道路に来て、リカはタクシーを呼ぼうとしたら、一台の車が彼女の前に止まった。
その車は見覚えがある――マサルのものだ。
運転席に座っているマサルは扉を開けて、軽やかに笑った。
「送るよ」
「どこまで送るつもり?」
リカは冷たい言葉を返した。
マサルはまだ落合に繋がっているから、イズルが流した情報を知っているのもおかしくない。
肝心なのは、彼は何をしに来たのか。
「もちろん、リカがあのイズルと約束した場所だ。今夜に異世界に行くのだろ?その前に、伝えたいことがある。言わなければ、前回のように、お互いにも遺憾を残すかもしれない」
「短くして」
ここまできたから、きっと打算がある。
(イズルの邪魔にさせないわ……)
リカは戦いに挑むつもりで車に入った。
マサルは満足そうに車を出した。
でも、十分が経っていても何も話さなかった。
「話は何?」
リカは催促をした。
「まず、リカは俺に話がないか聞きたいんだけど……なさそうね」
マサルは自虐そうに笑った。
「質問ならある。今のマサルさんは、誰のために働いているの?私を送る目的は?」
リカは鋭い目線でマサルを追い詰めた。
「リカの中の俺は、もうすっかり悪役だね。俺たちはこうなるべきではなかったのに」
「……」
「昇龍ホテルから帰ってから、リカの話をずっと考えていた。確かに、俺はみんなに認めてもらいたい。天童大宇の孫ではなく、俺自身として認めてもらいたい、とくに、あなたの認めが欲しい。
だけど、俺は弱かった。いつしかその気持ちが歪んだ方向に行ってしまった。そのため、俺は重い罰を受けた。俺がリカを諦めて選んだあの人たちに、俺の人生はすでにめちゃくちゃにされた」
マサルが同情を買おうとするのは初めてじゃない。
リカはもうその下手芝居を見飽きた。
だけど、その自己放棄な言い方はあまりにも気持ち悪く、リカは我慢できず毒舌を吐いた。
「マサルさんは今年いくつ?ここで人生を論じたら、随分短い人生になるんじゃない?」
その毒舌を聞いて、マサルは逆に楽しそうに笑った。
「やっぱり、リカは優しいね。今でも俺に長い生きてほしいんだ」
ちょうど赤信号になって、マサルは車を止めて、顔をリカに向けた。
「!」
リカはびっくりした。
マサルの目の色は、水色になっている。
確かに、一緒に梅子さんを訪問する夜に、彼の目がピンクになったことがある。
「本当は、ずっと知っているんだ。リカはお人よし。弱いものを放っておけない。知らないふりをしていたのは、リカの優しさを受け入れる勇気がないからだ」
その甘えんでいる口調も、いつもの彼ではない。
マサルの精神状態は明らかに不穏だ。
そのような揺れ揺れな精神状態はリカにあかりを思い出させた。精神攻撃をかけられた頃のあかりは、よくそのような状態でいた。
マサルは精神攻撃をかけられたのか?
「あなたは……」
リカは何かを聞こうとしたら、マサルは病んでいる口調で願った。
「俺は本当に後悔している。反省している。この世界にはもうごりごりだ。だからお願い、俺を異世界に連れて行ってくれ」
「異世界」という言葉は、針のようにリカの神経を刺さった――今はどんな顔を見せられても、自分にとって、イズルにとって、異世界に残されたみんなにとって、マサルは危険な相手だ。
リカは一人の人間としての同情心を殺した。
「無理よ。私はあなたの思っているお人よしじゃない」
「あのイズルはいいのに、俺はだめ?不公平じゃない。俺から見れば、あいつは俺と区別がないよ」
「一緒にしないでほしい」
「ふふ、彼を庇うのはもうくせになったのか?でも、俺は言う。彼は昔の俺だ。同じく違法商売を営む家から出身、同じく万代家に家族を殺された、同じく万代家に入って、同じ老人の傘下に入る、隣に、同じあなたがいる――」
「それでも、彼はあなたと違う道を選んだ」
リカはマサルの話を断ち切った。
信号が緑に切り替えたら、マサルは再び車を出しながら、気味悪く笑った。
「その道は、『復讐』?それとも、『リカ』?」
「どういう意味?」
リカは警戒心をさらに高めた。
その時、マサルの目がまた色が変わった。
色だけではない、瞳の形もチラチラと変わり始める。
まるで、たくさんの人の瞳がマサル目で次々と切り替わるように。
「これは、まさか、刻印反噬!?」
「リカは俺の異能力の副作用を知っているけど、刻印反噬を見たのは初めてだろう」
マサルは慌てずに説明をした。
「他人に侵入する同時に、俺はしばらく他人の性格や思考パターンに同調する。いつもなら、すぐ自分の思考に戻れるけど、最近、情報収集のために使いすぎたかな、だんだん分からなくなった。今やっていることは、本当に俺のやりたいことなのか、それとも、誰かさんの移しなのか……」
「車を止めて」
危険の匂いがどんどん増して、リカはすぐ要求を出した。
「止めないよ。だって、リカはこれからあのイズルに合流して、彼の復讐に手伝うだろ?」
「!」
「別に俺を陥れた落合の味方にするんじゃないよ。あのイズルの復讐に決定的な証拠を提供したのも俺だから。ただ、俺の成し遂げなかったことを挑戦しようとするあいつに嫌がらせをしたい――リカか、復讐か、彼はどちらを選ぶのだろう」
マサルの目的を知って、リカは逆に安心した。
「イズルは私の手伝いが要らない。選ぶ必要もない」
「!」
意外なのはマサルのほうだった。自分のよからぬ打算を聞いたのに、リカは何故そんなに落ち着けるの?
マサルがリカの意味を悟る前に、リカは更に真剣に要求した。
「三秒をあげる。車を止めて」
「……」
マサルは応じなかった。
車のドアはロックされている。リカは出られない。
「3、2、1――」
数え終わった途端に、リカは思いきりマサルのネクタイを引っ張って、一本のナイフをマサルの頸に押し付ける。
「!!」
マサルが反射的にナイフを避けようと体を傾けたら、リカはその隙にハンドルを握り、車の進行方向を変えながらブレイキーを踏んだ。
車のタイヤは耳障りの音を叫びながら、一周回旋して、道辺のガードレールにぶつかった。
リカの一連の動作は電光火石、もともとも意識がゆらゆらのマサルは反応もできなかった。
リカはドア開けのボタンを押したが、すぐ出なかった。
マサルの座席を後ろに倒して、ナイフをマサルの頸に当てた。
「ガイアリングでの警告を聞き入れなかったみたいね」
「!!」
怖がるつもりはないのに、マサルの全身が凍らせた。
こんなリカを見たことはない。氷のような冷たい目に、熱い炎が宿っているように見える。
この時のリカは、確かに、そのナイフを自分の喉に刺せるだろう。
「もっと穏便なやり方もあるけど、どうやら、マサルさんは都合のいいことを妄想しやすいから、義理の姉としてあなたを教育しなければならない」
「も、妄想……だと?」
マサルは辛うじて声を絞り出した。
「私はお人よしという妄想よ!」
リカは迷いなくナイフを振り下ろした。
「!!」
マサルは死の覚悟をして目を潰した。
だが、そのナイフは彼の頭の至近距離で背もたれに刺し込まれ、一縷の髪の毛を切っただけだった。
マサルは一息をしたばかり、リカはまた何処から一本のテーザーガンを出した。
「人の大切なものを踏みにじる時、覚悟をしたほうがいい。どんなに争いが嫌な人でも、大切なもの守るために冷酷になれる」
今回、リカは容赦なくそのテーザーガンをマサルの体に押し付けた。
気絶の瞬間、マサルはやっと認めた。
リカの言う通り、彼は妄想好きで、都合のよい妄想をしていた。
リカがお人よしだったら、自分がやったすべてのことはコストなしになれる、許される。自分はまだ、リカの隣に戻れる。
彼はずっとリカに憧れを持っていた。
しかし、リカという人間を到底理解できなかった――
リカはテーザーガンを収めて、車から降りろうとしたら、マサルのスマホが鳴った。
画面に表示された名前はようこ。
念のため、リカは電話に出た。
「マサルちゃんこんばんは!あなたのようこちゃんだよ!二次会メンバー絶賛募集中!」
声を聞く限り、ようこはかなり酔っぱらっているみたい。
「……」
リカは黙っていたら、ようこのほうからもっと騒ぎ出した。
「あら、まだエンちゃんのハーレムのことで病んでるの?だからもう言ったでしょ?マサルちゃんだけじゃないのよ!エンちゃんはほかの男も信用していないの!まだ愚痴があるならうちにぶつけてきて!うち、全~部やさしく受け入れるから!」
「……」
どうやら、マサルと一緒に行動していないようだ。
ようこは今夜の件に無関係だと判断したら、リカは返事をした。
「マサルは交通事故にあった。白鳩街の中央銀行の付近いにる。迎えに来てください」
「?えっ、あ、あなた、その声、まさか、リカ――!?」
リカの声を耳にして、ようこは尖った叫びを出した。
「なんでなんでなんであなたがマサルちゃんと一緒にいるの???まさか、復縁!?そんなのありえないよ!エンちゃんは知っている?エンちゃんが納得してもうちは納得しないよ!!」
もうようこの混乱な叫びを聞く必要もないので、リカはようこ電話を切った。念のため、救急車を呼んだ。
それから、事故に注目している通行人たちに紛れ込んで、タクシーでイズルの製薬工場へ向かった。