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29 令嬢VS悪役ver.2.0

ゴン!ゴン!

イズルはエンジェの話に戸惑った一瞬、ロックされた合金扉が何かにぶつかられたでかい音を発した。  

筋肉ウルフは扉を破って休憩室に突入した。

「捕まえろ!」

エンジェの命令を聞いたら、一人の筋肉ウルフはその巨体でイズルを床に押し倒した。

イズルにとって、これは生まれてから最も重い挨拶だった。

「こいつをどうする?」

筋肉ウルフはイズルの背中に乗ったまま聞いた。

エンジェは乱れた髪とドレスを整えながらイズルを睨みつく。

「殺せ」

「けど、こいつはまだ観察対象で、マサルもやりすぎないようにと……」

「あんたも見たじゃない!何か能力があったら、あたしたちと戦ったはずよ。観察なんかいらない。こいつはただのゴミ男だよ!!」

「……」

エンジェは明らかに個人の恨みでイズルを始末しようとしている。

でも、筋肉ウルフはエンジェのために万代家に逆うわけにはいかない。逆にイズルから少し離れた。

イズルはすぐ反抗しなかった。

彼は拳を強く握りしめて、独り言のように呟いた。

「ゴミ……そうだな、ただの、ゴミだ……」

(大事な家族を一人も守れなかったゴミだ……)

イズルの額が冷たい床にくっつて、熱くなった拳から薄い橙色の光が現れたことに気付かなかった。


「人はゴミかお宝かあなたの基準で判断するものではない」

破られた扉の方向から、人の声が伝わってきた。

「?!」

エンジェと筋肉ウルフたちが振り向くと、そこに三階から上がったばっかりのリカがいた。

リカはイズルが捨てた拳銃を拾って、銃口をエンジェに向ける。

エンジェは最初にゾクっとしたけど、リカの姿をよく見たら、ププッと笑い出した。

リカは全身びしょ濡れ、髪がもう形になっていない。白いドレスは泥色に染められ、泥水が滴っている。靴はドレスと全く合わない安ぽい運動靴、水が滲む音さえしている。

砂の上でもがいたエンジェよりずっとかっこわるい。

「リカお姉さん、美味しい登場を取る前に、ちゃんと鏡を見たら?こんな姿じゃ、助けられる人はドン引きするんじゃないか」

「そんなことどうでもいい。さっさと帰れ」

リカの声の温度は氷点下。脅迫というより、命令を下すような口調だった。

姿がかっこわるく、態度が堂々としたリカを見て、エンジェの笑顔が歪んだ。

「……そう、そうなのね。あんたにとって他人の目線なんてどうでもいいのね!だから何なの?まだ継承人のつもりでいたい?女王様みたいに威張っても、今のあんたはすべてをあたしに奪われた負け犬なのよ!あんたは自分のことを女王様だと思っても、あんたに従う人は一人もいないのよ!」

エンジェの尖った叫びの中で、リカはためらいなく引き金を引いた。弾はエンジェと筋肉ウルフたちの間の隙を通り、彼らの後ろのロッカーに命中した。

「好きなだけに罵ればいい。今すぐその人を解放しろ。私は任務対象を守る義務がある」

イズルは拳を握りしめて、動かないままリカたちの話を聞いていた。「守る」という言葉が響いた時、彼は思わず小さく震えた。

「エンジェさん、もうリカさんと争っちゃいけない。リカさんはまだ万代家の人で、任務の途中だ。勝手に手を出したらマサルさんは困る」

エンジェの怒りが爆発寸前と察し、筋肉ウルフは止に入った。

筋肉ウルフたちは頭まで筋肉に見えるけど、家のルールを守らなければならないことをしっかりしつけられた。

エンジェ自身は戦闘能力がほとんどない。筋肉ウルフが思い通りに動いてくれない。やむを得ず、エンジェは大変悔しそうにハイヒールを踏み鳴らして、言い放った。

「分かったわよ、マサルちゃんのメンツに免じて、今日はここまでにするわ――そのゴミ男、あんたにやるわ!」

「オレのことを決める権力は、いつお前にやった?」

「?!」

イズルは突然に動き出して、自分を制した筋肉ウルフを投げ飛ばした。

床から立ち上がった瞬間、イズルはエンジェにナイフを投げた。

反応が遅く、避けられなかったエンジェの上腕に、ナイフが一本の血痕を描いた。

「ぎゃ――!!」

「?!」

エンジェは悲鳴をあげると、イズルの目に映している彼女の姿が変わった。

イズルの母親ではなく、正真正銘なエンジェ本人の姿になった。

イズルは冷笑して、わざとエンジェの口調で言葉を返した。

「人の母に化ける前にちゃんと鏡を見たら?こんな姿じゃ、人の息子はドン引きするんじゃないか」

「あんた……?!」

イズルの不遜な態度は、一晩中怒りを溜まっていたエンジェを起爆させた。

「こんな……美女を粗末するクズ男、初めて見たわ!もう許さない!!!」

エンジェは腕の傷も抑えず、首元の緑の宝石を引き取った。

「馬鹿!逃げろ!」

リカは急いでイズルの腕を掴んで、緊急出口へ走り出した。

エンジェはリカとイズルの背中に向かって宝石を投げた。

リカたちに届かなかった宝石は地に落ちて、急速に回転し始める。

宝石から金色の火花が飛ばされて、歪んでいる金色の呪文文字に形成する。

リカはイズルを引っ張って振り返りもせずにただ走り続ける。その金色の文字は輝きを増しながら凄まじいスピードで二人を追ってくる。

階段の踊り場まで来たら、リカはちらっと金色の文字を覗いた。

(逃げ切れない……!)

それを悟ったリカは足を止めて、イズルを前に回させようとした。

「?!」

イズルもまたリカの意図に気付き、前に出る瞬間、リカを腕の中に囲んで、彼女を抱きしめたまま一緒に階段を転げ落ちていく。

その同時に、金色の文字は空中で爆発した。

金色の火花は階段の間で迸って、半径三メートルのコンクリートを粉々にした。


爆音と煙が少し収まったら、イズルはすぐ体を起す。

驚いたこと、近くのコンクリートは粉砕されたのに、彼もリカも無傷だった。

薄い橙色の半球形のバリアは、すべての攻撃を拒むように、彼を中心に張っている。

そう、あの日、家族が遭難した日と同じだった。


「これは、『霊護れいご』……?!」

バリアを目にしたリカは、心臓が大きく鼓動した。

一度封印された希望は再び舞い上がってくる。

(これがあれば、彼たちを、助けに行ける……!)


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