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88 天国の聖嬰

梅子が住んでいる一戸建ての庭で、ボディーガードのような二人の男が待ち構えている。

マサルは二人に名前を乗ったら、二人がマサルとリカを通した。

リビングの中で、灰色のロングセーターとベージュ色の羽織を身に纏う50代の婦人が、盆栽の手入れをしている。

「梅子さん。初めまして、僕はこの間に梅子さん連絡したマサルというものです。この度、御対面を許していただいて、誠にありがとうございます」

マサルは一礼をして、自己紹介をした。

梅子は身を翻して、マサルとリカに穏やかな微笑みを見せた。

「あなたとやり取りをしたのはわたしの『秘書』よ。対面を許したのもわたしじゃなく、上の人。でも、来てくれてうれしいわ」

(ここまで監視されているのか……)

梅子の境遇が気になるが、リカは多く言わずに、お土産を渡しに前に出た。

「ささやかなものですが……」

梅子は暖かい笑顔でリカを迎えた。

「リカちゃん、お久しぶり。大きくなったのね。最後にあなたを見たのは、あなたが学校に来て、不良学生を殴る時のことかな」

「……お恥ずかしいです」

「黒歴史」の話を持ち出されて、リカは少し恥ずかしかった。

「あの時はまだ小さくて、梅子さんのことをよく覚えていないです……」

「わたしのことを知らないのは当然よ。こうやって対面で話すのも初めてだわ。でもここ数年、あなたのことをいろいろ聞かされたの」

「誰からですか?」

「わたしの弟子、ひつじちゃん。いつもお世話になっているのね」

「羊さんは、梅子さんの弟子ですか?!」

リカは驚いた。

羊という人はリカがいつも法具を頼んでいる人だ。

ガイアリングの破壊方法についても彼女に相談した。

数年前、あかりを悪意の異能力攻撃から守るために、リカはあちこちに法具を尋ねていた。

尋ねた人のレベルが足りないのか、子供をなめていて手抜きをしたのか分からないけど、できた法具はいつも中途半端で、あまり役に立たなかった。

その時、なんとか万代家から離脱して、生計に困っていた羊は、どこからリカが法具を探しているのを聞いて、リカに自分の「試作品」を送った。

その試作品は見事にあかりをいろんな異能力攻撃から守った。

それ以来、リカは羊の常連客となった。

あんな優秀な弟子を持っている梅子、高い異能力の持ち主に違いない。


「話は分かったわ。今回の対面が許されたから、わたしが手助けをしても反対されないはずよ。人助けのためなら、わたしも断る理由がない」

リカとマサルから詳細を聞いたら、梅子はその場でうなずいた。

「今わたしが持っているすべての霊力をあげるわ。その星空の石をください」

「すみません。今は持っていません」

リカは申し訳なさそうに説明した。

「それを奪おうと企んでいる人がいるので、持ち歩くのは危険だと思うから、私しか知らない安全なところに保管されています」

それを聞いて、マサルは密かに驚いた。

「協力してくださる皆さんをある秘密の場所に招待しようと考えています。不届き者にチャンスを与えず、その場でエネルギーをいただいて扉を開ける予定です。梅子さんは外出できますでしょうか?」

「場所によるけど……」

梅子は少し考えたら、解決方法を思いついた。

「そうだわ。お二人とも、異能力者だよね」

「いいえ、私は異能力がないです」

リカは頭を横に振った。

「そうなの?まあ、異能力者じゃなくても可能性があるわ」

梅子はリカを見つめて、少し戸惑ったが、深く問い詰めなかった。

「可能性というのは?」

「わたしの異能力は、エネルギーの移転と保存に関係する能力よ。あなたたちを保存媒体にすることができるわ」

「そんなこと、できるのですか!」

マサルは驚いた。

梅子は両手でそれぞれリカの左手、マサルの右手を引いて、目を閉じた。

すると、二人の体は暖かい赤い光に包まれた。

「異能力、あるいは霊力というものはね。自然や目の見えない次元に存在する特別な資源のようなものよ。生まれつきでその資源に繋がっていて、異能力を使える者もいれば、法具など媒体に通じてその資源を引き出せるものもいる。それ以外に、『刻印』などの改造で、強制的にその資源に繋がることもある」

梅子は穏かな声で、二人に説明をした。

「しかし、資源も持つことと、その資源を使えることは別もの。異能力を使えなくても、持つことはできる。普通人間でも、自分自身の引力を利用し、異能力となるエネルギーを自分の体内に保存することや、エネルギーを引き寄せることができる。ただ、人によって、持てるエネルギーの容量が違う」

そう言いながら、梅子は目を開いて、リカを見つめる。

「リカちゃんの容量は十分だわ」

「私が……?!」

リカは信じられない表情になった。

「容量の大きさと異能力の強さは必ずしも関係があるわけではないわ。例え名刀を持っていても、鞘に収めるままだと、敵を切ることができないでしょ?」

梅子はマサルの手を放して、両手でリカの両手を掴んだ。

梅子の体から、とても強い赤紫の光が浮き上がって、リカの

体に流れ込んだ。

「帰ったらわたしに電話をして、外に移転する方法を教えるわ」

「ありがとうございます!」

体に入ったその暖かい光は、またリカに大きな希望を与えた。


「梅子さん。一つ、聞いてもいいですか?」

梅子さんの好意で、三人はソファーに座って、お茶一杯をした。

雑談中に、リカは梅子に先ほど感じる疑問を聞いた。

「梅子さんはこれほどの力を持っているのに、どうして軟禁のことを黙認したのですか?弟子の羊さんでも万代家から脱離できて、梅子さんは本気に離れようとしたら、止められる人はいないと思います」

少し間をおいて、梅子は平然に答えた。

「行きたいところはないから」

「!?でも、聞いた話によると、梅子さんは万代家を離れると言い出したから……そうじゃなかったのですか?」

「万代家のやり方を認めないから、それ以上一緒に仕事をやりたくなかっただけよ。ほかのところへ行くなんて、考えもしなったの。わたしの両親も祖父の代も万代家の人よ。この家はわたしのすべての世界。わたしは外との繋がりを持っていないの。

それに、わたしの力はあなたが想像したような強いものじゃないわ。万代家のような高級異能力者の足りない組織では重宝視されていても、一旦外に出たら、せいぜ普通のレベルだわ」

「あれって、普通……?」

リカは自分の両手を見て、困惑した。

異能力を使った経験のない彼女でも梅子の力から強い波動を感じられるのに、あれは異能力の世界では普通のレベルなの?

「そうよ。異能力の世界の頂点に立っているのは、やはり古代神の末裔か、天国ヘブンの聖嬰でしょう」

「天国の、聖嬰……?」

その単語に引かれて、リカは梅子と目が会った。

「聖嬰」は、「テロリスト」から聞いたばかりの言葉だ。

「天国」というのは、長年に万代家と様々なトラブルで衝突した異能力組織の名前――

「新世界」の前身でもあるものだ。

この二つが繋がっているということは……

「天国は知っています。聖嬰は、今日聞いたばかりです。なにか、前世の記憶を持っている子供のことのようで……」

「前世の記憶だけじゃないわ。ほとんどの聖嬰は、次元を超える強い異能力を持っているの。特に、わたしのような並みの異能力者が決して持たない、時間と空間を操る能力」

「……」

リカは目じりでマサルを覗いた。

聖嬰の情報は、マサルから聞いたものと違う。

彼も知らないのか、それともわざと異なる情報を伝えたのか?

マサルの顔色が不自然になった。

わざと黙っていたようだ。

「ほかにも、聖嬰は母親の腹から生まれたのではなく、空から落ちてきたものとか、古代から伝われた天使の遺伝子で作られたクローンとか噂があるけど、確かめるようがないわ」

三人でいろいろ世間話をしていたら、ボディーガードの男が入ってきて、時間だと二人を催促した。


対客の時間も本人の意思で決められないのか……

リカは思わずボディーガードたちを睨んだ。

「いいのよ、リカちゃん」

梅子はリカを呼びかけた。

「ここでの生活にはもう慣れている。別にやりたいこともないわ。リカちゃんはまだ若いから、やりたいことや行きたいところがあれば、迷いなく進めばいいわ」

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