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85 令嬢らしき交渉

一階はテロリストたちに制圧されたが、二階以上にいる人達はどんどんデパートの奥へ退避していく。

リカとマサルは逃げも隠れもせずに、二階の天井で下の状況を見ている。

「アカシャ天使教?聞いたことはある?」

記憶の中に存在しない組織名なので、リカはマサルに聞いてみた。

意外に、マサルは何か知っているようで、小さい声でリカに返答した。

「アカシックレコードを知っている?」

「この世のすべての情報を保存している、宇宙サーバーのようなものだと言われている、でしょ?」

異能力の関連知識として、リカは家の授業でその概念を勉強したことがある。

「ああ、一部の人はそれの存在を強く信じている。そのアカシャ天使教はアカシックレコードの信者たちが立ち上げた新興宗教団体だ。そして、この世には、前世や生まれてくる前の記憶を持つ人がいる。アカシャ天使教はそのような人を天使だと信じていて、彼たちに導きを求めている。天使たちの力で、自分のアカシックレコードを開放し、記憶を持つ状態で転生する。そんなことによって、精神の永遠不滅を手に入れられると信じている」

「じゃあ、人間に盗まれた『アカシャシードって』、どういうこと?」

「そこまでは……」

マサルは残念そうに頭を横に振った。

「……」

リカも更に問い詰めなかった。

いろいろ怪しいだけど、彼たちの背景を究明する場合じゃない。まず奇愛を助けないと。

そう思うと、リカは一歩を出て、はっきりとした声でテロリストたちに話かけた。


「あなたたちの条件を飲んだ。まず銃をおろして、どこかでゆっくり話しましょう」

「リカ、何を……」

マサルの阻止はもう遅れだ。

一階のテロリストたちはリカを見上げて、意外な表情になった。

「お前、なにもの?お前が飲んだって、何ができるというの?!」

「アカシャ天使教だよね。あなたたちの組織の歴史はまだ長くないでしょ。裏社会の勢力図も知らないの?」

「!!」

「過去の『天国ヘブン』、今の『新世界』、『万代家』、『五帝ごてい家族』など実力を持つ暗黒組織は、どれも国々の権力者と繋がりを持つ。人探しのようなちっぽけなことなら、協力者たちに一声をかければいい。あなたたちはそのような資源を持っていないから、低レベルのテロ行為で交渉するしかないじゃない?」

「クソッ、舐めやがって!!」

テロリストたちに反論の時間も与えず、リカは続けた。

「私は万代家七代目継承順位一位の継承者、あなたたちと交渉できる資源を十分持っていると思うよ」

「!!」

リカの自己紹介を聞いたら、テロリストたちはまず驚いた。

そして、コソコソ議論し始める。

「おいおい、聞いていねぇぞ……?本物か?」

「し、知るもんか!」


マサルは三人の動きを観察したら、ふっと何か気づいた。

「リカ、違うんだ。彼たちはおそらく……」

マサルの話はまだ終わっていないうちに、リカはカバンから何かを出して、思いきりテロリストたちの近くの壁に投げた。

ゴロンと響いた轟音と共に、一面の壁は粉々になって、砕けた石屑が三人に降りかかる。

「!!?」

「な、なにをする?!こっちには人質がいるぞ!!」

拳銃男は奇愛の頸を締めて、リカに脅かした。

リカは顔色も変えず話を続けた。

「力の差を見せつけただけだ。私の話を断ったら、あなたたちを粉々にする」

「クソ!!このデパートにいる人たちはどうなってもいいのか!!」

爆弾男は急いで箱を抑えた。

「このデパートと共に滅んで、社会に圧力をかける。それはあなたたちの所望じゃない?代わってやってもいいから、感謝しなさい」

リカは冷たい目で男たちを見下ろす。

「ち、違う!共に滅びるなんて言ってねぇ!!」

その一言で、リカは三人の度胸を知った。

「どうせ、警察がきたらあなたたちは射殺される、変わりはない」

リカは有無言わせずまた爆弾を投げ出した。今回、デパートの埋められた入り口の上に、大きな穴があけられた。

「バ、バカな……一体どうなってるんだ!」

拳銃男は少し動揺したが、すぐに奇愛が手の中にいることを思い出した。

「こいつを見ろ――!!もう一度やったら、こいつは命が……」

拳銃男は奇愛を交渉材料にしようとすると、一筋の銀色の光が彼の頸に刺した。

「ぎゃああああ!!!」

男の悲痛な叫びはほかのすべての負傷者の喚きを凌いだ。

解放された奇愛は身を翻し、肘を男の顎にぶつかり、男を撃ち倒した。

それはまだ終わりではない。奇愛の手から、また銀色の光が煌めいた。今度は、男が拳銃を持っている掌に刺した。

頸と掌、二つの穴から鮮血が噴出する男はもう立ち上がらない。

奇愛は武器として使った簪を納めて、男が落とした拳銃を拾って、男の額に突き出す。

「この簪、軌跡兄ちゃんからくれた大切なものだから、とっても高いよ!」

奇愛は悪魔あのように笑った。

「ち、ちくしょう……!!」

ライフル男は援助射撃を撃とうとしたら、駆け付けた軌跡の拳に倒された。

あっという間に、動けるテロリストは爆弾男だけになった。

「お、お前!万代家の人だろ?!なんなら、なぜこんなことを……!!」

爆弾男は箱を強く抑えながら、泣きそうな声でリカに訴えた。

その妙な言い方に、リカは異様に気付いた。でも、彼女が反応する前に、マサルは男に声を上げた。

「もういい!」

その声に、爆弾男の視線はマサルのほうに移した。

「リカ、『俺のこと』は、頼んだ」

リカにそう言ったら、マサルは爆弾男と視線を合わせた。

「ゲッ!!」

爆弾男はマサルに見つめられると、強い眩暈に襲われて、目の前が黒くなって、意識が抜けられた。

一方、マサルの目の焦点も消えた。体はマリオネットのように棒立ちになっている。

爆弾男の両目は金色の光に覆われて、すんなりと爆弾の箱を手放した。それからリモコンを開けて、電池をもぎ取って遠くへ投げ出し、足でリモコンをつぶした。

リモコンの処理が終わったら、男は両手を上げて降参ポーズを作って、ゆっくりとある警備員服装の男に向かった。

「拘束してくれ」

「!?」


警備員の男を含めた観客たちが戸惑ったが、リカはこうなったわけを知っている。

それはマサルの異能力――「侵入操作」。

マサルは 、彼自身の意識を他人の脳に侵入させて、一定時間で人を操縦することができる。

その副作用として、他人の脳に侵入する間に、彼自身は意識のない殻の状態になる。身を守る能力が全くなくなる。

だから、今までは、絶対的な安全保障がないと、彼はこの能力を使わないことにした。


三人のテロリストが全部縛られたら、マサルは自分の体に戻った。

「この件について、戻ったら詳しく話そう……」

マサルはリカの手首を引っ張って離れようとしたら、リカのカバンから地震警報のようなブーザーが鳴り始めた。

それは、採点スマホの緊急連絡の着信音だ。

リカはさっそく電話に出た。

電話の向こうからイズルの心配の声が届いた。


「……いるけど、大丈夫よ。ええ、ちょっとした事件があった……もう解決した。奇愛と軌跡もここにいる。軌跡はケガをして、奇愛は彼の手当てをしている」

リカは一階の状況を覗きながら、イズルにいろいろ答えた。

電話で助けを呼ぶ人もいるし、自ら負傷者を助ける人もいる。

出口は崩れた石に塞がれている。

危険物は他にもあるかもしれないので、外の救援を待つほうがいいとリカは思った。

でも、状況をイズルに伝えたら、イズルは別の場所を指名した。

「6階の飲茶カフェのテラスに?」


リカは言われた通りに6階のテラスに入ったら、さっそく頭の上から呼び声があった。

「こっちだ!」

「!?」

声の方向に見上げると、パラグライダーで空を飛んでいるイズルがいた。


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