「言ったでしょ?同じ陣営にいても、リカはマサルちゃんの昇進を見たくないの。マサルちゃんより劣ることが怖がっているからよ。真心でマサルちゃんの未来を祈っているのは、あたしだけなの。だから、リカに気を付けてっていつも助言をあげてるの」
お茶会から帰ったら、マサルはまっすぐエンジェと「お茶会」をして、情報シェアをした。
エンジェは彩りのマカロンが並んでいる皿を回しながら、ローヤルミルクティーを口にした。
「まぁ、これも予想中のことで、心配する必要がないわ。これからのやること、分かってるよね、マサルちゃん?」
「……ああ、分かっている」
マサルは暗い眼差しで、あるピンクのマカロンを手にして、潰しながらお茶に入れた。
エンジェはその表情と動きにとても満足。
ふわっとマサルの腕を抱きしめて、弱弱しい声で訴えた。
「マサルちゃんは頼りだわ。リカとあのイズルとやら、あたしを狙ってるの。あたしを傷付けて、警察に通報したのよ。マサルちゃんはあたしのナイト、お願い、ずっと傍にいて、しっかり守ってて!」
「……」
イズルの名前を聞いたマサルの目に、黒い電流が走った。
「新世界」のトレーニング施設の中。
イズルの真正面から、ドリアン形の障害物がいくつ飛んできた。イズルはそれらを拒むように手を伸ばしたら、半球型のバリアが目に前に現れた。
ドリアンがバリアに接触した瞬間、鱗粉となって宙に消えた……
「予測通りです。CEOの能力は、十分な霊力を感知する状態のみ発揮できるものです」
「感覚は大体掴めた。ちなみに、もっとマシな障害物はないのか?」
イズルはドリアンの危険性を認めるが、これを障害物に選んだ青野翼のセンスをどうしても認められない。
「ドリアンは果物の中の王者と言われています。CEOとふさわしいオーラを持っていると思いますが」
青野翼はわざとボケって、イズルに返される前に、話題を元に戻した。
「それより、今日のCEOはとてもいい調子ですね。冷静沈着、集中力が高い。前のような焦燥感が感じなくなりました。最近、スマホの点数も下げられていないし、ようやく反撃の時がきたのでしょうか」
イズルの周りの空気が途端に重くなった。
「雑事を考えたくない。それだけだ。焦ってもしょうがない」
イズルは目を避けながらも、ポケットからリカからもらった勾玉を出して、青野翼に見せた。
「これ、知ってるのか?万代家の入族契約が入っているそうだ」
青野翼は興味津々に勾玉を受け取って、照明に向けて観察した。
「入族契約か、解析するには特別な道具が必要かもしれません。しばらくこちに預けってもいいなら、聞いてみます」
「もちろんだ。そもそも、随分前から、『オレ自身』もすでに『新世界』さんに預けられたのだろ」
イズルは冷笑した。
「これはこれは、気になる言い方ですね」
その話を聞いて、青野翼は目を細くした。
「一時の興味でエントリーした『サバイバルゲーム』は『新世界』が主催とは、本当に驚いたよ」
去年年末、家族の一件の前に、イズルはあるリアル孤島サバイバルゲームのβテストにエントリーした。
ゲームの会場は「ウィングアイランド」という人工島。島全体は戸外イベントのために作られた専門施設と言われている。地形、温度、植物など、すべてのものはイベントの需要に応じて変更でき、合計150種類以上の戸外環境を迫真的に模擬できる。
まるでデバイスゲームの中のマップを現実世界に再現したようだ。
島の建設は終わったけど、まだテストの段階。来年の秋に正式的にオーペンする予定。
去年一度、島のα版テストが行われた。テスト参加者の全員は最高の評価を出したおかげで、島の知名度が広まって、みんなの期待値もさらに上がった。
β版テスト参加者の募集は去年の秋から始まったまもなく、十万人以上の冒険家、スポーツ愛好家からのエントリーが殺到した。募集人数はわずか200名なので、競争が極めて激しいものだ。
イズルは藁にもすがる気持ちでエントリーしただけだったが、幸運にも参加者に選ばれた。
参加者選びの基準は書類選考とランダム「抽選」で公表されているが、どのような基準で書類をピックアップしたのかは謎。遊びしか実績のないイズルが選ばれたし、もっと驚いたこと、書類もまともに書いていない
昨日の夜、イズルは奇愛から「新世界の情報があった」という連絡を受けた。
「本当に、腹立つわ!!」
奇愛は電話で大げさに叫んだ。
「お父さんとお母さんはどうしても『新世界』のことを教えてくれないから、盗聴器を彼たちの寝室入れたの。どうなったと思う?お母さんはお父さんにこう言った!
――『新世界にもう一度頼めない?やっぱり、奇愛をウィングアイランドのイベントから外してほしいの』」
「!」
「聞いて呆れたわ!普段の行いが良いから報われたと思ったのに、結局裏口かよ!ひどいと思わない?!」
「要するに、『ウィングアイランド』の後ろは、『新世界』が糸を引いているってこと?」
奇愛の興奮に驚く気力を吸い込まれたのか、イズルは割と冷静に聞き返した。
奇愛が新世界に選ばれた参加者なら、おそらく、彼も……
「そうよ!しかも、参加者全員も『背景』のある人って! これは明らかにインサイダーって奴でしょ!世界中の愛好家たちに申し訳ないと思わない?確かに、あたしの家は彼たちから援助を受けている。それでも、あたしは裏口じゃなくて、実力で勝負したいのよ!そうじゃないと、あたしの生存能力を証明できないじゃない!」
「……その裏口はお前を助けるためのものだと思ってるのか……」
イズルは眉間を摘んだ。
奇愛のバカガキ、状況を全く理解していない……
まさか、家族のことが発生する前から、すでに新世界に狙われていたのか……
だったら、状況は複雑になる。
新世界は自分に対して、何かを企んでいるのだろう。
その企みがウィングアイランドのβテストで実現されるはず。
だが、その前に家族のことがあった。
そのせいで新世界は接触を早めたのかも。
そして、新世界の企みは家族があんなことになった原因の一つの可能性も、なくもない……
青野翼はサバイバルゲームのことを否定しなった。
イズルはそれが黙認だと理解して、話を続けた。
「暗黒組織に殺し合いゲームを仕掛けられた話は、リカを騙すためのデタラメと思ったけど、本当だったのか」
「本当かどうかはともかく、その情報を漏らしたら、万代家の長女は必ずついてくるでしょう」
青野翼は自慢そうに微笑んだ。
「話題を逸らすな。一体、オレに何をさせたいんだ?」
イズルは問い詰めた。
「もちろん、施設のモニターです。CEOはサバイバルゲームのエキスパートですから。よいデータを提供しくれるでしょう」
「――」
イズルの針金のような目線から、納得できない意味を読みとっていても、青野翼はビジネスな笑顔で誤魔化した。
「ほかにもちょっとした用があるけど、企業機密なので、申し上げられません」
「お前たちも企業の部類に入るのか?」
どこのベタ映画みたい馬鹿馬鹿しいとイズルは思った。
「『ウィングランド』に関して、建設から営業まで正式な手続きが揃っています。決して危険な施設ではありませんが、CEOはどうしても辞退するというのなら、上に一度報告して、上司の判断を伺います」
「……」
青野翼があんな態度をしたら、これ以上の情報を聞き出せないとイズルは判断した。
話を続けても時間の無駄だ。
それに、ウィングアイランドの件以外、昨日奇愛からもう一つ気になることを聞いた。
リカは、奇愛に「商品」を注文した。