目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

64 鈍痛

この情報は驚いたものだ。

リカは推薦評価のことについて一言も言わなかった。

しかも、高評価だと?

あのマイナス数十万まで減点されたCEO評価を見るかぎり、「小学中退で四字熟語を使える」以外に書かれそうなことはどうしても想像できない。

「その評価、何が書いた?」

イズルの好奇心が湧いてきたが、今回はあかりがもったいぶりした。

「それは家の秘密情報です!もっと賄賂をくれないと教えてあげられないよ!」

「……」

ここで待っているのか、この小悪魔……

あかりに嵌められたと気づいて、イズルはむかつくと思った。それでも仕方がないと心の中でため息をついた。

ポットを持ってきて、自分にお茶を注いだ。

「じゃあ、どんな賄賂がほしい?」

「まず、この質問を答えてください」

「どうぞ」

「お兄ちゃんは――お姉ちゃんのことが好きじゃない?」

「!」

お茶で気持ちを回復しょうとするイズルだったが、その質問を聞いたらカップを持つ手が震えた。


カップと皿がぶつかって、チャリンと小さな音がした。

イズルは急いで手を抑えて、カップを口元に運んだ。

ゆっくりと一口を飲んでから、平静そうな顔で聞き返した。

「そんなこと、何が根拠で言ったの?」

「ほら、否定しないのね」

「!」

決める証拠でも掴んだように、あかりはイズルに指さした。


イズルの悔しさがまた一段上がった。

12歳の子供に問題発言を掴まれた……!

「祭りの日からそうかもと思っていたの。お兄ちゃんはお姉ちゃんにとても気を使ってるし、お姉ちゃんの顔色を伺って行動するような感じでした」

「それは、わたしのCEO評価が彼女に握られたから、知らないのか?」

「知っているよ、あのマイナス何百万の奴でしょ?」 

(もう何百万突破か……)

「でも点数のためだったら、大人しく媚びを売ればいいでしょ。下手に逆らうと余計に嫌われちゃうし。なのに、お兄ちゃんはわざと反抗的な態度を見せて、あたしの話からお姉ちゃんのことを探ろうとした。なんというか……愛情による逆恨みみたいな行動、だと思います!」

「万代家は子供に何を教えている……」

「後は、電気スクーターで離れる時も、お姉ちゃんに自分の能力を証明しようとしてた……気持ちが答えられなくて、つい切れたって感じでした!」

「あれは、工場のことで……」

目がキラキラして、次のボロを待っているあかりの表情を見たら。イズルは弁解をあきらめた。

もういい。

リカを攻略しようとしたのは本当のことだ……

でも、「恋人になる提案」がリカに断られた以上、その道はもうない。

今のリカは、協力契約を交わしたパートナーだ。

復讐相手から協力相手になるまでの過程は二転三転で、リカへの見方もゴロゴロ変わっていた。

リカの言動を理解できなくて、混乱したこともあったから、余計に気になったのも当然だ……

人生経験不足の子供が、その混乱を恋の始まりに勘違いしただけだ。


そういえば、このあかりという子は、自ら自分に連絡を取って、変なことを聞いて、一体なにをしたい?

まさか、リカに言われて、自分を試しに来たのか?

いいえ、そんなことはリカらしくない。

あるいは、リカのために勝手に自分を試しに来たのか?

あり得る。

どの道、あかりは自分の態度をリカに伝える可能性が高い。

なら、リカに好意があると認めたほうが、協力関係に有利だ……


「リカ、お姉さんはオレのことが好きになると思う?」

いろいろ考えたあげく、イズルは曖昧な言い方で聞き返した。

「少なくても、嫌いじゃないと思います。お姉ちゃんは、嫌いな人や認めない人に会話もあまりしないの」

「……そうか。オレとの会話も公式的なものが多いと思うけど。それに、彼女はオレのことを本気に馬鹿だと思っているらしい」

「それはないと思います。推薦評価に、頭の反応が早く、ズル賢く、怜悧狡猾とか書かれているから」

「やっぱり低評価じゃないか……人柄的に……」

「ぷっ……」

あかりは笑い出したら、手が滑ってカップを落とした。

紅茶が机とあかりの服にこぼれた。

「ご、ごめんなさい!!」

あかりは慌ててティッシュと出して、机を拭こうとしたが、イズルが先に机を拭いた。

「机は大丈夫、洋服を拭いて」

「あっ、はい……」

あかりはティッシュで服に着けたお茶を吸い取ったけど、水の跡がはっきり残されている。

「……お姉ちゃんは予備の服を持っていると思います。着かえてきます!」

「……」

イズルは疑わしい視線であかりを見送った。

この天使の顔をしている小悪魔、また何か企んでいるのか……

リカはともかく、子供にも抑えられているとはどういうことだ……

大人なげないのを知っていても、やはりむかつく。

イズルはお塩のツボからたっぷり1さじを掬って、あかりのカップに入れた。

それから紅茶を注いで、ゆっくりと溶かせる——


密かに小悪魔の渋い顔に期待したら、冷たい何かが首元に置かれた。

「何を入れたの?」

冷たい質問声と共に。

この14階の鍵を持っているのは自分とリカ二人だけ。

それに、この声を聴き間違えるはずがない。

イズルは振り向かずに、軽々しい口調で答えた。

「小さないたずらです」

「いたずらだけなの?」

後ろの人――リカの声は更に冷たくなった。

「あかりは以前どんな事に遭ったのか、教えたことがあるよね。たとえいたずらでも、彼女を傷付ける可能性がある行動は、私が許さない」

「なら、その前に、『よく知らない人の家でお茶を飲んじゃだめ』と彼女自身に教えるべきだと思いますよ」

イズルは首元のサーブルを摘んで外そうとしたが、リカは剣の位置を維持した。

「どこへ行くのはあかりの自由。私にはそれを干渉する権力がない」

「だから、オレを干渉するのか?」

リカの話はイズルのイライラの気持ちに火をつけた。

イズルは鼻で笑った。

「お前が剣を抜くのを始めてみたな。こんなちっぽけなことのために、大げさと思わない?オレはあんなガキに何かをすると本気に思っているのか?」

こんなことで疑われたとは……

自分はどのほど信用されていないんだ。

イズルはプライドも人格も侮辱された気がした。

「大げさではない。どんな小さな悪事でも、大きいな悪事の糧になる。今のあなたはあかりを傷付けなくても、これからの保証がない。人間は変わるもの。特に、万代家に入った人間の変わりはもっと早い。これは今後のための警告だ」

「……」

警告?

こんなちっぽけなことで、自分を警告する?

イズルは滑稽と思った。

リカではなく、彼自身だ。

さっきまで、リカは復讐の相手ではなく、自分と同じ被害者かもしれないと思って、本気でよい協力関係を築こうと考えていた。

なのに、リカは最初から自分を見ていないようだ。

自分は花畑脳の好青年であろうと、莫大な資源と勢力を持つ本物のCEOであろうと、彼女の眼中に入らない。

どんなに好意を示しても、その石頭にとって、ただの「外部者」、あかりのような信頼できる相手にならない……

熱く燃え始める憂鬱が鈍い痛みとなって胸を走った。


「お姉ちゃん!」

空気が微妙になったところ、あかりは着替えを済んで戻ってきた。

「用事はもう済んだの?しばらく家で過ごすんじゃなかった?あっ、これ、つけているのね!」

リカがカバンにつけているヒヨコのストラップを見たら、あかりは嬉しかった。

「ちょっと忘れものがあって、取りに来たの」

リカはさりげなくサーブルをカバンに収まった。

それから暗い顔色のイズルに構わず、自分の部屋に向かった。


あかりのことだから、異様な空気にもう気づいている。

あかりは本物の小動物にようにおどおどと座って、紅茶を一口飲んだ。

「!!」

思いもしなかった味に渋い顔になった。

「み、水っ!」

期待していた結果だけど、イズルはもうそれを楽しむ気分じゃない。

漠然とあかりに方向を示した。

「キッチンにある」


リカはすぐ部屋から出てきた。

無言のイズルの前にきて、手を開ける。

「……!」

リカの掌にあるものを見て、イズルは目を張った。

少し戸惑ったけど、リカの意味を読み取って、リカの掌から契約締結用の勾玉を取った。

「七龍頭との対面は決まった。遅刻しないように」

それだけを言い残して、リカはマンションを去った。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?