目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

23 屈辱ver.2.0!CEOは拉致された!

カッとなってパーティー会場を離れるエンジェを見て、リカはひとまず安心した。

エンジェは何よりメンツにこだわっている。やられた以上、もう戻ってこない。


リカはお手洗いの個室に入って、サーブルケースから一つの無線イヤホンと白い花の耳飾りを出した。

イヤホンを耳に入れて、それを隠すように耳の上に花の飾りを付けた。

「私もこんなことをする日がくるなんて」

皮肉だと思いながらも、リカはイヤホン――盗聴器の受信機――の音量を調整し始める。

先ほど、携帯を探るふりをしてエンジェのバッグに盗聴器を入れた。

エンジェのバッグの平均寿命は一か月くらい、最短一日で終わるけど、パーティーのようなイベントで彼女が持ってくるのは必ず新品。少なくとも、今晩はを乗り越える。

運が良ければ、彼女の計画を聞こえるかもしれない。


盗聴器を付け終わったらリカは二階のに戻った。

でも、バルコニーにイズルの姿はなかった。

バルコニーで一階のパーティー会場を見渡しても見つからない。

嫌な予感がして、リカは盗聴器の音量を更に上げた。

ハイヒールが連続的に硬い床に叩く音しかない。

エンジェはまだ歩いているみたい。

「お姉ちゃん、何を探しているの?イズルお兄ちゃんなら、美人さん二人とエレベーターで上の階にあがったのよ」

GPSを使う前に、背後から甘い声がした。

振り返ると、奇愛の笑顔が視線に入った。

「お姉ちゃんはこんなにきれい、どんなお坊ちゃまも落とせると思うよ。あいつにはもう構わないで、不幸になるから」

「……」

リカは返事に急がなく、まず奇愛を観察した。

小顔で大きな目。髪は赤褐色、染めたものに見えない自然な色。

「トリックオアトリート」と言わんばかりの表情。

まるでいたずるを企んでいる子狐。

深緑の膝丈のドレスはシンプルで体によくフィットする。

全身の飾りは、ポニーテールに着けているドレスと同じ色のリボン、そして銅色のクローバーのネックレス二点のみ。


奇愛の属性を大体把握したら、リカは静かで、きれない声で返事をした。

「あいつのことを誤解させたいなら、別の方法を選ぶがいい。

私たちはあなたが想像した関係じゃない。それに、そのような騙し方はレベルが低すぎる。私には効かないよ」

「?!」

奇愛は思わず寒さを感じた。

リカのことをただの頭の固いお姉ちゃんだと思ったけど、今は妙な圧迫感を感じた。

何かを弁解しようと口を開いたら、リカは先に続けた。

「目的は私を騙すことじゃないでしょ。イズルとの怨みを教えてれない?」

「……」

リカの表情と話から圧迫感が消えて、奇愛はほっとした。

胸に溜まった緊張感を吐いて、悔しそうにリカに開き直した。

「奴に初恋が破壊されたのよ。海より深い怨みでしょ?」

「初恋が?」

リカは詳しく聞こうと思ったら、イヤホンからエンジェとようこの声が伝わってきた。

「そうそう、あたしはね、大好きな人が……」

「ごめん、話はあとで」

リカは奇愛を止めて、さっそく室内に入って、人のない片隅に歩いた。

「ええ?なんで?!あたしの話を聞くんじゃなかった?」

奇愛はリカの後を追った。


リカは背中を壁に寄せて、片手で耳を遮って向こうの声を聞く。

その真面目な姿に好奇心が湧いてきて、奇愛は耳を近寄ってきた。

「何を聞いているの?」

「ドラマ」

リカは適当に返事した。

「何のドラマ?」

「キュービットの矢で大好きな鬼畜ドSCEO兄ちゃんを落とす計画……」

「はぁ???」

奇愛はびっくり。

「そんなものに興味があるの?センスはいいと思ったのに……じゃなくて、そんなものはあたしの話より大事なの?!」

「?!」

花山ようこの「CEO兄ちゃんはあっちにいる!!」の叫びとほぼ同時に、サーブルケースから消防車のようなでかいデジタル音が出た。

ロビーにいる人たちは二人をのほうを注目する。

リカは避けもしない、その場で音を発した採点スマホを出して確認した。

赤色に光るスクリーンに、青野翼からの緊急メッセージが表示されている。

「今すぐ駐車場に来て、CEOは拉致されました!」


「イズルは駐車場にいるの?」

リカは早く奇愛に聞いた。

「そうよ、軌跡兄ちゃんに会いに行った。どうしてそれを……ちょっ!」

話はまだ終わっていないが、リカは奇愛をの腕を引っ張って走り出した。

「とにかく行こう」

「ど、どういうこと?!あたしの初恋の恨みの話をするんじゃなかった?なんでまた後回されたの?お姉ちゃんひどい!!」


わけも分からないうちに、奇愛はリカと一緒に駐車場に到着した。

二人の姿を見た青野翼は慌てて駆けつけてくる。

「リカさん!大変です!C、CEOは拉致されたのです!集団犯罪らしい、犯人は七、八人もいます!早く、警察を…!」

「呼ばなくていい!なにが集団犯罪よ!」

リカは返事する前に、奇愛は鼻で笑った。

「あれは、軌跡兄ちゃんと彼の隊員たち。みんなもイズルのサバイバルゲームの仲間よ」

「じゃ、なぜCEOを拉致したのですか?!仲間を悪魔に売るつもりですか?!」

「拉致じゃないと言っているのよ!」

奇愛の勢いに圧倒されたのか、青野翼はしばらく安静になった。

「イズルの奴、退院してから仲間たちをずっと避けていたの。CEOになったから、過去の黒歴史を抹殺して、仲間を捨てるんじゃないかっとあたしは思った」

奇愛は自慢そうに胸の前に腕を組んだ。

「あたしはね、仲間を大事にしているから、イズルの思い通りにさせたくない。特に、あたしの軌跡兄ちゃんのようないい人をいじめるのは絶対許さない! わざわざとイズルをここに騙して、話すチャンスを設けたの」

「話ならここで話せばいい!なぜCEOを拉致したんだ?!」

「もう言ったじゃない!拉致じゃないって!!」

青野翼の理解力に、奇愛は頭を抱えた。

「でも事実は拉致しました!軌跡というやつですね?警察に通報します!」

青野翼はポケットから携帯を取り出した。

「どっちが早いか比べてみるか!」

奇愛はハンドバッグから拳銃を取り出した。

「!!」

明らかに、携帯は拳銃に負けている。

青野翼は唾を呑んで、ダイヤルの動きを止めた。

この隙に、リカは二人の間に入って、右手で携帯、左手で拳銃を没収した。

「人を探すのは先よ。運転と道案内、やるべきことをやりなさい」


青野翼はイズルの車を出して、三人で出発した。

道案内は奇愛だけど、二人の低レベルの喧嘩を防ぐために、リカは助手席に座った。

奇愛は後ろから前の座席の間に頭を伸ばす。

「彼らはピッツァの斜楼に行った」

「イタリアか?!」

青野翼は驚いた。

「よく聞けこのボケ!ピサの斜塔じゃなくて、ピッツァの斜楼」

「どこのテーマパークですか?」

「わざとボケているの?」

奇愛は拳銃を拾って青野翼の頭に突きつけた瞬間、リカは隣から説明をした。

「新港公園の近くにある、建設停止中のビルなの?ビルの縦縁は斜めで、すぐ隣にHOTESTというピッツァの店がある」

「さすがお姉ちゃん。話が早い」

奇愛は満足そうに拳銃を下した。

「リカでいい」

リカは極簡単な自己紹介したら、また盗聴器に集中する。

盗聴器の向こうに、「……絶対わたしに惚れる!」とようこが叫んでいて、「……いいから来なさい!」とエンジェは誰かに怒鳴っている。


青野翼はHOTESTピッツァ店を車のナビに設定した。

ようこの無駄叫びが続く間に、リカは奇愛に「拉致」の事情を聞いた。

「軌跡という人とその仲間たちは一体何をしたい?ただ話をするなら、ほかの方法もあるでしょ?」

「軌跡兄ちゃんの名前は『羅軌跡なおきせき』、20歳、牡牛座、O型、身長は184センチ、高くてかっこいい!腹筋が八つ割れで、強くて頼もしい男!親孝行も友達のお世話もばっちり!」

軌跡という人をしゃべり始めたら、奇愛の目はキラキラ光った。

「でもね、なぜか騙されちゃって、イズルの奴のチームに入ったの。あんな奴の副隊長なんかより、あたしのチームで司令官をやってって何度もお願いしても来てくれない……」

リカはすぐ理解した。

その軌跡は奇愛の好きな男のようだ。

まさか、奇愛に毒殺されそうになったその兄はイズルのこと?


「あたしたちはよく一緒にサバイバルゲームをやっていた。半年前に、イズルの奴は『新しい室内フィールドができた、遊びに来て』ってあたしたちをピッツァの斜楼に誘ったけど、その日彼ドタキャンした。その後、渡海お爺ちゃんたちのことを知った……」

「軌跡兄ちゃんはずっとイズルの奴を助けたいの。なのに、奴は死んだ魚みたいに軌跡兄ちゃんの連絡を全部スルーした!軌跡兄ちゃんは心配で心配で、あたしに頼んできた」

「連絡しないほうがいいから……」

リカは自分だけが聞こえる声で呟いた。


イズルのやり方は分かる。

万代家の残忍な手段を目にしたから、仲が良ければよいほど、仲間たちを巻き込みたくないだろう。

「?何か言った?」

奇愛はリカの呟きに気付いた。

「いいえ」

リカは質問を続ける。

「そこに行って、話をするだけなの?ほかのことはしない?」

「うん、そのつもりよ。彼の状況を聞きたいだけだもん」

奇愛は頷いた。

「あっ、でもね、軌跡兄ちゃんに言っておいた。もしイズルの奴は大人しく話してくれないなら、どこかに閉じ込めて拷問でもしてって」

「お、お前……これは、れきとした拉致だろ!お前が主犯だろう!!」

青野翼は震えた声で話に割り込んだら、奇愛は再び拳銃を彼の頭に突きつけた。

「タイミングが悪かった。『カマリキがヒワに狙われているのも知らずに、セミを捕えようとしている』。あの軌跡たちは余計なことをしなくても、裏で厄介なことを企んでいる人が彼たちの行動をチャンスにするかもしれない」

二人の争いを無視して、リカは冷静に続けた。

「カマキリ?ヒワ?どういうこと?まさか、軌跡兄ちゃんはカマキリと言っているの?違いうのよ!カマキリなんかよりずっとかっこいいだもん!」

奇愛はリカの話の意味がよく分からなかった。

「その男を諦めましょう。『お前はカマキリなんかよりかっこいい』と言われて喜ぶ男はこの世にはいないから」

青野翼はあきらめずにツッコミしたら、「カシャッ」と奇愛は拳銃のスライドを引いた。

「リカさん!このいかれた娘を何とかしてくださいよ!」


リカは二人の子供喧嘩を放置して、耳を塞いで盗聴器の音を聞く。

向こうに、エンジェはようこの叫びを抑えて、「マサルちゃん」という人に電話をした。

先ほど、エンジェはほかのところで勤務する人を呼んでいたが、相手に拒絶されたようだ。

まもなく、エンジェは「マサルちゃん」に感謝する声があった。

やはり、あの人たちはグルだった。

リカは思わず手で左腕を抑える。

あの時の傷は、まだ痛い。

……

イズルも運の悪い人だ。

遊びまわる気楽な人生を送れるはずのに、彼と関係ないことのせいで、暗黒組織の獲物になった。

とにかく、彼の仲間の中に、裏切り者がないように願うしかない。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?