ゴン!ゴン!
イズルはエンジェの話に戸惑った一瞬、ロックされた合金扉が何かにぶつかられたでかい音を発した。
筋肉ウルフは扉を破って休憩室に突入した。
「捕まえろ!」
エンジェの命令を聞いたら、一人の筋肉ウルフはその巨体でイズルを床に押し倒した。
イズルにとって、これは生まれてから最も重い挨拶だった。
「こいつをどうする?」
筋肉ウルフはイズルの背中に乗ったまま聞いた。
エンジェは乱れた髪とドレスを整えながらイズルを睨みつく。
「殺せ」
「けど、こいつはまだ観察対象で、マサルもやりすぎないようにと……」
「あんたも見たじゃない!何か能力があったら、あたしたちと戦ったはずよ。観察なんかいらない。こいつはただのゴミ男だよ!!」
「……」
エンジェは明らかに個人の恨みでイズルを始末しようとしている。
でも、筋肉ウルフはエンジェのために万代家に逆うわけにはいかない。逆にイズルから少し離れた。
イズルはすぐ反抗しなかった。
彼は拳を強く握りしめて、独り言のように呟いた。
「ゴミ……そうだな、ただの、ゴミだ……」
(大事な家族を一人も守れなかったゴミだ……)
イズルの額が冷たい床にくっつて、熱くなった拳から薄い橙色の光が現れたことに気付かなかった。
「人はゴミかお宝かあなたの基準で判断するものではない」
破られた扉の方向から、人の声が伝わってきた。
「?!」
エンジェと筋肉ウルフたちが振り向くと、そこに三階から上がったばっかりのリカがいた。
リカはイズルが捨てた拳銃を拾って、銃口をエンジェに向ける。
エンジェは最初にゾクっとしたけど、リカの姿をよく見たら、ププッと笑い出した。
リカは全身びしょ濡れ、髪がもう形になっていない。白いドレスは泥色に染められ、泥水が滴っている。靴はドレスと全く合わない安ぽい運動靴、水が滲む音さえしている。
砂の上でもがいたエンジェよりずっとかっこわるい。
「リカお姉さん、美味しい登場を取る前に、ちゃんと鏡を見たら?こんな姿じゃ、助けられる人はドン引きするんじゃないか」
「そんなことどうでもいい。さっさと帰れ」
リカの声の温度は氷点下。脅迫というより、命令を下すような口調だった。
姿がかっこわるく、態度が堂々としたリカを見て、エンジェの笑顔が歪んだ。
「……そう、そうなのね。あんたにとって他人の目線なんてどうでもいいのね!だから何なの?まだ継承人のつもりでいたい?女王様みたいに威張っても、今のあんたはすべてをあたしに奪われた負け犬なのよ!あんたは自分のことを女王様だと思っても、あんたに従う人は一人もいないのよ!」
エンジェの尖った叫びの中で、リカはためらいなく引き金を引いた。弾はエンジェと筋肉ウルフたちの間の隙を通り、彼らの後ろのロッカーに命中した。
「好きなだけに罵ればいい。今すぐその人を解放しろ。私は任務対象を守る義務がある」
イズルは拳を握りしめて、動かないままリカたちの話を聞いていた。「守る」という言葉が響いた時、彼は思わず小さく震えた。
「エンジェさん、もうリカさんと争っちゃいけない。リカさんはまだ万代家の人で、任務の途中だ。勝手に手を出したらマサルさんは困る」
エンジェの怒りが爆発寸前と察し、筋肉ウルフは止に入った。
筋肉ウルフたちは頭まで筋肉に見えるけど、家のルールを守らなければならないことをしっかりしつけられた。
エンジェ自身は戦闘能力がほとんどない。筋肉ウルフが思い通りに動いてくれない。やむを得ず、エンジェは大変悔しそうにハイヒールを踏み鳴らして、言い放った。
「分かったわよ、マサルちゃんのメンツに免じて、今日はここまでにするわ――そのゴミ男、あんたにやるわ!」
「オレのことを決める権力は、いつお前にやった?」
「?!」
イズルは突然に動き出して、自分を制した筋肉ウルフを投げ飛ばした。
床から立ち上がった瞬間、イズルはエンジェにナイフを投げた。
反応が遅く、避けられなかったエンジェの上腕に、ナイフが一本の血痕を描いた。
「ぎゃ――!!」
「?!」
エンジェは悲鳴をあげると、イズルの目に映している彼女の姿が変わった。
イズルの母親ではなく、正真正銘なエンジェ本人の姿になった。
イズルは冷笑して、わざとエンジェの口調で言葉を返した。
「人の母に化ける前にちゃんと鏡を見たら?こんな姿じゃ、人の息子はドン引きするんじゃないか」
「あんた……?!」
イズルの不遜な態度は、一晩中怒りを溜まっていたエンジェを起爆させた。
「こんな……美女を粗末するクズ男、初めて見たわ!もう許さない!!!」
エンジェは腕の傷も抑えず、首元の緑の宝石を引き取った。
「馬鹿!逃げろ!」
リカは急いでイズルの腕を掴んで、緊急出口へ走り出した。
エンジェはリカとイズルの背中に向かって宝石を投げた。
リカたちに届かなかった宝石は地に落ちて、急速に回転し始める。
宝石から金色の火花が飛ばされて、歪んでいる金色の呪文文字に形成する。
リカはイズルを引っ張って振り返りもせずにただ走り続ける。その金色の文字は輝きを増しながら凄まじいスピードで二人を追ってくる。
階段の踊り場まで来たら、リカはちらっと金色の文字を覗いた。
(逃げ切れない……!)
それを悟ったリカは足を止めて、イズルを前に回させようとした。
「?!」
イズルもまたリカの意図に気付き、前に出る瞬間、リカを腕の中に囲んで、彼女を抱きしめたまま一緒に階段を転げ落ちていく。
その同時に、金色の文字は空中で爆発した。
金色の火花は階段の間で迸って、半径三メートルのコンクリートを粉々にした。
爆音と煙が少し収まったら、イズルはすぐ体を起す。
驚いたこと、近くのコンクリートは粉砕されたのに、彼もリカも無傷だった。
薄い橙色の半球形のバリアは、すべての攻撃を拒むように、彼を中心に張っている。
そう、あの日、家族が遭難した日と同じだった。
「これは、『
バリアを目にしたリカは、心臓が大きく鼓動した。
一度封印された希望は再び舞い上がってくる。
(これがあれば、彼たちを、助けに行ける……!)