何事かを呟いた直後、プリムは北沢の元まで行って力強く叫んだ。
「未沙希! 今すぐ『結界魔法』を発動してください!!」
逼迫感をひしひしと感じるプリムの声色。
突然の指示に北沢は困惑した。
「え、結界魔法……?」
「さっきお前のステータス画面に表示されてた魔法のことだ! そうだろプリム!」
俺が補足すると、プリムはこくりと頷いた。
「遊一の推測通り、恐らくレッドトロールは家を蹴り破ることで瓦礫を飛散させ、無差別な広範囲攻撃をしてくるつもりです! 今はレッドトロールの視界から外れているかもしれませんが、おおよその位置は特定されているでしょう。それに上空から降り注ぐ瓦礫から完全に逃れられるかは分かりません」
「だったら、北沢の結界魔法で守ってもらおうってことか!?」
「はい! このまま逃げ惑っているだけではいずれ被弾する可能性が高いです! それなら、早い内に結界魔法を発動させて防御を固めるのが先決かと!」
先ほど俺の家のリビングで今後の話し合いをしていた際、北沢のステータス画面を見せてもらった。
たしか現時点で北沢が持っているのは、炎魔法と回復魔法、そして結界魔法の三つ。
その内、炎魔法だけレベル六で、それ以外は両方ともレベル一だったか。
結界魔法で防御を固めるというのは良い案だが、俺は一つ疑問が浮かぶ。
「だが、たしか北沢の結界魔法はレベル一だったろ! それで使いもんになるのか!?」
「ええ、問題ありませんよ。なぜなら、ここに私がいるからです!」
プリムは悪どい笑顔を
……そうだったな。
こいつはサポート妖精。
名目上は俺のサポートを請け負う役割で宛がわれた存在ではあるが、こと戦闘に関して言うならば俺よりも北沢の方が相性が良い。
たしかに、プリムの補助があればレベル一の結界魔法であったとしても実戦で使える練度まで高められるか?
かすかな希望が見えたと同時、不意に凄まじい轟音が背後から駆け抜けた。
――――ドゴゴゴガガガガァァァアアアアアアアアアアアアアン!!
「ッ!? ヤバい! あのデカブツ、マジで範囲攻撃仕掛けてきやがった!!」
「未沙希! 急いでください!!」
「え、えっ!? わ、わわ、わかったけど、魔法ってど、どうやれば――」
「魔力を込めて、私と同じ言葉を叫んでください! いきますよ!」
「おい!! 瓦礫が降ってくるぞ!!」
プリムが北沢に耳打ちしている間に、頭上をいくつもの建築資材や崩壊した外壁の一部、果てには砕けた屋根などが飛び散っている。
それらは無秩序に住宅街に散乱していき、至る所から衝突音や土煙が断続的に上がっていた。
直後、俺たちが走り抜ける道に向かい合うように建てられた戸建住宅の二階に石造りの瓦礫が直撃した。
その衝撃で、窓が粉砕してガラスを破壊する金属質な悲鳴が鼓膜を突き刺す。
「ヤッベェ……!! マジでこれ洒落にならねぇやつだぞ! おい北沢、まだかよ!?」
焦りに突き動かされるように荒々しく急かした瞬間、北沢はプリムと一緒に口を開いた。
「「シールドスフィア!!」」
直後、北沢を中心に魔力が輝き、俺たちの周囲にドーム状の球体が覆い被さった。
徐々に歩みを遅くする北沢に、俺もほどなくして足を止める。
住宅街の一角。
近隣ながら詳しくは知らない家々が建ち並ぶ通学路の真ん中で、俺たちはレッドトロールから隠れるように家の外壁に集まった。
「っ! アレは――」
上を見上げると、一つの瓦礫が今にも俺たちの元へ直撃せんと落下してきていた。
動かなければ、ちょうど俺たちの頭に命中する軌道。
その瓦礫は小型とはいえ蹴り上げられた際のエネルギーと落下時の速度が合わさって質量も増している。
当たれば即死か……少なくとも重傷は免れないダメージを負うことは必至。
そんな致命傷となりうる瓦礫が俺たちの頭上にまで接近してきて――――ガキィン!
瓦礫は球体の光の膜に弾かれ、四方に体をバラバラに砕きながら沈黙した。
バリアのように展開される結界には、傷一つついていない。
「す、すげぇ! これがお前の結界魔法か!?」
「そ、そう、なの? 私にもよく分からないんだけど……」
「もちろんですよ! これは紛れもなく未沙希が使える結界魔法『シールドスフィア』です! ただ、ちょび~っとだけ私が魔力やら魔法構築やらをサポートすることでレベル十クラスの練度まで仕上がっているだけで! つまり全てはプリティーな私の華麗なサポートのおかげで遊一も未沙希も命拾いしたというわけですよ!!」
プリムは得意気な口調で語る。
相変わらず腹立つ物言いだが、事実その通りなので言い返すことはできない。
……だが、このシールドスフィアがあればレッドトロール相手でも何とか立ち回ることができそうだ。
「ま、これで何とか『防御』は手に入れた。あとは……『攻撃』の目処をつければ、勝機が見えてくるかもしれねぇ」