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63 可愛いお客さん

リカは分かっている。

イズルは自分と利益交換をするためにずっとアピールしていた。

でも、異世界の件以外に彼に望むものはないから、相手にしなかった。

今更「あなたの力が必要です、協力してください」

と頼んだら、彼はどんな反応をする?

大喜んで承諾してくれるのか、それともドヤ顔して、もっと要求を出すのか……

断る可能性もなくはないが、確率が低いでしょう。


イズルは復讐のために、自分からの助力を望んでいる。

彼は扱いにくい人だけど、足を引っ張ることをしない。それどころか、今まで何回も助けてくれた。

エンジェの誘惑や危険な状況を目の前にしても、「契約相手」の自分を裏切らなかった。

目先の利益で仲間を売れるような人たちとは違う。

なら、少なくとも、手を組んでいる間に彼を信用すべきだ。

彼を家族権力闘争に巻き込むのが不本意だが、自分の推薦で家に入る時点で、彼はすでに敵たちの標的になった。


自分の要求に答えるかどうか、やはり彼本人に任せよう。


リカはゆず香りのお風呂に入ってから、布団に潜り込んだ。

父と母はいつも海外長期出張の仕事をしている。多忙な祖父も滅多に来ない。

たまにあかりを連れてくるけど、今日のあかりは友達と約束があると言って、残念そうにリカの誘いを断った。

以前、エンジェやたちをよく家に招待していたのも、家の寂しい空気に飽きたのかもしれない。


これからのことを考えて、なかなか眠れない。

リカは思わずぬいぐるみの催眠羊に手を伸ばした。

何も掴めなかったら、やっと思い出した。

羊はイズルのマンションに残された。

うっかりだった……

でも、イズルのことだから、女子の私物を探るようなことをしないでしょう。

一度近距離で彼に見せたこともあるし、ぬいぐるみなんかに余計な興味を持たないはず。

「……!」

いきなり、リカの神経は何かに刺されたように、ベッドから身を起こした。

机の片隅に置いてある、ヒヨコのぬいぐるみのストラップが目に入った。

このストラップは長期出張の前に、あかりからもらったもの。拳サイズのふわふわしたぬいぐるみだ。

いつも身に着けていたけど、万が一異世界で失くしたら惜しいと思って、家に置いていた。

外の部屋に引っ越しする当初、家でこのストラップを見つからなかった。間違って洗濯に出されたのかと思って、家政婦に探すように頼んだ。

今そこにいるのは、家政婦が見つけてくれたのか……?

リカはヒヨコを手にして、ゆっくりと触ってみた。

「?!」


やはり、柔らかい綿の中に、小さな塊があった。

(しまった……!ここまで布石したとは……)

さっきの電話、もし聞かれたら、自分が「法陣」を破壊しようとすることがバレる。

何とかしないと……!


*********

翌日の朝、イズルのマンションに可愛い客人が訪れた。

「お邪魔しま~す!」

コアラのパーカーを身に纏っているあかりは天使のような笑顔でイズルに挨拶をした。

イズルはも微笑みであかりを迎えた。

リカが動物園で買ったお土産はこの子へのものか。

確かに、外見は文句一つもつけられない天使だけど、中身はどうだろね――


「すてきなお家ですね!きれいでおっしゃれ、お姉ちゃんが好きそうな感じです!」

イズルは14階の部屋をざっくり案内した。

反応から見ると、あかりはここの環境をとても気に入ったみたい。

「好きだったら、あかりちゃんも来ていいよ」

「あたしはいいです。勉強も仕事も多くて、お姉ちゃんに迷惑をかけたくないです」

あかりは軽く頭を横に振った。

「でも安心しました。お姉ちゃんは気持ちよく過ごしていますね」

「それも分かる?」

「私物は普通に出してるし、お料理の材料も買ったし、安心に暮らしている証拠ですよ!」

「ここはわたしの家、料理の材料はわたしが買ったものかもしれないよ」

「それじゃ、二人が好きな調味料は同じってことよ、味覚がこれほど似っていて、仲が悪いわけがないでしょ?」

イズルは少々感服したけど、疑問も浮かび上がった。

今まで見たリカ以外の万代家の女子は、みんな口の達者。

何故リカだけが……

まさか、リカの言語能力は辛口コメントにしか発揮できないのか?


案内が終わったら、イズルはあかりに万代家のマイページをチェックしてもらった。

もちろん、ただ働きではない。

作業用の大きな机にすでにドリンク、デザート、おつまみなどがいっぱい用意されてある。

でも、あかりはチェックが終わるまで、食べ物に手を出さなかった。

「これでOKです~提出してください」

作業が終わったら、あかりはほっとして、一番鮮やかなイチゴケーキに手を伸ばした。

「お疲れ。昼ご飯は何がいい?」

「お昼はいいですよ。こんなにたくさんあるのに!」

食欲を我慢していたのか、あかりは一口で半分のケーキを呑んだ。

「うぅ!げっ……」

でも急ぎすぎで、のどに詰まった。

それを見たイズルはさっそく紅茶を差し出した。

「ふう……ありがとう、失礼しちゃった……」

あかりは紅茶を飲んで、胸を撫でながら恥ずかしそうに笑った。

「大丈夫、ゆっくり食べてね。食べ物は逃げないから、全部食べていいよ」

「そうですね、ゆっくり話しながら食べましょう」

イズルは親切な兄の笑顔を見せたら、あかりは小悪魔のような笑顔を返した。

「雑事も終わったし、お兄ちゃんは何を話したいの?」

(この子、もう知ったのね……)

いくらリカの妹でも、ズル過ぎる子があんまり好きじゃない。

イズルはわざともったいぶりをした。

「雑談でいい。万代家に入ったばかりだから、家の生態についていろいろ聞きたい。あなたのお姉ちゃんはああだし、あなたに頼るしかない」

「そうか。てっきり中学生活だと思ったの」

さりげなくそう言って、あかりはモンブランに手を伸ばした。

「中学生活?」

「お兄ちゃんは小学中退でしょ、だから中学生活に興味があると思って」

「……」

イズルは心の中の何かが折れた音を聞いた。

小学中退のこと……リカが教えたのか?

「実は、お兄ちゃんの入族資料はあたしが入力したの。プライベートのこともいろいろ知ってしまった。仕事ですから、悪く思わないでくださいね。ほかの人には秘密厳守です!」

イズルの考えを読み取れたように、あかりはすぐに補足した。

「あなたが入力した?」

イズルはちょっと意外だった。

「お姉ちゃんはほかのエンジニアが信用できないって」

「なるほど……」

「ところで、お兄ちゃんはお金持ちでしょ?どうして学校をやめたの?」

「……」

学校をやめた理由にあまり触れたくないけど、あかりから情報を聞くために、彼女の好奇心を適当に満足させなければならないとイズルは考えた。

「反抗期でしたから」

簡単だけど、嘘ではない。


あの時、学校は子供たちに平和だの友愛だの善良だの……モラル教育をしていた。

だが、偶然にもイズルは家の裏商売を知った。

反抗期はほかの子よりも早かった彼は、不良になっても家業を継げないと家族に拗ねていた。

それから不登校になり、毎日遊ぶばかり。

やむを得ず、両親は家庭教師を雇って、強制的に家で授業を受けさせた。

数年後、イズルは家族と和解したけど、裏商売のことを依然として認めなかった。

サバイバルゲームに夢中になって、家の仕事をしない理由も、半分そこにある。

皮肉なのは、今となって、その裏商売は復讐に必要な道具となった。

「反抗的か……これは評価に書かれていないね」

あかりは考え顔をしてつぶやいた。

「なんの評価?」

「お姉ちゃんが書いたお兄ちゃんの入族推薦の評価です!知りたくない?」

「そんなものあったのか……いや、いいです。言われなくても想像できるから」

イズルの顔色がいきなり暗くなったのを見て、あかりは不思議そうに目をぱちぱちした。

「えっ?何を想像したの?悪いことは一つも書いていないよ!」

今回はイズルが不思議そうに聞き返した。

「悪口がない?まさか」

「入族推薦用の評価だから、いいことを書くのに決まってるよ!あたしが見た推薦評価のなかで、お兄ちゃんみたいな高評価をもらった人はほかにいないの!」

「!」


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