カフェ香りの森は、木色をドミナントカラーにするヨーロッパ風の中型カフェ。
テーブルの間にパーテーションが立っていて、テーブルごとに小さな独立空間になる。
ある窓側の四人掛けの席に、四人の女性が座っている。
その中に、三人の女性の顔に驚愕と困惑が書かれている。
リカだけが涼しい顔で、この意外な対面に戸惑った三人を見ている。
「あなたたち……」
三人の女性の中に一番年上の渡海英子は質問しようと口が開くと、イズルはパーテーションの入り口に現れた。
「!?」
三人はイズルを見たら、目を白黒させた。
リカと対面の約束をする時、ほかの人が来るなんて全く聞いてなかった。ほかの親戚がここにいるのがすでに不意打ちなのに、イズルまで現れたとはどういうこと?
イズルの顔にも疑問が書かれている。
伯母の英子さん、従兄の妻の芽依さん、叔父の妻の芳美さん、
親戚の女性たちはなぜリカと一緒にいる?
ほかの人が話す前に、リカは立ち上がって、席をイズルに譲った。
「説明します――」
リカは眉一つも動かず、順番に三人の女性に視線を移動する。
「『一億をやるから、イズルから離れて』、と英子さんは私に交渉しにきました」
「!」
「『一億をあげるから、イズルを落として、それから浮気でもして彼のプライドをズタズタにしろ』、と芽依さんは私に依頼しました」
「!!」
「『うちの人のスマホにあんたの写真がいっぱいあるのよ。愛人になるつもりでしょ!一億をやるから、さっさとうちの人の前から消えなさい』、と芳美さんは要求しました」
「!!!」
リカの話を聞いたら、テーブルを囲む四人の顔は全部青ざめた。
年上の女性親戚たちに、イズルはできるだけ失礼にならない笑顔を作ったけど、全身の冷気がもう隠しきれない。
三人の女性親戚は思わず震えた。
「あなたと契約がありますが、こういう……副業と言える依頼、しかも、本職と利益相反の仕事について、どのように処理すればいいのか、契約に書かれていません。三人ともあなたの親戚ですし、あなたに判断を委ねると思います」
「…………」
イズルの冷徹な目線は三人の女性に刺さった。
確かに、この人たちは普段からうるさかった。
だけど、その点を除けば仲の良い親戚だった。
まさか、自分の見ていないところで自分の人生を干渉するような真似をするとは。
人間は偽装に長けているもの。利益を手に入れるために、本性を常に隠していて、相手に油断させる。
自分さえ得になれば、相手の人生はどうなっても知ったこっちゃないと思っているだろう。
ゲームや遊びに夢中する人たちはよく批判されるけど、リアルに他人の人生で遊ぶ人たちは認められ、「現実的」だと美化される。
笑えるんじゃないか……
「イズル、これは誤解だわ」
英子は説明しようとしたら、イズルはニコニコして彼女の話を遮った。
「いいんです、英子伯母さん。皆さんのご要望にすべて答えます」
イズルはサーと立ち上がって、リカに言った。
「三人の依頼、全部受けていいです。今、店の出口に行ってください」
「?」
すべて答える?どうやって?
リカもイズルの話に気になるが、多く聞かず、言われたまま店の出口に向かった。
でも、数歩を歩いたら、イズルに手首を掴まれて、テーブルの隣に連れ戻された。
「英子伯母さんの要望どおり、リカさんはわたしを離れました。別に戻ってはいけないと言っていないですね。なら、これで任務完成」
「!」
英子はびっくりした。
「芽依さんの要望も簡単です」
そう言いながらイズルはリカを一度ぎゅっと抱っこした。
「はい、わたしはリカさんに落とされました。一つ、聞きたいですが……わたしの従弟は去年ハーバード大学に合格しました。彼と小学中退のわたしとどちらが優秀だと思いますか?」
「普通に考えれば、従弟さんのほうです」
リカは普通に返事したら、イズルはわざとらしい悲しい口調で訴えた。
「ああ、酷いですね。リカさんはわたし以外の男を誉めています。しかも相手はわたしの従弟。これはショック、プライドがひどくひどく傷つけられた、再起不能になりそうですよ」
終わったら、また通常の顔に戻って、芽依に宣言する。
「はい、芽依さんの任務は完成ですね」
「えっ?!」
芽依は驚きの声を上げた。
「芳美さんの依頼ですが、これからリカさんが出席する場面、卓三叔父さんを招待しません。これでリカさんは卓三叔父さんの目の前から消えます。任務完了で問題ないですね」
「……」
芳美は渋い顔になった。
「三億、現金振り込みでよろしくお願いします」
「イズル、これは真剣な問題です!」
英子はさすが一族の大伯母さんで、すぐ立ち直った。
「あなたの配偶者になる人は、あなただけではなく、神農グループの将来にも関わっています。わがままは許しませんわ!」
「でしたら、リカさんはすでに神農グループの将来に関わる重要な人になりました」
イズルは片手をリカの肩にかけた。
「恩返しのために、わたしが持っている10%の株をリカさんに譲りました」
「!!」
「10、10%?! 正気ですか?!」
芽依は悲鳴を上げた。
「それじゃ、あなたは……」
英子も目を大きく張った。
「もう筆頭株主ではありません」
イズルの答えは気楽だったが、英子は強い一撃を受けた。
イズルの家族がいなくなった後、遺言と継承権に従って、イズルは家族全員の株を継承して、最大な株主となった。
10%をリカに譲ったら、彼は最終の決裁権限を失った。
リカも神農グループに影響できる人になった。
本当に医師であっても、株を譲る必要はないでしょ。
イズルの「愚かな行為」に、英子は頭を抱えた。
この身元不明の「シンデレラ」をそんなに信用しているの?
ほかの株主と組んで、イズルを売ったらどうする?
もしかしたら、イズルはリカに尻尾でも掴まれたの?
純愛なんかより、陰謀の可能性が高いわ。
何と言っても、株譲渡の重大情報を得た三人の女性は、もうホームドラマを演じる余裕がなくなって、急いで各自の夫と仕事チームに報告しに行った。