「入族のことは承諾した。条件と儀式は後で話そう。今すぐここから出してくれ。神農グループの商品に何があったら、オレの価値も下がる」
青野翼の電話を切って、イズルはリカに要求した。
イズルの表情から事態の緊急性を理解して、リカは多く言わず洞窟を開放した。
外へ走ったら、約束もしないのに二人とも電話を掛けた。
リカはあかりへ、イズルは軌跡へ。
「軌跡、皆を連れて、オレが今から送る場所に向かって、着いたら現場の状況を送ってくれ。どんな事があってもまず待機だ。オレはすぐ行く」
桟橋まで来て、子供向けデザインの白鳥ボートを見て、さらにそのゆるゆるな速さを考えたら、イズルは頭痛した。
湖の岸辺を走ったほうか早いかも。
リカは洞窟の方向を指さした。
「洞窟の隣に抜け道がある。出口に小型車が走れる道路がある。そこで電動スクーターを用意するようにあかりに頼んだ」
「!そんなことなぜ早く言わないのか!」
本気に焦っていて、イズルは思わずリカに大声を上げた。
それは八つ当たりだと分かって、リカも強い態度で返した。
「そのすぐ熱くなる頭で電気スクーターを使えないと思ったから!」
「……ごめん」
自分の未熟さ気付き、イズルは目を逸らして謝った。
リカの言った通り、焦りは判断を狂わせる。
焦ってもすぐ現場に到着できない。移動の時間を利用して対策を考えよう。
リカの案内で二人が裏の道路に着いた。
あかりと電気スクーターがすでに道辺で待っている。
「お兄ちゃんの家に何があったの?まさか、あいつらは入族を止めるためにわざと……」
「わからない。とにかく帰らせてあげるの」
リカは目でイズルに行っていいの合図をした。
イズルはさっそく電気スクーターに乗って、リカを呼んだ。
「お前も一緒に来い」
「?」
「オレの力が欲しいなら、まずオレはどんな人なのかしっかり見届けてもらおう。バカを見るような目で見られるのはもううんざりだ!」
「……」
リカはちょっとびっくしりた。
その言い方だと、自分に力を貸してくれるのだろう。
「あたしは自分で帰れる。お姉ちゃんたちは早く行って!」
あかりは二人の背中を押した。
電気スクーターはギリギリ二人で乗れるサイズ。リカはイズルの後ろに立って、しっかりと彼を掴んだ。
イズルはスピードを最大に上げ、駐車場の方向へ駆けた。
包囲されたところは、神農グループ所属の製薬工場。
場所は高霊山から車で40分くらいの距離にある閑散な小町。
イズルはスマホを車ナビの隣にあるスタンダードにセットして、電話をかけながら車を飛ばした。
「スピード……」
イズルの険しい横顔を見たら、リカは「違反」の二文字を呑んだ。
リカは自分のスマホを出して、目的地の情報を調べ始める。
工場の付近に着いたのはちょうど正午。太陽はまぶしく大地を照らしている。
工場の外は高い壁に囲まれていて、敷地内に数多いの建物がある。敷地の外に高い建物や樹などがないので、その付近の状況は遠いところからもはっきり見える。
最初にリカとイズルの視線に入った異変は、数台のパトカーと工場を囲んだ黄色い警戒線だ。
「隊長、そこに止まってください」
イズルの携帯から、軌跡の声が響いた。
「俺たちは工場の真正面のカフェにいる。さっき、警察の服を着ている人が何人も来て、お店の人と雑談していた。工場の消防設備に問題があるとか言って……全員拳銃を携帯しているようだ」
「拳銃を持って製薬工場の消防点検する?いい冗談だな」
イズルは鼻で笑った。
ちゃんとした言い訳も用意していないということは、相手は余程の馬鹿か、かなり傲慢なやつだ。
「あなたの表に出せない産業のABCDとかを狙ってきたのでしょう。本当の警察かどうか分からないけど」
リカは横から会話に入った。
「本物でも偽物でも、オレのものに指一本触れさせない」
イズルはそう言い張って、また電話に向けて指示を出した。
「軌跡、オレは車で突入する。『蜃気楼』を頼む」
「了解だ」
軌跡はそれ以上聞かずに電話を切った。
リカは「蜃気楼」の意味が分からないが、イズルとその仲間たちの呼吸がぴったり合っていることが分かった。
イズルは車を工場入り口の斜め向こうの道路に止めて、しばらく待機した。
この目立たない位置から、工場入り口の状況をよく見える。
まもなく、健は工場の入り口に走って、何かを叫びながら、自分の体重を利用して一人の警察を押し倒した。警察たちが健に気を取られた間、軌跡と守が突入し、それぞれ一人の警察を掴んで、工場の外へ引っ張り出そうとした。
ほかの警察が混乱になって、三人を止めようと飛びかかって、入り口はあっという間に混戦になった。
それを見ると、イズルはドアのロックとシートベルトを解除して、リカに要求を出した。
「シートベルトを外そう。オレが動く前に勝手に動くな」
リカは黙ってシートベルトを外した。
イズルは車にエンジンをかけ、工場の入り口に向けて車を飛ばした。
「だから!もう間に合わないって!!」
「お願い、助けてくれ――!!」
「早く!!」
軌跡、健、守三人はわけの分からないことを叫びながら、警察たちと乱闘している。
車のホーンを聞いたら、三人はたちまちあちこち逃げ出した。
警察たちもついに異様に気付き、間一髪で逃げた。
入り口を突破したら、イズルは車を止めることはなく、運転席から立ち上がった。
助手席のリカを腕の中に囲んで、助手席の扉を開く。
車が走ったまま、イズルはリカを抱いて車から飛び出した。
二人は床で何回か転がって、安全着陸した。
車は入り口の真正面にある花壇にぶつかり、木の檻を砕け、それから三百六十度を回し、工事中の倉庫に飛び込んだ。
車から出で一瞬でリカはなんとかサーブルのカバンを引っ張り出した。人も荷物も無傷。
イズルの体に数か所のかすり傷がついたけど、彼は何もなかったように、早速立ち上がって、走ってきた軌跡三人と合流した。
一歩遅れで来た警察たちは警戒していて、イズル一行と少し距離を取った。
「すみません。車のブレーキが壊れたみたい。わたしを殺そうとする人の仕業でしょう」
イズルは挑発的な笑顔を警察たちに見せた。
「皆さんの身の安全のために、わたしともっと距離を取ったほうがいいと思います」
車事故で脅かされたうえ、また軽蔑そうな目で見られて、何人の「警察」は悔しそうに歯を食いしばった。
その時、工場のオフィス棟の方向から何人か走ってきた。
先頭に走る黒いスーツの中年男性は一直線にイズルに向かった。
「CEO、待っていました!」
「萩さん、ご苦労様です」
イズルがうなずいたら、萩という男性は低い声で状況を説明し始める。
「CEOが電話で指示した通りに、『問題のない』ところから消防設備の点検をゆっくりと案内しました。奴らはなんの点検道具も持っていません。消防設備より、ほかの何かを探しているようです」
「時間稼ぎありがとう。後はオレに任せるがいい」
男に下がる合図をしてから、イズルは一度リカに振り向いて、
いたずらっぽくにこっと笑った。
「この事件をよく処理できたら、加点してくれよ」
「……」
リカは少し躊躇ってから、採点スマホを出して、加点のメロディーを数回鳴らした。
半分冗談で言ったので、どこが評価されたのかイズルは気にしなかった。
イズルは警察たちの先頭に立っている、リーダーっぽい人物に向けて顎を上げた。
「わたしはこの製薬工場の責任者です。ここの消防設備は一体どんな問題があって、こんなたくさんの警察さんにご苦労をかけたのか、教えてくれませんか?」
そのリーダーは二十代の若い男性。白い肌に尖った顎、片寄りの前髪は目を隠せるほど長い。耳にピアスとイアリングの穴が残っている。
警察より、インターネットでよく自分の「かっこいい」写真をシェアして、フォロワーを求めるアカウントのうP主の感じだ。
「もちろん、それほどの問題がありますから……」
リーダーは口を開くと、警察の後ろから一人の中年女性が飛び出した。
女性は真っ白なブランドワンピースを身に纏っているが、その服の優雅さに相応しくない大声でイズルたちに叫んだ。
「人殺し——!!」
「?!」
驚いたイズルたちは女の怒りの目線を辿ったら、その目線の先にリカがいた。
女はさらに一歩進んで、リカに指さして叫んだ。
「この人殺し!よくもずうずうしくここに隠れたのね!」
女がリカに飛び掛からないように、イズルはリカの前に出た。
細い中年女性は足を止めたが、悔しそうに叫び続けた。
「お金持ちを釣って庇ってもらうつもり?!笑わせるなよ! あんたが犯した罪は一生も償えないものだわ!一生も消えない大恥だ!あんたはもう継承人なんかじゃない、卑劣な人殺しだ!皆も知っているんだ!」
女の眉とアイラインが濃厚な黒色で、目が充血している。深紅に塗られたの唇から歯が突き出る。まさに怒りの鬼だ。
確かに、リカを憎んでいるように見える。
リカはただ女をまっすぐ見つめていて、何も言わなかった。
でも、その複雑な眼差しと強張った顔からイズルはリカの動揺を感じた。
「あんたは私の息子と姪を殺した!自分一人で生き延びるために、継承人の地位のために、部下も先輩も先生も同僚も殺した!あんたこそ裏切り者なのよ!卑劣な人殺しなんだよ!」
イズルは喚く女を放っといて、警察リーダーに冷笑した。
「なるほど、警察さんは異常者を掴むために来たのですね。仕方がありません。これからうちの警備を強化しますよ」
「……」
狂っている女を見て、リーダーも困った。
彼女の役目はすでに終わった。
ここに残しても自分側に恥をかかせるだけだ。
リーダーはほかの人に目配せをして、二人の警察は女を抑えた。
「おばさん!落ち着いて!」
「俺たちは処理するからしばらく休んでください!」
「リカ!あんたこそこの世界から消えろ!この世界にあんたの居場所がないんだ!あんたの罪をばらしてやる!この人殺し!!あんたは絶対不幸になる!!」
女は絶叫しながら二人の警察に強引的に連れて行かれた。