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T079  雪山に走る一筋の炎



 辺り一面が白に染まり、山ができたと思えばそこから岩肌が覗いていたり、地面からニョキっと木が生えてきていたりと、もう闘技場という中で行われるレベルの戦いではない。


 ユキにとって、圧倒的に有利なこんな状況にハルトは1人立ち向かう。


「いっそ燃やすか?」


 現在、ハルトがいるのは木々が生えている林のようになっている場所である。実際の林と比べたら大きさはかなり小さいが、それでも弾幕の遮蔽物しゃへいぶつや風よけにはなるのである。


(上はずっと吹雪いてやがる…。これは上空に上がって〔魔法陣〕を探すのは無理か。ちくしょう!こんだけデカかったらどっかに目立ちそうな〔魔法陣〕があるだろう!?視界が悪い…。どこだ?〔魔法陣〕を隠すならどこに隠す?)


 ハルトが探している〔魔法陣〕は言わずもがな【既に私の吹雪の中なのだからスプリング レス】の〔魔法陣〕。


 この雪山を作るにあたり、又は維持するにあたり必要なものであり、そしてわざわざ〔詠唱〕までして作り上げた「技」である。アリアの津波よりは小さいだろうが、かなりの大きさの魔法陣があるはずだ。


「うぉぅ!!?」


 ハルトに向け放たれた氷弾は全くの視覚外から飛んで来たものである。それを咄嗟とっさに木々を使い、間一髪の所で防ぐが少しダメージを喰らってしまった。


(向こうは見えてるのな…。あー、やりずらい…)


「燃えろ!」


 ハルトが唱えるとその手に持った黒き剣がゴウゴウと炎をあげる。その熱量は味方以外の全てに、近付いただけでダメージを与えてしまうほどだ。


「これ。使うの初めてだから燃えすぎても怒るなよ!」


 そう言いながらその剣を横に一振。そしてゴウッと音を立てながら吹き出した炎は、さらに辺りを焼き払う。その付近の雪は溶け、木は燃えだした。


 それと同時にユキは氷弾をハルトに飛ばす。その氷弾は熱で溶けて途中失速。そのままハルトの手前で地面に落ちる。


「フフフッ!なかなか…」


 当たらないとさとったユキは、そのままさらに弾幕を放つ。


 今度は山なりに真上から曲線を描き落ちるように仕向けられた氷弾は、また途中で溶けてしまうが。今度はハルト目掛けて水となった氷弾が落下していく。


「つっ!!?」


 思いっきり水を被ったハルト。途端に戦慄せんりつする。


 今、自分はこの寒さの中で冷水を浴びてしまったという事実に。


(おいおい!そっちが狙いかよ!?)


 そして次の瞬間、今度は真横から来る風弾に吹き飛ばされる。


ガキッギギギギギー…


 吹き飛ばされながらも剣を地面に突き立て止まる。すぐに剣を抜き今度は剣をその方角に一振。そこからとびだすは、炎の斬撃!雪を溶かしながら飛んでいきユキをかすめて飛んでいく。


(危ないな〜。ちょっと熱ダメージ貰っちゃったし…、せっかくらしたのにあの剣持ってたら目に見える速さで水が蒸発していくし〜)


 そのまま、さらに火炎弾を放つハルトはユキの弾幕が来た方角目掛けて散らばるように弾幕を放つ。それをユキは見逃さない。同じく氷弾で撃ち落としていく。


「とれッ!」


 ユキの可愛らしい掛け声とともに揺れ動く地面。既に飛び立っているハルトにダメージはないが…


メキメキメキメキ…


「うわっ!?そんなことも出来んのかよッ!!」


 途端に燃えていた木々がデタラメに倒れだした。ある程度低空でないと、さすがにアクセサリーの効果があるとはいえ上空の吹雪には負けてしまう。そんな理由で低空飛行していたハルトは、自分に倒れ込むように燃える木々が迫っていた。


 ユキの居るであろう方向に飛行しながらそれらをかわし、さらにユキから飛ばされる弾幕を躱すためにジグザグに軌道を描きながら飛ぶ。しかしそこまでしても、飛び出した先には自分に倒れてくる燃えた木が目前と迫ってきていた。



 「ふんっ!!」



 それを縦に真っ二つに切りき、そのまま突き進むハルト。なんとか視界にユキをとらえ、その後ろ姿を追いかける。


 ユキは雪山となっている方へ向かい標高をあげていく。


 少しでも下にいたいハルトにしたら、追って高度を上げることはしたくないが、ここで追わないと見失う可能性が高いためあえて敵陣に飛び込む。少し上に高度を上げただけで、また寒さが勝ってしまうが致し方ない。


 山頂付近まで到着したユキが、ここで更なる弾幕を放つ。それはデタラメに曲がったり加速したりする「火弾」。


(火!?)


 そのいくつかはそのまま雪山の斜面に落ちる。





パキッパンッ!…ゴゴゴゴゴゴゴ






(やべっ!?これが狙いで火弾かッ!!)


 ハルトの目の前には、小さな異音が次第に大きな音を立て、ゆっくりと山からずり落ちて来る雪の塊…雪崩なだれが迫ってきた。

 できるだけ低空を意識していたハルトは今から上に〔飛翔〕したとしても間に合わない。



(間に合わないなら、突き進むまでだッ!)


「いけ!!【剣ノ名ヲ持チ表ス・黒龍「煉」】」


 剣を前に突き出し、その黒い剣があわく輝き始める。その燃え盛る炎はよりいっそう威力を高め、段々と剣の切先きっさきへと流れてゆく。そして放たれる閃光。



 SPとMPを大量に消費してできるその技は、かつてハルトがぶった切った黒龍のブレス。



 一直線に雪崩ごとユキを狙って放たれたブレスは雪崩など関係ないと突き進み、雪崩が邪魔で見えてなかったユキにまでそのブレスは突き抜ける。


「ッ!?っつ〜…」


 直前でハルトの攻撃に気づき、できるだけ横に飛んだユキはなんとか回避に成功する。だがしかし、真横を通り過ぎたブレスの熱波をもろに喰らい。HPを残りわずか2割まで削られてしまった。




「痛い…。油断した」


 対するハルトも無事…とは言いがたく。雪崩の直撃は防げたものの、無理な体勢からの「黒龍のブレス」を放ったことで後ろに吹き飛ばされ、後ろに倒され積み重なっていた木々に突撃し少なくないダメージを受けていた。そして…




 状態異常:気絶 におちいっていたハルト。

 身動きの取れないハルトを目の前に、ユキは少し微笑みながら魔弾を右手に浮かべる。



「いい攻撃だったよ〜。またやろうね〜?」


 そこに居たのは白雪姫か、雪女か、はたまたユキなのか。


 ユキの放った氷弾に、ハルトは最後のHPを削り取られる。






 今ここに、今までの常識を。RBGのり方をぶち壊しまくった2人の試合が決着した。


ユキ

HP

├─╂───────────┤

MP

├────╂────────┤

WP

├───╂─────────┤521%


ハルト

HP

┠─────────────┤

MP

├╂────────────┤

SP

├──╂──────────┤

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