今回のお茶会のメイン議題はリカとマサルの任務報告。
二人がそれぞれ完成したばかりのS級の任務:
「レア人材――渡海イズル――の確保」 、
「異能力強化施設『ガイアリング』の建設」について、
七龍頭に報告し、質問に答える。
「イズルの確保」について、リカは要領よくイズルの能力、背景、本人の意向についての考察を述べた。話した内容は資料のままで、特に追加がなかった。
「ご苦労様だった。彼と対面する日を楽しみにしている」
白先生は認めたようにうなずいて、リカの報告を終わらせた。
次はマサルの番。
マサルはパソコンで「ガイアリング」の内部環境、操作方法など映像を見せながら説明をした。
映像が終わったら、実験のレポートを展開して、数字を報告する。
「『単純強化実験』について、1000人の中で、約85%の人の能力は強化されました。強化の幅は人それぞれ違いますが、予測していた数字を上回りました」
「『復刻実験』について、まず、能力レベルでのまとめ結果を報告します。レベル4以下の復刻成功率は60%以上、レベル4~レベル7の成功率は15%、レベル8~レベル10の成功率は2.5%でした。レベル11以上の『サンプル』が不足しているため、実験を行いませんでした」
「また、種類別のまとめ結果によると、身体強化系の復刻成功率は77%、道具使い系の成功率は62%、自然操縦系は5%、精神干渉系は3%、秘術系のサンプルは3種類しかなくて、成功率はわずか0.5%でした。」
「いいんじゃないですか。成功例があれば、確率の問題よ。基数が増えれば解決できます」
シャングリは満足そうにうなずいた。
ほかの人も異議なしの表情だった。
「……」
でも、リカは納得できない。
マサルは成功率だけを報告し、失敗した人の状況に触れなった。
武内からもらった情報によると、強化失敗した人たちの身でさまざまな副作用が起こった。
心身衰弱など軽い症状で済む人もいたが、意識を失い、身体障碍、精神障害になる人もいた。
強化成功の人の中でも、ある程度の異常症状が現れた。
なのに、七龍頭の座に座っている人たちにとって、成功率があれば十分。失敗の結果は彼らが背負うものではない。
十分な餌を出せば、喜んで自分の命を売る出し、基数となる人を集められる。
「秘術系のサンプルは三つしかないのか?」
マサルの報告を聞き終わって、落合は眉を吊り上げた。
「申し訳ありません。実験に参加できる秘術系異能力者は三人しかいませんでした……ほかの人にも協力要請を出しましたが、仕事の関係で、みんなしばらく参加できません」
「そういえば、あの渡海イズルの能力はどの種類に入るのぉ。秘術系でいいよな」
「!」
落合の言いたいことに気づいて、リカはさっそく返事をした。
「分かりません。彼の能力についてまだ情報不足です。能力の原理も分からないので、種類を判別できません」
「いや、原理はどうでもいい」
落合は手を振って、陰気に笑いながら話を進める。
「要するに、それは家が必要とするレアな力だ。早くサンプルを取って、ほかの人に復刻すべきじゃないか。いっそう、これを渡海イズルの初任務にしよう」
「……」
「こちらは問題ございません。『ガイアリング』の改善のためにも、もっと多くのサンプルが必要です――」
マサルはさりげなく落合の提案に賛同したが、彼の話がまだ落着していないうちに、リカから反論があった。
「私は反対します。レアな力こそ、慎重に取り扱うべきです。『ガイアリング』は完成したばかり、安全性はまだ不十分と思います。成功例がありますが、失敗例も多くあるのでしょう。失敗例に関する研究分析はまだありません。レアな人材を実験に投入するとしたら、彼の身の安全を確保する必要があります。でなければ、逆に貴重な人材を失うかもしれません」
「!」
成果が疑われて、マサルは不満そうにとリカを睨んだ。
「サンプル採取に参加した人は、全員異常なし。データで証明されたことです」
マサルの反発に、リカは一歩も引かず、更に追い詰めた。
「現時点で異常がないかもしれないけど、これからも異常が出ない保証はありません。採取サンプルになった人はわずか150人、統計学上で必要とする1500の十分の一です。この人数の中でも、サンプル採取後に体の調子が崩れた人がいました。その現象と施設との関係性はまだ不明で、施設の安全性にまだ懸念があると思います」
「おまえ……!」
マサルは驚きと怒りで言葉に詰まった。
リカは彼とそれほど親しくないが、彼と対立したこともなかった。リカ社交能力のない不愛想な石頭だとずっと思っていた。
なぜ彼が成果を上げようとする時に、いきなり口上手になったのか?
「ほうぉ。リカの話も一理がある」
落合は焦らずに、ゆっくりとリカに聞き返した。
「じゃあ、安全性を上げるために、何か提案があるのかね?」
「……」
リカは知っている。この流れだと、「正解」は「サンプルを増やし、もっと実験をする」ことだ。
だが、その提案はもっと多くの人に危険をもたらす。
どうしても、そのような悪提案をしたくない。
リカがためらうと、マサルは話の続きを受け取った。
「実は、失敗例の観察から問題の可能性に気づいて、すでに手を打っています。すべての参加者に観察者をつけて、今後の変化にフォローしています。今朝、改めて実験参加者の募集を出しました。安全性についての懸念はそのうち、事実によって打ち消されるでしょう」
「さすがマサルくん、仕事が早いね」
シャングリはこのような気の利く若者にかなり好感を持っている。にっこりとマサルを誉めた。
落合もまたマサルの肩を持つ。
「私はマサルくんを信じるよ。リカはまだ心配するなら、実際に行ってみたらどうだ?」
「分かりました。行ってみます」
リカは迷いなく承諾した。
マサルは不服な目でリカを睨んで、困りそうに七龍頭に訴える。
「ですが、『ガイアリング』の機密レベルにより、直関係者以外の人が入れないのが規定です。継承人順位1位とはいえ、リカさんはそこを考察する権力がないです」
「考察名義で行きません。実験参加者を募集しているんでしょ。私は、テスター・実験体として、『ガイアリング』に入ります」
「!!」
その発言に驚かされ、マサルはやっとリカと目を合わせた。
すると、心臓の鼓動が制御できないように加速し始めた。
初めて、リカから威圧を感じた。
リカは柔軟性がない。エンジェみたいに自分のメンツに配慮しないのは分かっている。
だが、二人は一応「姉弟」で、立場的に対立したことがない。
リカの「敵」になった体験は、マサルにとってまったく始めてだ。
マサルはリカの「異世界任務」を破壊したことに多少罪悪感を持っているが、さほど気にしなかった。
彼からみれば、リカは相変わらず継承人の座に座っていて、損失がなかった。異世界の件はリカにとって、何億を持つ人間が100円を落としたようなことだった。
だから疑問だ。
そんな「ちっぽけなこと」で根を持って、家の重要なプロジェクトで自分と張り合って、何になる?
それとも、異世界の件ではなく、あの渡海イズルという男のためか……?