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67 新世界のサバイバルゲーム

「言ったでしょ?同じ陣営にいても、リカはマサルちゃんの昇進を見たくないの。マサルちゃんより劣ることが怖がっているからよ。真心でマサルちゃんの未来を祈っているのは、あたしだけなの。だから、リカに気を付けてっていつも助言をあげてるの」

お茶会から帰ったら、マサルはまっすぐエンジェと「お茶会」をして、情報シェアをした。

エンジェは彩りのマカロンが並んでいる皿を回しながら、ローヤルミルクティーを口にした。

「まぁ、これも予想中のことで、心配する必要がないわ。これからのやること、分かってるよね、マサルちゃん?」

「……ああ、分かっている」

マサルは暗い眼差しで、あるピンクのマカロンを手にして、潰しながらお茶に入れた。

エンジェはその表情と動きにとても満足。

ふわっとマサルの腕を抱きしめて、弱弱しい声で訴えた。

「マサルちゃんは頼りだわ。リカとあのイズルとやら、あたしを狙ってるの。あたしを傷付けて、警察に通報したのよ。マサルちゃんはあたしのナイト、お願い、ずっと傍にいて、しっかり守ってて!」

「……」

イズルの名前を聞いたマサルの目に、黒い電流が走った。


「新世界」のトレーニング施設の中。

イズルの真正面から、ドリアン形の障害物がいくつ飛んできた。イズルはそれらを拒むように手を伸ばしたら、半球型のバリアが目に前に現れた。

ドリアンがバリアに接触した瞬間、鱗粉となって宙に消えた……

青野翼あおのつばさは制御室から実験室に入って、テストを通過したイズルに拍手した。

「予測通りです。CEOの能力は、十分な霊力を感知する状態のみ発揮できるものです」

「感覚は大体掴めた。ちなみに、もっとマシな障害物はないのか?」

イズルはドリアンの危険性を認めるが、これを障害物に選んだ青野翼のセンスをどうしても認められない。

「ドリアンは果物の中の王者と言われています。CEOとふさわしいオーラを持っていると思いますが」

青野翼はわざとボケって、イズルに返される前に、話題を元に戻した。

「それより、今日のCEOはとてもいい調子ですね。冷静沈着、集中力が高い。前のような焦燥感が感じなくなりました。最近、スマホの点数も下げられていないし、ようやく反撃の時がきたのでしょうか」

イズルの周りの空気が途端に重くなった。

「雑事を考えたくない。それだけだ。焦ってもしょうがない」

イズルは目を避けながらも、ポケットからリカからもらった勾玉を出して、青野翼に見せた。

「これ、知ってるのか?万代家の入族契約が入っているそうだ」

青野翼は興味津々に勾玉を受け取って、照明に向けて観察した。

「入族契約か、解析するには特別な道具が必要かもしれません。しばらくこちに預けってもいいなら、聞いてみます」

「もちろんだ。そもそも、随分前から、『オレ自身』もすでに『新世界』さんに預けられたのだろ」

イズルは冷笑した。

「これはこれは、気になる言い方ですね」

その話を聞いて、青野翼は目を細くした。

「一時の興味でエントリーした『サバイバルゲーム』は『新世界』が主催とは、本当に驚いたよ」


去年年末、家族の一件の前に、イズルはあるリアル孤島サバイバルゲームのβテストにエントリーした。

ゲームの会場は「ウィングアイランド」という人工島。島全体は戸外イベントのために作られた専門施設と言われている。地形、温度、植物など、すべてのものはイベントの需要に応じて変更でき、合計150種類以上の戸外環境を迫真的に模擬できる。

まるでデバイスゲームの中のマップを現実世界に再現したようだ。

島の建設は終わったけど、まだテストの段階。来年の秋に正式的にオーペンする予定。

去年一度、島のα版テストが行われた。テスト参加者の全員は最高の評価を出したおかげで、島の知名度が広まって、みんなの期待値もさらに上がった。

β版テスト参加者の募集は去年の秋から始まったまもなく、十万人以上の冒険家、スポーツ愛好家からのエントリーが殺到した。募集人数はわずか200名なので、競争が極めて激しいものだ。

イズルは藁にもすがる気持ちでエントリーしただけだったが、幸運にも参加者に選ばれた。

参加者選びの基準は書類選考とランダム「抽選」で公表されているが、どのような基準で書類をピックアップしたのかは謎。遊びしか実績のないイズルが選ばれたし、もっと驚いたこと、書類もまともに書いていない奇愛きあまで選ばれた……


昨日の夜、イズルは奇愛から「新世界の情報があった」という連絡を受けた。

「本当に、腹立つわ!!」

奇愛は電話で大げさに叫んだ。

「お父さんとお母さんはどうしても『新世界』のことを教えてくれないから、盗聴器を彼たちの寝室入れたの。どうなったと思う?お母さんはお父さんにこう言った! 

――『新世界にもう一度頼めない?やっぱり、奇愛をウィングアイランドのイベントから外してほしいの』」

「!」

「聞いて呆れたわ!普段の行いが良いから報われたと思ったのに、結局裏口かよ!ひどいと思わない?!」

「要するに、『ウィングアイランド』の後ろは、『新世界』が糸を引いているってこと?」

奇愛の興奮に驚く気力を吸い込まれたのか、イズルは割と冷静に聞き返した。

奇愛が新世界に選ばれた参加者なら、おそらく、彼も……

「そうよ!しかも、参加者全員も『背景』のある人って! これは明らかにインサイダーって奴でしょ!世界中の愛好家たちに申し訳ないと思わない?確かに、あたしの家は彼たちから援助を受けている。それでも、あたしは裏口じゃなくて、実力で勝負したいのよ!そうじゃないと、あたしの生存能力を証明できないじゃない!」

「……その裏口はお前を助けるためのものだと思ってるのか……」

イズルは眉間を摘んだ。

奇愛のバカガキ、状況を全く理解していない……

まさか、家族のことが発生する前から、すでに新世界に狙われていたのか……

だったら、状況は複雑になる。

新世界は自分に対して、何かを企んでいるのだろう。

その企みがウィングアイランドのβテストで実現されるはず。

だが、その前に家族のことがあった。

そのせいで新世界は接触を早めたのかも。

そして、新世界の企みは家族があんなことになった原因の一つの可能性も、なくもない……


青野翼はサバイバルゲームのことを否定しなった。

イズルはそれが黙認だと理解して、話を続けた。

「暗黒組織に殺し合いゲームを仕掛けられた話は、リカを騙すためのデタラメと思ったけど、本当だったのか」

「本当かどうかはともかく、その情報を漏らしたら、万代家の長女は必ずついてくるでしょう」

青野翼は自慢そうに微笑んだ。

「話題を逸らすな。一体、オレに何をさせたいんだ?」

イズルは問い詰めた。

「もちろん、施設のモニターです。CEOはサバイバルゲームのエキスパートですから。よいデータを提供しくれるでしょう」

「――」

イズルの針金のような目線から、納得できない意味を読みとっていても、青野翼はビジネスな笑顔で誤魔化した。

「ほかにもちょっとした用があるけど、企業機密なので、申し上げられません」

「お前たちも企業の部類に入るのか?」

どこのベタ映画みたい馬鹿馬鹿しいとイズルは思った。

「『ウィングランド』に関して、建設から営業まで正式な手続きが揃っています。決して危険な施設ではありませんが、CEOはどうしても辞退するというのなら、上に一度報告して、上司の判断を伺います」

「……」

青野翼があんな態度をしたら、これ以上の情報を聞き出せないとイズルは判断した。

話を続けても時間の無駄だ。

それに、ウィングアイランドの件以外、昨日奇愛からもう一つ気になることを聞いた。

リカは、奇愛に「商品」を注文した。

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