北沢の結界魔法とプリムのサポートのおかげで、ひとまず防御面は安心できるようになった。
少なくとも、上空から降ってくる瓦礫に巻き込まれるということはなさそうだ。
となれば、次に考えるべきポイントは自ずと決まってくる。
「あとは……『攻撃』の目処をつければ、勝機が見えてくるかもしれねぇな」
北沢が防御を担ってくれている以上、攻撃は俺の役割だ。
ぶっちゃけあの巨人を倒せるイメージは明確に浮かばねぇんだが、こうなった以上やるしかない。
俺は手元に【不棄の雷双剣】を出現させた。
「瓦礫の雨が止んだな。今のうちにここから離れよう。北沢、この結界は維持したまま、さっきと同じように走れるか」
「た、多分いけるわ。プリムちゃんがサポートしてくれているおかげか、そんなに魔力? も消費しないし」
「ふっふっふ、そうでしょう。私、魔力量には自信があるのですよ」
プリムは腕を組みながら、ふてぶてしく笑った。
だが、今は頼もしさの方が勝っている。
「オッケーだ。なら、お前たちはこのまま直進してレッドトロールから離れろ」
「う、うん。私もそうしようと思ってたんだけど、神崎君は?」
「俺は――ちょっくらエリアボスさんとやらに挨拶してくるわ」
ガチャリ、と双剣を構える。
意気込み……という表現が正しいのかは分からないが、闘志はある。
しかし北沢はぎょっとした顔で俺に掴みかかってきた。
「はあっ、あの化け物に立ち向かうつもり!? 無謀よ! 見たら分かるでしょう!? あんなモンスター、私たちが敵う相手じゃないわよ!!」
「かもな。だが、このまま防御に徹しながら逃亡を続けててもジリ貧だ。まあ、あのデカブツが時間制限付きのモンスターだってんならタイムアップまで逃げきるっていう戦略もアリなんだが……」
言いながら、尋ねるようにプリムに目配せした。
俺からの視線を受け取った妖精は、肩をすくめながら残念そうに首を振る。
「私も真っ先にそれを調べました。ですが、生憎そのようなプレイヤーに都合のいい条件で緊急シナリオを発生させるほど、《新世界》の管理者は良心的ではないようです」
「……なるほど。いわゆるスキップ不可の強制イベントってことか」
「はい。そしてこのボスを倒せば、『チュートリアル』は完了みたいですよ」
『チュートリアル』。
管理者Xと邂逅した際、あの女が言っていた意味深なワードだ。
恐らく『メインシナリオ』だとかいうモンに関わってくるんだろう。
つまり、あのレッドトロールは言わば一つの分水嶺。
俺たちプレイヤーが乗り越えなければならない最初の関門ってことか。
「チッ。ったく、初見さんに不親切なソフトはすぐに廃れるっつーのに。ゲームバランス狂い過ぎなんだよなぁ」
しかし、これで選択肢は一つに絞られた。
代案はない。
誰かがレッドトロールを討ち取れるだけの攻撃を仕掛け、立ち向かわなければならないのだ。
覚悟を決め、俺は一歩踏み出した。
「プリム、北沢を頼んだぞ」
「この超絶プリティー妖精プリムちゃんにお任せを! 遊一のサポート役として、しっかりと未沙希の命は守ってあげましょう!」
「ち、ちょっと神崎君!?」
プリムはぽんっと自分の胸を叩いた。
北沢は俺に手を伸ばしてくるが、その制止を振り切る。
「心配してくれてありがとな。でも悪ぃが、俺は行くぜ北沢。だって……こんなワクワクすること、他にねぇんだからよ――ッ!!」
「っ……!」
俺は今、無意識に口角が吊り上がっていることに気づいた。
それと同時に、北沢は理解できないモノを見るような目付きで不自然に固まる。
が、今の俺にはそんなことどうだっていい。
この心臓の高鳴りが、俺がやるべき行動を指し示す羅針盤だ。
「それじゃ、いっちょ反撃といきますか。お前ら、とにかく死ぬんじゃねぇぞ!」
それだけ言い残し、俺は
体から朱のオーラが漂い、強化された肉体で走り出す。
俺たちが来た道は、先ほどの無差別攻撃によって所々半壊していた。
半ば瓦礫と化した外壁や家屋が視界の両端に流れていく。
「……ここらがちょうど良いか」
俺は無惨に壊された家に跳躍し、屋根に着地。
視点が数メートル高くなる。
俺の周囲を囲う遮蔽物はなくなり、街の景色が鮮明に見えた。
が、それだけではない。
必然、諸悪の根源は嘲笑うように俺の姿を捉えた。
「グフファアアアァアアア!!」
「よお、レッドトロール。さっきは一軒家丸ごと粉砕して瓦礫の雨を降らせるとか、散々な脳筋攻撃してくれたなぁ」
だが、と短く区切り。
「そろそろターン交代といこうぜ! 俺たちが雑魚だと思ってんのかもしれねぇが、精々お前のその身で確かめてみるこったな!!」
右手にある双剣の一本に魔力を込める。
バチバチッ! と青白い火花、電撃が迸った。
俺はその剣と右腕に