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第二十章 二つの宴会

92 意外な家系

奇愛きあの出身って、趙氏ちょうし財団だろ?」

「それだけじゃない。趙氏財団の後ろに、とある暗黒家族がある」

「それは初耳だな」

初耳だけど、イズルにとって、趙氏財団の後ろに暗黒家族があるのは驚くことではない。

現に、神農しんのうグループも暗黒組織の万代家と繋がっているから。

「私も完全に忘れていたわ。今日軌跡から『戦の神様、蚩尤しゆうの血を受け継げた女子』と聞くまで」

「!」

イズルは一瞬で目を張った。

でも、すぐに困りそうに自分の額を抑えた。

「嘘だろ……」

「信じないの?」

「そういう問題じゃない」

イズルは長い息を吐いた。

「奇愛が小さい頃からああだった。自分は神様の末裔だとか、よくオレに威張っていた。小さいオレは全然信じられなくて、『お前が神様の末裔だったら、オレは女装でミュージカルの生配信をやってやる』とまで言い出したんだ……結局、奇愛はそれを証明できなかったけど……」

「……」

リカはイズルを見る目に、憐憫という感情が含まれた。

「私も証明しない……信じなくていいから」

「それはさておいて……趙氏財団の後ろの暗黒家族のことを話そう」

イズルはやばそうな話題を逸らした。

「その暗黒家族は新世界とはどういう関係?」

「新世界の上層部の何人が、その家族からの出身のようだ。それ以外、両者の関係は良くも悪くもない。少なくても、表では新世界はその家族を特別視していない。奇愛を優遇する理由も、加害する理由も見つからない。

 でも仮に、ウィングアイランドとガイアリングは同じ、異能力をどうにかする機能を持っている場合。奇愛は良い実験体になる」

「その……神の血を引いた末裔だから?」

「そう。奇愛は異能力がないように見えるけど、潜在能力が一番高い人間として、被験者に選ばれるのもおかしくないでしょ」

「しかし、異能力をどうにかするなら、新世界にはもっと便利な方法があるんじゃない。島を作って、全世界で人を募集するような手間をかけるかな……」

イズルはやったばかりのことを思うと、リカの分析に納得できなかった。

「それで、あなたはそのもっと便利な方法で、異能力をどうにかしたの?」

「そうだな、それは……!!」

リカがさりげなく聞いたら、思考に集中するイズルは思わず口を滑らせた。

「やっぱり」

リカの視線は厳しくなる。

いたずらが親に掴まれた子供のように、イズルは慌てて弁解する。

「確かに、試してみたけど、でも、ほら、こうして、何もないんだ。平気だ。それに……オレは、新世界と約束があるんだ。奴らはオレの復讐に手伝い、オレに危害を加えない……」

久しぶりにリカの氷点下目線に注目されて、イズルは降参した。怪しい承諾書のところを除いて、異能力を高める経過を白状した。


「……そんな装置、聞いたことはない。でも確かに、そのような便利な方法があったら、異能力を高めるために島を作らないでしょう。あるいは、その装置に何か制限があって、やはり規模の大きな島が必要だとか……それとも、あの島は、別の目的で作られたのか」

リカは考えれば考えるほど表情が詰まっていく。

「あなたと奇愛は共通性があるけど、状況が違いすぎ、もっと情報を集めないと……」

奇愛との共通性、イズルはなんとなくさげられたような気分になった。

そもそも、自分の家はなんで趙氏財団とあんな親密な関係になったんだ……!

ふいと、イズルはヒントを思いついた。

「そういえば……うちのグループの名前、『神農』って、あの戦神『蚩尤』と同じ、中国の神話の中のキャラだよな」

「キャラって言わないでほしい……」

知っているのはいいけど、その言い方だと、どうせどこかのゲームで知ったのだろうとリカは思った。

「三皇五帝、中国の伝説によると、それらは不思議な力を持つ上古時代の帝王たち。神農氏は三皇の一人だと伝わっている。五帝の一人という説もある。戦神蚩尤は五帝に倒された暴君のような存在、由来が繋がっている。ということは……あなたと奇愛の家系も繋がっている可能性が高い」

「信じたくないけど……その線はありな」

奇愛が自分に対する態度は、先祖時代からの敵対関係からのもかもしれない……と思うと、イズルはなんとなく納得した。

「さっき言ってた趙氏財団の後ろの暗黒家族は、戦神蚩尤の末裔と自称している。でも、ほかの三皇五帝の家族はすでに解体したと聞いた」

「だよな、うちは神様の末裔だなんて、オレもそんなのを聞いたことはない……いいえ、教えられていないだけかも」

イズルの目の中の光が沈んだ。

小さい頃から反逆的な彼に、大人たちはそんなあやふやな伝説を教えるわけがない。

彼が家の歴史を背負う覚悟ができる前に、家族はいなくなった。

「イズ……」

リカはイズルの情緒に気づいて、話をかけようとしたら、イズルのほうから先に提案した。

「情報が少なすぎるなら、人を呼び寄せて聞けばいいだろ?」

「呼び寄せる?」

「もうすぐオレの誕生日だ。博司さんや英子さんたちはお祝いの宴会を用意してる。宴会を言い訳に、趙氏財団の後ろの奴らを誘うと思う」

「なるほど……11月22日なの?」

「知っている?」

誕生日が覚えられて、イズルの気持ちは躍起した。

「この間、入族資料で見たばかりよ」

「……それか」

がっかりするほどのことじゃないけど、期待したパターンと違うのがやはり気が沈む。

「とにかく、オレは誕生日で暗黒組織の人を招待すると思う。でも、オレはそちらの人間のことについて詳しくない。呼んだほうがいいと思う人がいれば、教えてほしい。あと、リカも一緒に来てくれれば、話が早くなると思う」

「後で人選のリストを作る。でも、私は行かない」

「!どうして?」

イズルは驚いた。

「その日、私の両親が帰国する日でもある。祖父は別の宴会を用意したの」

「……」

なぜその日……

それは偶然なのか、それとも誰の仕組みなのか……

どのみち、イズルはよい気持ちにならない。

それでも、リカの家の行事を止められない。

ちょっと待って、この間、リカから聞いた覚えがある。

――あのマサルはリカの家の宴に招待されたそうだ。

やばいじゃないか。

自分はマサルの代替品になるはずなのに、現に、自分が排除され、あいつがリカの家族と食事をする……

リカはイズルの考慮が知らなくて、話を続ける。

青野翼あおのつばさがついているから、私がいなくても大丈夫でしょう。あと、前の宴会みたいに、エンジェのような敵意を持つものが入り込むかもしれない、用心深く気を付けてね」

ダメもとで、イズルはわざと心細い表情を作った。

「一人じゃ怖くて何もできないと言ったら、こっちに来てくれる?」

「……その様子だと、大丈夫そうね」

リカは塩表情で言葉を返した。


こっちはプライドを捨てて甘えるのに、その反応か……

イズルは心の中で苦笑した。

でも、リカのそういうところがいい。

偽りや心の込めていない言動に動揺しない。

本当に彼女を必要とする時に、きっとくる。

こうして、ウィングアイランドのことをいろいろ考えてくれているのも、万代家と新世界の争いのためだけではなく、自分を心配しているからだろう。


けど、それだけじゃ足りない。

こんな状況に落ちたのは自分じゃなく、別の仲間の場合も、リカはその人のためにいろいろをするだろう。

リカにとって、自分は一体どれだけ特別なのか、知りたい。


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