翌日の朝、マサルはイズルのマンションを立ち去った。
離れる前に、リカと約束をした――これから二人は一緒に引退した万代家の異能力者たちを訪問し、助けを求めに行く。
まもなく、リカはマサルからの連絡を受けた。とある長老級の異能力者は協力を承諾したそうだ。
11月11日の夜に二人でその人の家を訪問しようとマサルはリカを誘った。
その日、奇愛のデート日だけではなく、イズルの会社の株主会の日でもある。
リカは知っている。小さな偶然に見えても、故意の可能性が高い。
マサルは何か目的をもって、わざとその日を選んだのだろう。
それでもせっかくのチャンスを無駄にしたくない、リカはリスクを理解した上でその誘いに乗った。
二人の待ち合わせ場所は
イルミネーションショーがやっているところだ。
冬の昼間は短い。17時が過ぎると、もうすっかり暗くなった。
リカが駅前に到着する時、イルミネーションがすでに点灯している。
無数の色とりどりのライトは、広場をロマンチックな星の泉にした。
冷たい風の中で見物やデートしに来る人は絶えない。
広場に入って、リカはすぐマサルを見つけた。
マサルは長い黒色のコートを身に纏い、首に灰色と白い格子のマフラーが巻いて、ピンクのイルミネーションに装飾されたクリスマスツリーの前に立っている。
リカを見ると、「来てくれてよかった」と言わんばかりに、ほっとした笑顔を見せた。
「お待たせしました」
「いいえ、来たばかりだ。晩御飯は?」
マサルはゆっくりペースで聞いた。
「もう食べた。行きましょう」
「このままじゃ行けないよ。梅子さんはかつて七龍頭に列席したお方だ。礼を欠けてはいけない。手土産を用意しよう」
マサルはすぐ出発しようとするリカを止めて、デパートのほうに指した。
「知っている。
リカは自分が背負っているカバンを一目見た。
マサルは少し驚く。
「お前はそういうことに気を配らないと思ってた……失念したのは俺のほうか」
マサルは苦笑した。
「でも、それはリカが用意したお礼だろ。俺も自分の分を用意しないと礼儀にならないから、ちょっと付き合ってくれない?」
「……」
社交的で人情に長けているマサルはお礼を用意していないなんて、絶対おかしい。
そう思っていても、彼の企みがまだ見えない。リカはとりあえずその提案にうなずいた。
マサルはさっそくデパートのほうに歩み出したが、何歩を歩くと、何か気づいたように、スピードを落として、リカの歩幅に合わせた。
そして体勢をリカに傾けて、優しく微笑んだ。
「そういえば、お前はイルミネーションショーが好きだと言ったね。以前、SNSにも写真を載せただろ?俺もここが結構好きだけど、年末はいつも仕事いっぱいで、いままで一緒に来たことがない。本当に残念だった」
「……」
リカは黙ったまま残念そうに笑っているマサルを静かに観察した。
先日まで牙を剥いて、自分を攻撃しようとする恨みのある野良犬なのに、いきなり口調が変わって、まるで別人となった。
仲間助けを言い訳にして、彼は一体何を企んでいるの?
目標は自分?それともイズル……
「軌跡兄ちゃん!あれ!リカ姉ちゃんじゃない!」
リカとマサルが広場を歩くところは、マシュマロンのお店の前で並んでいる奇愛に目撃された。
奇愛は隣の軌跡を引っ張って、リカたちに指さした。
「あっ、確かに、リカさんと……ん?隣にいるのは、隊長じゃないな」
「デートしてるでしょ!あたしたちみたいに!」
奇愛は軌跡の腕をぎゅっと抱きしめた。
「デート……っ?!」
軌跡はビシッと腰を伸ばして、リカのほうをじっと見つめた。
「いけない!デートはいけないんだ!」
鈍い軌跡のことだけど、なぜかひらめいた。
「なんで?なんでいけないの?あたしたち、デートしてるんじゃない?!」
奇愛はびっくりした。
「リカさんは隊長の好きな人だ!不埒な男に取られてはいけない!」
そう言いながら軌跡は二人を追いかけ始めた。
「ええ?!なんで不埒な男だと分かるの?!」
もちろん、奇愛はついて行った。
「道がこんなにも広いのに、あの男はわざとリカさんに貼り付けているように見える」
「あたしだって軌跡兄ちゃんに貼り付けているのよ!」
「向こうの通行人がまだかなり離れているのに、あの男はわざとリカさんの腕を引っ張って、二人の距離をさらに縮めようとしている」
「あたしだって軌跡兄ちゃんの腕を掴んで、距離を縮めようとしているのよ!」
「だから、あいつはリカさんに変な企みを持つ不埒な男だ!」
「だとしたら、あたしだって軌跡兄ちゃんに変な企みを持っている……って、違う!あたし、不埒な女じゃないわ!」
噛み合わない会話をしながら、二人はリカとマサルを尾行し、デパートに入った。
もうすぐクリスマスの日、デパートの中はもうクリスマス雰囲気が溢れている。
サンタクロースの服を着ている人たちはデパートの入り口で来客と通行人たちに手を振っている。
とあるプレゼントの展示棚を通る時に、マサルは突然に足を止めて、トナカイのぬいぐるみを持ち上げた。
「まさか、それを梅子さんに?!」
リカは驚いた。
マサルは優しく微笑んで、そのトナカイの鼻をリカの鼻に軽く押し付けた。
「違う。リカはこういうものが好きだろ?」
「……」
リカは手で鼻先を拭いた。
「好きだけど、家にはもうたくさんある。早く梅子さんの手土産を買いに行こう」
(やっぱり、おかしい。本当にあのマサルなの?)
マサルの不自然な行動を見て、リカの疑いが更に深まった。
こっそりマサルを観察すると、彼の目の色が本来の茶色ではなく、ピンクになっていることに気づいた。
?!
先ほど広場でピンクのライトを浴びていたから、気づかなかった。
「コンタクトをしているの……?」
リカは思わずつぶやいた。
「いいえ。してないよ。リカはコンタクトが嫌いだろ?」
でも次の瞬間、マサルの目は普通の茶色に戻った。
「……」
「確かに、ここから入ったな……どこに?」
軌跡と奇愛はリカたちを追ってデパートに入った。
「もう、リカさんたちに構わないでよ!なんでイズルの奴のためにこんなことをしなければならないの!」
奇愛は軌跡を連れ出そうとしたが、軌跡はリカたちを見つけた。
「いた!二階にいる!」
軌跡は奇愛に振り返ると、電光が迸るような音が耳に入った。
「——!!」
軌跡はたちまち反応し、奇愛を胸に囲んで、自分の背中をその音の方向に向けた。
瞬く間に、デパートの扉が爆発した。
砕石と煙が大きく飛ばされ、デパートのなかで盛大な悲鳴があげられた。
デパートの扉はボロ石の塊となり、出口を塞げた。
幸い、爆発の規模が大きくない。埋められた人はいなかった。逃げ遅れた人はいるが、重傷者がでなかった。
まだ行動できる人々はあちこち逃げ始め、デパート内が混乱に落ちた。
「……っぐ!」
軌跡は痛みを耐える声を出した。
「軌跡兄ちゃん!!」
「……すり傷だ。大丈夫。とにかく、ここを離れよう!」
軌跡は息を吐いて、奇愛の手を引いてデパートの奥に入ろうとした。
「う、うん……えっ?!」
だが、奇愛が軌跡の背中を見ると、思わず足を止めた。
軌跡の背中の服がほぼ黒く焼けた。
その時、大きな叫びがデパートの中で響いた。
「うごくな――!!!」
サンタクロースの服を着ている三人の男は爆発した扉の前に立った。
一人はプレゼントの袋からライフルを取り出して、天井のライトに向かって数発を撃った。
もう一人はプレゼントの袋から黒い金属の箱を出して、三人の前に置いた。
最後の一人は拳銃を持って、逃げ遅れた従業員の足を撃った。
「ぎゃあああ――!!」
従業員は悲鳴を上げた。
「すべての出口はこのざまだ!逃げる奴がいたら、こいつで、このデパートごとに吹き飛ばすぞ!」
拳銃男は銃で黒い箱を指した。
どうやら、箱の中身は威力の強い爆弾のようだ。
突然すぎるできことに、ただ震えている人もいるし、反応早く警察に電話をかける人もいた。
三人の男は警察への電話を止めず、逆に大声で騒いだ。
「そうだ!警察を呼べ!テレビもな!みんなに告げろ!」
「俺たちはアカシャ天使教の教徒だ!汚い人間に盗まれた聖嬰(アカシャシード)を迎えに来たんだ!警察やメディアに知らせろ!政府や全社会を動かせ!俺たちの聖嬰を見つけ出せ!!」
そう言い放つと、拳銃男は先ほど撃たれた従業員を人質に取った。
だが、従業員は足がケガしたせいで立てられない。ただ泣き声をあげて、助けを求めた。
「バ―――カ!!」
突然に、奇愛は三人の男に向かって大声で叫んだ。
「!?」
「政府を動かせたいなら、政府を襲撃したほうが早いでしょ!警察に知らせたいなら、警察を襲い行け!普通のデパートで普通の民衆を脅かすなんて、どこのバカが考えた計画なのよ!カス!クズ!臆病者!」
「奇愛……」
軌跡が止めようとしたが、背中の傷で一瞬遅れた。
奇愛はすでに拳銃男に向かった。
「あたしの軌跡兄ちゃんを傷付けた代償、今すぐ払ってもらうわ!」
「……」
その意外な行動に、拳銃男は少し戸惑った。
奇愛は男の拳銃を見たら、眉をひそめた。
「ん?その拳銃は何なのよ?何年前の型番じゃない?そんなもの、うちのワンちゃんのおもちゃにもならないわ。ダッサ、テロをやるなら、せめて去年のものを持って来いよ」
「なんだと?!この小娘が!!」
奇愛の鑑定に刺激された拳銃男は従業員を捨てて、奇愛の頸を締めた。
「奇愛を放せ!!」
軌跡は奇愛を救い出そうと駆け出したが、ライフル男の射撃に止められた。
一方、拳銃男は銃を奇愛のこめかみに突く。
「っく!!」
奇愛を人質に取られた軌跡は行動できなくなった。