六階は山地の地形を模倣して作られたダンジョン。
特別に改造されて、全てのダンジョンの中で、天井の一番高い階層だ。
小さな山谷が詰め詰めで、地面はデコボコ。
山谷から時々ペイント玉が飛ばされて、退屈な室内山登りの余興として攻略者たちに色を付ける。
天井からたくさんの太いロープが垂れ下がっていて、山登り以外に、チンパンジーになって攻略する道も示された。
「山中の住民」という地味なダンジョン名だが、体力の大量消耗を目的に作られたものだ。
七階は氷面だから、バランスを維持するためにコントロール力が必要。体力がないとハードルは上がる。
イズルの攻略順番は逆だから、少しは気楽になる。
でも、この六階は単純に体力を試練するところで、カラクリを知っていても地道に進むしかない。
「他人のために用意した落とし穴なのに、結局自分が落ちる。これは報いなのか……筋肉だけの運動は嫌いなのにな」
イズルはネクタイを外して、カバンからレインコートを出した。
体力消耗の覚悟をしているけど、彩りになりたくない。
「雨夜の迷宮」を正面突破したリカは、びしょ濡れな姿で二階の「泥沼の地獄」に入った。
汚い泥を見たら、少し眉をひそめた。
でもやはり靴を抜いて、肌足で中に入った。
少しずつ進みながら足で床を探る。
動けそうなところを見つけたら、力いっぱいで踏み込んだ。
すると、彼女が立っているところが沈んで、ほかのところに何個のプラットフォームが上がった。
泥は胸の下まで埋まってきて、一歩前の床が消えた。
でも、リカは足を更に深いところに伸ばして、前に進んだ。
奇愛の情報によると、沼の深さは1.5メートル、消えた床のブロックは沼底から大体0.2メートルくらいのところまで沈んだ。上昇したプラットフォームの下部にも木枠でできた「橋」が張られている。落ち着いて踏めば無難に前進できる。
上昇と降下を触発する床の板は多く存在する。それらを踏むたびに、沼の地形が変わる。
複数の人が同時に入る場合、あっという間に大混乱な状態になるだろう。
リカは一人だけだから、逆に順調に攻略できる。
緊急通路で三階に上がったエンジェと筋肉ウルフたちはまた三階の緊急出口の扉を破壊した。
三階のフィールドは円形、正しく言えば、巨大な円形池だ。二階の泥沼と正反対、きれいで透明な水が入っている。
二階で泥沼に入った筋肉ウルフは、泥を洗い流すると思って、少しだけ嬉しい気持ちで中に入った。
でも入る直前に、ワナを踏んだばかりのことを思い出して、両手で岸辺を掴んで、かなり慎重な姿勢で降りた。
床に踏みワナがないと確認したら、筋肉ウルフは両手を離してゆっくりと進んだ。
その時、池の底から機械音が発され、水は急速に流れ始めた。池の中央を中心に、巨大な渦巻きが形成された。
その同時に、円形の岸辺から中央に向けて、数十本の水柱が噴出された。
「しまった!」
筋肉ウルフは渦巻きの向心力と水柱の攻撃を受けながら、なんとなく体勢を保っていた。
もう体を洗うなんてどうでもいい、とりあえず池から上がった。
「この階層も人の気配がない……本当だ……」
「そうだそうだ。こんなところでやることもないだろ?」
エイプリルフールでもないし、筋肉ウルフたちはこんな気味悪いいたずらダンジョンに付き合いたくない。口を揃えてエンジェを説得しようとした。
「ふん……」
エンジェは紫の唇を噤んだ。
一階で濡れた服はまだ乾いていない。これ以上濡れたくない。
仕方がなく、悔しそうにハイヒールを踏み鳴らした。
しかし、正面から上がってくるリカは泥や水にやられるのを想像したら、また口を開けて満足そうに微笑んだ。
五階まで来たら、イズルは束の間の休憩ができた。
五階は熱帯雨林を模倣して作られたダンジョン。
ワナだらけの雨林の中で、隠された二本の鍵を見つければ、六階への扉を開けられる。
軌跡たちが用意したのか、六階から五階への扉はすでに開放状態だ。
それに、もともと五階と四階の間の扉はロックされていない。
イズルは鍵を探す手間を省いた。
人を天井に釣り上げる縄のワナや、落とし穴などを避ければ、気楽に通過できる。
しばらく熱帯雨林の蒸し暑さを我慢するのはさほど苦労にならない。
リカは二階の泥沼を通過したら、白いドレスもほぼ泥色になった。
二階と三階の間に休憩室がある。シャワー室や、着替えも用意されている。
けど、リカは休まなかった。
手足に着けている泥を洗い流して、運動靴に履き変えただけで、次の階層への準備を始めた。
サーベルケースからほかの物を出して、ロッカーに入れる。
代わりにケースにタオルをいっぱい詰めて、三階に上がった。
渦巻きの池の前で、リカはタオルを水に浸して、濡れたタオルをケースに詰める。
池に入ると、渦巻きが動作した。
リカは重くなったケースを放して、渦巻きの中心に送る。
ケースは池の中心にある、渦巻きを作り出した吸水口の一部を塞いだ。
吸水スピードが遅くなったおかげで渦巻きは弱くなって、水柱も小さくなった。
リカは泳いで池を通過した。
エンジェと筋肉ウルフたちは四階の緊急扉を突破した途端に、乾いた熱風に襲われた。
頭の上に数えきれないスポットライトは熱く照らされていて、エアコンは熱の波を容赦なく次々と送ってくる。
目のいたるところに、金色の砂が輝いている。ところどころに、巨大なサボテンは手を上げて、来客に歓迎を示している。
まさに「情熱の砂漠」。
「流砂はあるかも知れない。この階層も人の気配が……」
泥沼と渦巻を経験した筋肉ウルフはさっそく逃げようとしたが、話がまだ終わっていないうちに、人の姿を見た。
「?!」
50メートルもない先に、一人の若い男性が歩いている。
「エンジェさん!」
「彼だわ!!」
エンジェはその人を見たら、一瞬でテンションが飛び上がった。
やっと、やっと獲物を見つけた!!
今度こそ逃がさない!!
エンジェは不敵な笑顔を浮かべて、キラっと光った目で筋肉ウルフたちに命令を下す――
「あたしの言う通りにやって!」