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65 七龍頭

万代家最高権力会議、それは月一度に開催される七龍頭しちりゅうとう全員が出席するお茶会。

会議の場所は決まりがない。議題も毎回異なる。

七龍頭以外にも、議題の関係者が出席する。

リカの祖父――天童大宇てんどうだいうが療養になってから、恒例の七龍頭は六龍頭になった。


今日の天気はとても快適。

お茶会の場所は、フォースグリーンビルの屋上ガーデンに選定された。

リカとマサルは招待されて、七龍頭の誰よりも早く会場で待っていた。

二人の席が同じテーブで、対面座りになっているけど、マサルは目線を七龍頭の座る大きいなテーブルに定着し、リカに一目も振り向かない。

七龍頭用の大きいなテーブルに六セットの茶道具しか置かれていない、椅子も六つしかなかったが、会議が始まる前に、従者はもう一つの椅子ともう一セットの茶道具を持ってきた。

「これは、まさか……」

一番早く着席した七龍頭は、シャンパン色のチャイナドレスを身に纏う中年女性。

やや膨らんでいる体だが、動きが優雅で、気質が華やか。年齢より若いスタイルの服を着ていても違和感がない。

女の名前はシャングリ。七龍頭の中では陽キャラ、お話好きな部類だ。

「先ほど、大宇さんは今回の会議に出席される連絡がありました」

椅子を並ぶ従者はそう答えると、もう二人の七龍頭が会場に入った。

「ほう、それは、いいことですね」

作りもののような笑い声をあげたのは先頭を歩く落合おちあい

イズルの家族とやり取りをして、リカの異世界からの帰りを目撃した男だ。

落合は面長で、目の下に大きなクマがついている。肌色が黒いというより黒黄色っぽい。老化の早い中年に見える。

その声も気力のない渋いもの。全身から陰気が滲み出る。

彼と対照になったのは、その後ろを歩く老人。しろ先生と呼ばれる男。

落合より二十歳年上なのに、落合よりも元気に見える。

髪が真っ白だが、一本も乱れずきっちりまとめられている。痩せた体もよく伸びていてい、とても60歳後半に見えない。

先生と呼ばれるだけの冷静さと落ち着きがあり、軽々しい発言を一切しない。

七つの椅子と七セットの茶具を見て、白先生は何も言わず、微笑んで着席した。


それから、また三人の龍頭が前後に会場に入った。

一番年上で、侍女に支えられて席に入ったのは「ヤナギ様」と呼ばれる老婦人。七龍頭の役職に年齢の制限がない。老婦人はもう90を超えているが、まだまだ引退する気がないようだ。

ヤナギ様の隣の席に入った龍頭はまた一人の老人。「王さん」と呼ばれる70代の男。誰も彼の本名を知らないと言われている。家で「おうさん」の呼び方で通している。

高齢にもかかわらず、誰に対してもくだける態度で、かなりのお喋り好き。

王さんは七つに戻った席と茶具を見たら、さっそく喋り出した。

「こんな重要なこと、事前に教えてくれればよかったのに。お祝いの準備でもしたんだよ。大宇さんから何週間も連絡がなくて、心配してたぞ。彼の部下だけじゃなく、うちの部下もそわそわしている。いろいろ大変だったよ。何と言っても、龍に頭がないとだめだからね」


存在感の強い二人の高齢者の前に会場に入ったものの、音もなく着席した男がいる。

その男の名は「東山揺とおやまよう」。垂れ目に肉の厚い顔、そして、あまり開かない薄い唇。

七人の中で最後に入職した龍頭のせいか、大体な場面で発言を控えている。

ある意味、落合よりも陰気なキャラだ。


「大宇さんは戻ってきたら、今日のいいことは三つに増えますね。ねぇ、ヤナギ様?」

六人が揃ったところで、シャングリは笑ってヤナギ様に話しをかけた。

ヤナギ様はただ「うん」とうなずいて、一応賛同を示した。

それを聞いた落合は冷ややかな口調で会話に入った。

「四つじゃないのか?」

そう言いながら落合はリカに目線を投げた。

「うちの継承人は任務を完成する同時に、継承人の地位も固めました。首席後継者のことに悩む必要はもうありません」

リカの眉が小さく動いたが、そのまま落合と目線を合わせた。

先に目を避けるのは落合。彼は視線先をマサルに移した。

「継承人の問題の解決、希有人材の確保、『ガイアリング』の完成、それに、首席龍頭の復帰、四つのいいことで間違いはありませんよ」

マサルは落合の合図を受け取って、愛想よく微笑んでその話に続いた。

「僕の仕事が錦上に花を添えることになり、とても嬉しく思います。これも、すべては皆様のおかげです」

「謙遜しなくていい。こんなに早く『ガイアリング』のような複雑な施設を完成できるのは、マサルくんとマサルくんが率いるチームのみんなが一生懸命努力した結果だ」

称賛する笑顔だが、落合の顔から浮かび上がると、どうも気味悪かった。

「そうだ。報告によれば、エンジェの意見は大きく働いたな。確かに、彼女はできる子だ。彼女にマサルくんの次のハイスコアをつけることになった。これでマサルくんは継承人ランキングで4位、エンジェは7位まで登る。お二人はこれからも協力して、家のために尽力することを期待しているぞ」

落合の話を聞いて、ヤナギ様と王さんの表情が少し引き締まった。

マサルは名義上で天童大宇の孫。天童大宇の力があったからこそ、今日の地位に上った。正式な婚約はないが、彼がリカの婚約者で、将来の夫であるのは、周知のことだ。

一方、エンジェはリカの親友。リカのおかげでいつも美味しいスコアを手に入れていた。

リカの任務が失敗した件に関して、この二人が一枚を噛んでいるのは、みんなも知っている。

深く追い詰めなかったのは、彼たちは七龍頭と直につながっているから。

天童大宇が倒れた後、上層部の情勢は微妙に不安定になっている。そんな中で、各派閥のバランスを破壊するのは家の利益につながらない。

なのに、落合はリカの前でマサルとエンジェの「協力」を誉めた。

これはリカ、そしてリカの後ろの天童大宇の顔に泥を塗るようなことだ。

もしこの時に天童大宇が現れれば、落合でもまずいだろう。

「ふふ、若者ですから、まだまだ伸びると思いますよ。私たちは全力で応援するから、みんな頑張ってね」

シャングリは朗らかに笑って、雰囲気をほぐした。

「もうこんな時間だ。大宇さんはまだなのか?場所を間違っていないよね?誰か、確認してくれ」

王さんは屋上エレベーターの方向を見ながら、従者を招こうとしたら、エレベーターの扉が開かれた。

一人の従者はエレベーターから小走りで出て、七龍頭のテーブルの前で報告をした。

「先ほど連絡がありまして、大宇様の車椅子に不具合があって、今日の出席はお見送りになりました」

報告を聞いた全員の顔色が複雑になった。

短い間隔を置いたら、落合だけが不気味な薄笑いをした。

「これは、残念ですね。四つのいいことは三つになりました。シャングリさんのほうが正しかったんですね」

「落合さん、お時間になりましたので……」

雰囲気がまたまずくなったのを嗅いだ東山は、最初の一声を発した。


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