「
「それだけじゃない。趙氏財団の後ろに、とある暗黒家族がある」
「それは初耳だな」
初耳だけど、イズルにとって、趙氏財団の後ろに暗黒家族があるのは驚くことではない。
現に、
「私も完全に忘れていたわ。今日軌跡から『戦の神様、
「!」
イズルは一瞬で目を張った。
でも、すぐに困りそうに自分の額を抑えた。
「嘘だろ……」
「信じないの?」
「そういう問題じゃない」
イズルは長い息を吐いた。
「奇愛が小さい頃からああだった。自分は神様の末裔だとか、よくオレに威張っていた。小さいオレは全然信じられなくて、『お前が神様の末裔だったら、オレは女装でミュージカルの生配信をやってやる』とまで言い出したんだ……結局、奇愛はそれを証明できなかったけど……」
「……」
リカはイズルを見る目に、憐憫という感情が含まれた。
「私も証明しない……信じなくていいから」
「それはさておいて……趙氏財団の後ろの暗黒家族のことを話そう」
イズルはやばそうな話題を逸らした。
「その暗黒家族は新世界とはどういう関係?」
「新世界の上層部の何人が、その家族からの出身のようだ。それ以外、両者の関係は良くも悪くもない。少なくても、表では新世界はその家族を特別視していない。奇愛を優遇する理由も、加害する理由も見つからない。
でも仮に、ウィングアイランドとガイアリングは同じ、異能力をどうにかする機能を持っている場合。奇愛は良い実験体になる」
「その……神の血を引いた末裔だから?」
「そう。奇愛は異能力がないように見えるけど、潜在能力が一番高い人間として、被験者に選ばれるのもおかしくないでしょ」
「しかし、異能力をどうにかするなら、新世界にはもっと便利な方法があるんじゃない。島を作って、全世界で人を募集するような手間をかけるかな……」
イズルはやったばかりのことを思うと、リカの分析に納得できなかった。
「それで、あなたはそのもっと便利な方法で、異能力をどうにかしたの?」
「そうだな、それは……!!」
リカがさりげなく聞いたら、思考に集中するイズルは思わず口を滑らせた。
「やっぱり」
リカの視線は厳しくなる。
いたずらが親に掴まれた子供のように、イズルは慌てて弁解する。
「確かに、試してみたけど、でも、ほら、こうして、何もないんだ。平気だ。それに……オレは、新世界と約束があるんだ。奴らはオレの復讐に手伝い、オレに危害を加えない……」
久しぶりにリカの氷点下目線に注目されて、イズルは降参した。怪しい承諾書のところを除いて、異能力を高める経過を白状した。
「……そんな装置、聞いたことはない。でも確かに、そのような便利な方法があったら、異能力を高めるために島を作らないでしょう。あるいは、その装置に何か制限があって、やはり規模の大きな島が必要だとか……それとも、あの島は、別の目的で作られたのか」
リカは考えれば考えるほど表情が詰まっていく。
「あなたと奇愛は共通性があるけど、状況が違いすぎ、もっと情報を集めないと……」
奇愛との共通性、イズルはなんとなくさげられたような気分になった。
そもそも、自分の家はなんで趙氏財団とあんな親密な関係になったんだ……!
ふいと、イズルはヒントを思いついた。
「そういえば……うちのグループの名前、『神農』って、あの戦神『蚩尤』と同じ、中国の神話の中のキャラだよな」
「キャラって言わないでほしい……」
知っているのはいいけど、その言い方だと、どうせどこかのゲームで知ったのだろうとリカは思った。
「三皇五帝、中国の伝説によると、それらは不思議な力を持つ上古時代の帝王たち。神農氏は三皇の一人だと伝わっている。五帝の一人という説もある。戦神蚩尤は五帝に倒された暴君のような存在、由来が繋がっている。ということは……あなたと奇愛の家系も繋がっている可能性が高い」
「信じたくないけど……その線はありな」
奇愛が自分に対する態度は、先祖時代からの敵対関係からのもかもしれない……と思うと、イズルはなんとなく納得した。
「さっき言ってた趙氏財団の後ろの暗黒家族は、戦神蚩尤の末裔と自称している。でも、ほかの三皇五帝の家族はすでに解体したと聞いた」
「だよな、うちは神様の末裔だなんて、オレもそんなのを聞いたことはない……いいえ、教えられていないだけかも」
イズルの目の中の光が沈んだ。
小さい頃から反逆的な彼に、大人たちはそんなあやふやな伝説を教えるわけがない。
彼が家の歴史を背負う覚悟ができる前に、家族はいなくなった。
「イズ……」
リカはイズルの情緒に気づいて、話をかけようとしたら、イズルのほうから先に提案した。
「情報が少なすぎるなら、人を呼び寄せて聞けばいいだろ?」
「呼び寄せる?」
「もうすぐオレの誕生日だ。博司さんや英子さんたちはお祝いの宴会を用意してる。宴会を言い訳に、趙氏財団の後ろの奴らを誘うと思う」
「なるほど……11月22日なの?」
「知っている?」
誕生日が覚えられて、イズルの気持ちは躍起した。
「この間、入族資料で見たばかりよ」
「……それか」
がっかりするほどのことじゃないけど、期待したパターンと違うのがやはり気が沈む。
「とにかく、オレは誕生日で暗黒組織の人を招待すると思う。でも、オレはそちらの人間のことについて詳しくない。呼んだほうがいいと思う人がいれば、教えてほしい。あと、リカも一緒に来てくれれば、話が早くなると思う」
「後で人選のリストを作る。でも、私は行かない」
「!どうして?」
イズルは驚いた。
「その日、私の両親が帰国する日でもある。祖父は別の宴会を用意したの」
「……」
なぜその日……
それは偶然なのか、それとも誰の仕組みなのか……
どのみち、イズルはよい気持ちにならない。
それでも、リカの家の行事を止められない。
ちょっと待って、この間、リカから聞いた覚えがある。
――あのマサルはリカの家の宴に招待されたそうだ。
やばいじゃないか。
自分はマサルの代替品になるはずなのに、現に、自分が排除され、あいつがリカの家族と食事をする……
リカはイズルの考慮が知らなくて、話を続ける。
「
ダメもとで、イズルはわざと心細い表情を作った。
「一人じゃ怖くて何もできないと言ったら、こっちに来てくれる?」
「……その様子だと、大丈夫そうね」
リカは塩表情で言葉を返した。
こっちはプライドを捨てて甘えるのに、その反応か……
イズルは心の中で苦笑した。
でも、リカのそういうところがいい。
偽りや心の込めていない言動に動揺しない。
本当に彼女を必要とする時に、きっとくる。
こうして、ウィングアイランドのことをいろいろ考えてくれているのも、万代家と新世界の争いのためだけではなく、自分を心配しているからだろう。
けど、それだけじゃ足りない。
こんな状況に落ちたのは自分じゃなく、別の仲間の場合も、リカはその人のためにいろいろをするだろう。
リカにとって、自分は一体どれだけ特別なのか、知りたい。