致するほど、見てる人が多いほど1WP分の効果が上昇する。物体にWPを使うと変化をうながす。




 イメージが重なれば重なるほど、その威力は強くなる。今、会場中を巻き込み。ユキのイメージは「雪女」へと塗り固められていた。

 その威力は想像を絶する。




バキッ!!!




 今日ここに、フィールド全体がガゼボと、ガゼボの中にいたセバスごと。一緒にすべてが凍りつき、それは大きな氷像となった。


 誰もが、司会までもが声も出さない。出せない静寂と、キラキラときらめく雪だけがそこに残る。


 圧倒的な力の前にセバスはここに敗れることとなった。

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