一階はテロリストたちに制圧されたが、二階以上にいる人達はどんどんデパートの奥へ退避していく。
リカとマサルは逃げも隠れもせずに、二階の天井で下の状況を見ている。
「アカシャ天使教?聞いたことはある?」
記憶の中に存在しない組織名なので、リカはマサルに聞いてみた。
意外に、マサルは何か知っているようで、小さい声でリカに返答した。
「アカシックレコードを知っている?」
「この世のすべての情報を保存している、宇宙サーバーのようなものだと言われている、でしょ?」
異能力の関連知識として、リカは家の授業でその概念を勉強したことがある。
「ああ、一部の人はそれの存在を強く信じている。そのアカシャ天使教はアカシックレコードの信者たちが立ち上げた新興宗教団体だ。そして、この世には、前世や生まれてくる前の記憶を持つ人がいる。アカシャ天使教はそのような人を天使だと信じていて、彼たちに導きを求めている。天使たちの力で、自分のアカシックレコードを開放し、記憶を持つ状態で転生する。そんなことによって、精神の永遠不滅を手に入れられると信じている」
「じゃあ、人間に盗まれた『アカシャシードって』、どういうこと?」
「そこまでは……」
マサルは残念そうに頭を横に振った。
「……」
リカも更に問い詰めなかった。
いろいろ怪しいだけど、彼たちの背景を究明する場合じゃない。まず奇愛を助けないと。
そう思うと、リカは一歩を出て、はっきりとした声でテロリストたちに話かけた。
「あなたたちの条件を飲んだ。まず銃をおろして、どこかでゆっくり話しましょう」
「リカ、何を……」
マサルの阻止はもう遅れだ。
一階のテロリストたちはリカを見上げて、意外な表情になった。
「お前、なにもの?お前が飲んだって、何ができるというの?!」
「アカシャ天使教だよね。あなたたちの組織の歴史はまだ長くないでしょ。裏社会の勢力図も知らないの?」
「!!」
「過去の『
「クソッ、舐めやがって!!」
テロリストたちに反論の時間も与えず、リカは続けた。
「私は万代家七代目継承順位一位の継承者、あなたたちと交渉できる資源を十分持っていると思うよ」
「!!」
リカの自己紹介を聞いたら、テロリストたちはまず驚いた。
そして、コソコソ議論し始める。
「おいおい、聞いていねぇぞ……?本物か?」
「し、知るもんか!」
マサルは三人の動きを観察したら、ふっと何か気づいた。
「リカ、違うんだ。彼たちはおそらく……」
マサルの話はまだ終わっていないうちに、リカはカバンから何かを出して、思いきりテロリストたちの近くの壁に投げた。
ゴロンと響いた轟音と共に、一面の壁は粉々になって、砕けた石屑が三人に降りかかる。
「!!?」
「な、なにをする?!こっちには人質がいるぞ!!」
拳銃男は奇愛の頸を締めて、リカに脅かした。
リカは顔色も変えず話を続けた。
「力の差を見せつけただけだ。私の話を断ったら、あなたたちを粉々にする」
「クソ!!このデパートにいる人たちはどうなってもいいのか!!」
爆弾男は急いで箱を抑えた。
「このデパートと共に滅んで、社会に圧力をかける。それはあなたたちの所望じゃない?代わってやってもいいから、感謝しなさい」
リカは冷たい目で男たちを見下ろす。
「ち、違う!共に滅びるなんて言ってねぇ!!」
その一言で、リカは三人の度胸を知った。
「どうせ、警察がきたらあなたたちは射殺される、変わりはない」
リカは有無言わせずまた爆弾を投げ出した。今回、デパートの埋められた入り口の上に、大きな穴があけられた。
「バ、バカな……一体どうなってるんだ!」
拳銃男は少し動揺したが、すぐに奇愛が手の中にいることを思い出した。
「こいつを見ろ――!!もう一度やったら、こいつは命が……」
拳銃男は奇愛を交渉材料にしようとすると、一筋の銀色の光が彼の頸に刺した。
「ぎゃああああ!!!」
男の悲痛な叫びはほかのすべての負傷者の喚きを凌いだ。
解放された奇愛は身を翻し、肘を男の顎にぶつかり、男を撃ち倒した。
それはまだ終わりではない。奇愛の手から、また銀色の光が煌めいた。今度は、男が拳銃を持っている掌に刺した。
頸と掌、二つの穴から鮮血が噴出する男はもう立ち上がらない。
奇愛は武器として使った簪を納めて、男が落とした拳銃を拾って、男の額に突き出す。
「この簪、軌跡兄ちゃんからくれた大切なものだから、とっても高いよ!」
奇愛は悪魔あのように笑った。
「ち、ちくしょう……!!」
ライフル男は援助射撃を撃とうとしたら、駆け付けた軌跡の拳に倒された。
あっという間に、動けるテロリストは爆弾男だけになった。
「お、お前!万代家の人だろ?!なんなら、なぜこんなことを……!!」
爆弾男は箱を強く抑えながら、泣きそうな声でリカに訴えた。
その妙な言い方に、リカは異様に気付いた。でも、彼女が反応する前に、マサルは男に声を上げた。
「もういい!」
その声に、爆弾男の視線はマサルのほうに移した。
「リカ、『俺のこと』は、頼んだ」
リカにそう言ったら、マサルは爆弾男と視線を合わせた。
「ゲッ!!」
爆弾男はマサルに見つめられると、強い眩暈に襲われて、目の前が黒くなって、意識が抜けられた。
一方、マサルの目の焦点も消えた。体はマリオネットのように棒立ちになっている。
爆弾男の両目は金色の光に覆われて、すんなりと爆弾の箱を手放した。それからリモコンを開けて、電池をもぎ取って遠くへ投げ出し、足でリモコンをつぶした。
リモコンの処理が終わったら、男は両手を上げて降参ポーズを作って、ゆっくりとある警備員服装の男に向かった。
「拘束してくれ」
「!?」
警備員の男を含めた観客たちが戸惑ったが、リカはこうなったわけを知っている。
それはマサルの異能力――「侵入操作」。
マサルは 、彼自身の意識を他人の脳に侵入させて、一定時間で人を操縦することができる。
その副作用として、他人の脳に侵入する間に、彼自身は意識のない殻の状態になる。身を守る能力が全くなくなる。
だから、今までは、絶対的な安全保障がないと、彼はこの能力を使わないことにした。
三人のテロリストが全部縛られたら、マサルは自分の体に戻った。
「この件について、戻ったら詳しく話そう……」
マサルはリカの手首を引っ張って離れようとしたら、リカのカバンから地震警報のようなブーザーが鳴り始めた。
それは、採点スマホの緊急連絡の着信音だ。
リカはさっそく電話に出た。
電話の向こうからイズルの心配の声が届いた。
「……いるけど、大丈夫よ。ええ、ちょっとした事件があった……もう解決した。奇愛と軌跡もここにいる。軌跡はケガをして、奇愛は彼の手当てをしている」
リカは一階の状況を覗きながら、イズルにいろいろ答えた。
電話で助けを呼ぶ人もいるし、自ら負傷者を助ける人もいる。
出口は崩れた石に塞がれている。
危険物は他にもあるかもしれないので、外の救援を待つほうがいいとリカは思った。
でも、状況をイズルに伝えたら、イズルは別の場所を指名した。
「6階の飲茶カフェのテラスに?」
リカは言われた通りに6階のテラスに入ったら、さっそく頭の上から呼び声があった。
「こっちだ!」
「!?」
声の方向に見上げると、パラグライダーで空を飛んでいるイズルがいた。