イズルたちはリーダーと中年女性をマンションに連れ戻して、5階のある会議室に入った。
イズルが司会者の席に座ったら、軌跡はリーダーと中年女性の肩を掴んで、イズルの向こうに座らせた。
最後に会議室に入ったリカはざっと状況を見てから、イズルと一歩離れたところに立った。
中年女性は人を食うような目でリカを睨みついているが、隣のリーダーの惨状を見たのか、イズルの鋭気に抑えられたのか、もう叫びはしない。
「警察に偽装、拳銃持ち、正当な生産活動をする民間工場を包囲して脅迫。裁判に出したら、何年の牢屋生活が待っていると思う?」
イズルは鼻で笑って、意識が回復したリーダーに話をかけた。
「何が正当活動……俺たちを警察に渡したら、お前がやっていることもバレるぞ!」
「警察に渡す?いいことを考えているんじゃない」
イズルは軽蔑そうに冷笑した。
「お前らみたいな気持ち悪い奴、牢屋入りは安すぎる。楽に死なせない。一体誰の仕掛けで何をしに来た?白状しないと、お前らを砂漠に送ってやる。ラクダの飼育でその汚い顔と心を洗浄するがいい」
「!」
砂漠の中でラクダを飼育する。
毎日乾いた風と灼熱な砂に囲まれて、水もお風呂もない、燃える太陽の下でマンドリルのような生活を送る……
リーダーのような顔自慢でUVクリームやパウダーがないと死にたい人にとって、まさに牢屋入りよりも怖い脅迫だ。
「しょう、商品……約束された商品をもらいに来ただけだ! その工場に偽物の警察が現れたから、きっと本物の警察に目を付けられる……お前、商品を渡さないなら、もっと面倒なことになるぞ!」
「本物の警察に目を付けられた状態で、商品を渡したこそ面倒なことになるんじゃない?オレの知力をお前のと一緒にするな」
「ケッ……」
矛盾なところが指摘されて、リーダーは言葉に詰まって顔が青ざめた。
彼は命令通りにやっただけで、その命令の合理性について考えたことがない。
窮屈になった時、中年女性は助け船を出した。
「すべては、思い知らせるためよ……」
「何を?」
「あの人殺しと一緒にいるとよい結末がないってことよ! 彼女は疫病神よ!二年も身を隠してて、その間、どこで何をしていたのか分かっているの?!」
女性は目を大きく張って、また音量を上げた。
「またか」
イズルは退屈そうに笑った。
「彼女はどこで何をしてたとしてもオレと関係ない。お前たちこそ、彼女と同じ万代家の人だろ。たとえ彼女は本当に疫病をもたらしても、まずお前たちが不幸になるだろ」
「!!」
「おばさんはもう年だし、健康のために、大声で叫ぶのを控えたほうが身のためだ」
中年女性の誘導的な話をあっさり振り払え、イズルは更に冷たい声で話を置いた。
「お前たちの目的は大体分かった。背後の人の名前と連絡先を言え。30秒をやる。先に言い出す人を解放する。遅れたほうは工場の地下倉庫に閉じ込める」
3秒もいらない、リーダーと中年女性は口そろってエンジェルの名前を連絡先を白状した。
答えを得たので、イズルは軌跡に頼んで二人の捕虜を外に送り出した。
二人だけになったら、イズルは自分の推測をリカに話した。
「どうやら、あの妖怪もオレの持っている資源を手に入れる
と考えている。だがお前がいる以上、彼女が入る余地はない。だから、脅迫の同時に変な話を吹き込んできて、オレにお前のことを疑わせる。オレはお前と手を組むことに疑問を持ったら、ほかのルートを探す可能性がある。彼女はその隙を狙っているだろう」
「妖怪?エンジェのこと?」
「ほかに誰がいる?」
イズルは嫌そうに舌打ちをした。
「でも、彼女の権限ではあんなたくさんの人を命令できないと思う。恐らく落合の人でしょう。さっきの女も落合の妹だから」
「落合?」
イズルはその名前に覚えがある。
神農グループと商談をする万代家の責任者だ。
「落合重則。万代家最高権力者、七龍頭の中の一人。エンジェは彼から仕事をたくさんもらっていた。仲がいいと言えるでしょう」
「なるほど……」
イズルは落合の顔を思い出そうとしたが、曖昧な輪郭しか思い出せない。
「そう言えば、さっきの女はお前にかなり悪意を持っているようだな。そいつらの機嫌を損うこでもしたのか?」
「……」
リカは沈黙で答えた。
「まあいい、それはお前たちの『家庭事情』で、オレと関係ない」
あの女はリカのことを散々人殺しと叫んだけど、イズルはそんな話を信じるつもりはない。
第一、そこまで憎んでいる息子の仇だったら、ほかの人を遠慮することはなく、拳銃でリカを撃てばいいのに。殺せなくてもケガさせて苦しめられる。
リカを咎めることより、リカの「やったこと」を自分に知らせるのが目的だろう。
それに、息子の仇はまだ取っていないのに、妖艶なお化粧をする余裕のある母親はどうにも気味悪いと感じる。
リカの過去に完全に興味がないではないが、今は問い詰める場合じゃないとイズルは判断した。
青野翼の資料によると、リカは確かに二年くらい「失踪」した。
万代家の重大任務を執行しに行ったようだ。
そして、その任務が失敗して、リカは家から追放されそうになった。
あの女も「二年」と言った。だとしたら、リカの「人殺し」は、その「二年」の任務と何か関係があるだろう。あの任務が失敗したせいで、「人殺し」になったのかもしれない。
それより、リカのは女に反論しなかったのが気になる。
毒舌なのに、冤罪だったら反論しないのはおかしい。
まあ、過去はどうであれ、少なくとも、今のリカは自分を害しないのが確信できる。
イズルは席から立ち上がって、扉に向かった。
「警察のところに行く。ちなみに、本物の警察だ。お前は来なくていい。入族のことは、家で夜18時の地元ニュースを見てから話そう」
「警察?地元ニュース?」
イズルはリカの質問の答えないまま、振り向かずに部屋を出て行った。
車に乗ると、イズルは青野翼に電話をして、情報共有を要求した。
まもなく、イズルのスマホに資料が届いた。
万代家の七龍頭の一人、落合重則の写真だった。
暗い顔の痩せた中年の男、受け口が特徴的で、細い目に鋭い光が宿っている。
青野翼は自分のパソコンで資料を見ながらイズルにその人物を紹介した。
「落合重則、三年前に七龍頭になったばかりの成り上がり。やり口が惨くて、裏世界でもかなり酷評されています。万代の七龍頭になった者は大体控えめで、慎重派な人が多いです。彼のような邪心を隠さず外に出すタイプは珍しいと言えるでしょう。また、彼はただの表立ての悪人役で、その裏で糸を引いている人がいるという説もあります」
「あの事件の前に、高霊山の万世リゾートで彼に会ったことがある。その時、彼と交渉したのは父と祖父、オレは特に会話しなかった。無気力なインチキキャラのイメージしかない。インチキは確かだろうが、腕はそれほど高くないと思う。手下は妖怪だの、ホストだの、喚くおばさんくらい。どうせ、悪運が強くて成り上がったものだろう」
イズルは軽蔑そうに鼻で笑った。
「妖怪?ホスト?喚くおばさん?」
青野翼は少し戸惑って、リカと同じような質問をした。
「妖怪というのは、あのエンジェのことですか?」
「ほかに誰がいる?」
「そう言わないでください」
青野翼はやれやれと笑った。
「ホストや喚くおばさんはともかく、あの妖怪は腐っても上位の継承権を持っています。CEOにも興味があるようですし。万が一、リカさんのほうで玉砕した場合、彼女も選択肢の一つになります。ほら、嫌々しながら好きになっちゃった~ってパターンもよくあるんじゃないですか」
その話が半分冗談だと分かっていても、イズルの心に強い抵抗感が走った。
「万が一があっても、あんな妖怪と手を組むレベルまで落ちない。それに、玉砕するとはなんだ?すでにリカから万代家の入族契約をもらった。妖怪の仲間たちが出なかったら、オレはもう万代家に入ったんだ」
「ほぉ、それはめでたい……」
「喜ぶのはまだはやい」
青野翼の祝いの言葉を断ち切って、イズルは更に引き締めた顔で車のエンジンをかけた。
「お前の草食子犬系婿入りのクソ設定のせいで、オレは馬鹿だと思われた。これ以上交渉するには、まず彼女のオレに対する評価を変えなければならない。部下なんかより、もっと有利な立場で入らないと意味がない」
イズルとの電話を切って、青野翼は苦笑しながらため息をついた。
「草食や子犬系は信頼されやすいかもと助言したけど、馬鹿を演じるのを勧めたことはないです。リカさんのことと来たら、いつも調子が狂うとはどういうことでしょうね」
青野翼は視線を落合が表示されているパソコン画面に戻る。
「落合とエンジェへのコメントは間違っていないのに」
パッと落合の資料を閉じて、別のファイルを開いた。
「ああいう妖怪なら、相手にする気もなりません。CEOとお姫様、お二人で仲良く頑張ってください」
今回パソコンに表示されたのは、卵形の小島の3D地図だった。